第28回「2022年の重要政治日程」

2021年12月23日

「2022年の金融市場を取り巻く環境は」――。

2021年も年の瀬が押し迫ってきました。今年は年初から米連邦議会議事堂襲撃事件が発生するなど、波乱の幕開けでしたが、日経平均株価は一時3万円台を回復し、FRBの金融緩和縮小観測を背景にドル円レートは年初の102円台から一時115円台のドル高・円安となりました。さて、新しい年、2022年はどのような一年になるでしょうか。

2022年の注目日程

筆者は12月になると必ず行うことがあります。それは、翌年の重要な行事・政治日程を調べることです。未来がどうなるかは不確実かつ不透明ですが、現時点で把握できる行事日程は未来予想のヒントになります。

図1は筆者が注目している2022年の重要日程です。なかでも経済・金融市場に大きな影響を与える政治日程として重要視しているのが、中国共産党大会と米国中間選挙です。

(図1)2022年の注目日程

(図1)

米国と中国、世界で経済規模の大きい1位と2位の国において、重要な政治日程が2022年の秋に集中しているのです。これらを機に景気がピークアウトする可能性があるため、パンデミックからの回復で景気上向きを一方的に追いかけて動いてきた金融市場が変調をきたすことが警戒されます。

米国の政治サイクル

米国の大統領選挙が4年ごとに実施されているのは有名です。その大統領選挙の2年後にも連邦議会選挙が実施され、下院の全議席と上院の3分の1の議席が改選されます。これが中間選挙です。

現在、大統領と上院・下院の多数派は民主党で占められており、いわゆる「ブルーウェーブ」が成立しています。しかし、最近のガソリン価格の高騰やアフガニンスタン撤退の混乱などでバイデン大統領の支持率は低下してきています。また、2022年の中間選挙に向けて、下院の選挙区割りが共和党有利に設定される州が増えていることが指摘されており、中間選挙後に「ブルーウェーブ」が終了する可能性が出てきています。

過去の大統領・上院・下院の政党の組み合わせと景気動向を比較すると、3つが同じ政党で占められている期間に景気が押し上がりやすい傾向があります。同じ政党であれば、大統領が求める経済政策を議会が承認しやすいためです。

例えば、トランプ政権を振り返ってみましょう。米実質GDP成長率は、1年目の2017年が+2.3%、2018年+2.9%、2019年2.3%と推移しました。トランプ大統領就任時の議会は、上下院とも共和党が多数派でした。これを背景に2017年12月に大規模減税が成立し、翌年の経済成長率を押し上げました。しかし、中間選挙で下院の多数派が民主党に変わり、上下院が「ねじれ」議会となり、2019年の成長率は前年よりもややペースダウンしています。

バイデン政権は「ブルーウェーブ」の現状でも、大型経済対策「ビルド・バック・ベター」の成立に苦労しています。民主党内の穏健派と急進左派が対立したことで、2021年10月に3.5兆ドルから1.75兆ドルへ規模が縮小されたのです。さらに、2022年11月の中間選挙で、大統領と議会の政党が割れる、もしくは、上下院が「ねじれ」議会となれば、経済政策運営が滞り、財政支援による景気押し上げ圧力は期待できなくなります。

中国の政治サイクル

中国の共産党大会は5年ごとに開催され、景気に5年サイクルの影響を及ぼすと見られています。共産党大会へ向けて、地方の党幹部が経済発展の成果をアピールするために、成長率が押し上げられる傾向があるためです。図2は、中国の経済成長率を5年周期で示したもので、中央に党大会の年を配置しています。過去の平均を折れ線グラフで表示していますが、党大会の前年から党大会の年へ向けて成長率がやや加速していることがわかります。

(図2)中国の実質GDP成長率(%)

(図2)

(出所:Bloombergのデータより作成)

2010年以降は成長率の減速傾向が続き、党大会の年に加速する動きは見られにくくなっています。また、2020年はパンデミックで成長率は大きく下振れし、2021年は反動で上振れしており、過去の平均的な動きからは乖離しています。とはいえ、党大会へ向けて、少なくとも緩やかな景気減速傾向を維持し、急激な景気悪化を招かないようにしたいとの思いは強いと推測します。総書記として異例の3期目を目指す習近平氏にとっても、経済の安定は必須のものでしょう。しかし、問題は党大会通過後です。実績アピールが終了した後、景気押し上げの圧力がそれまでよりも低下する可能性が高いと見ています。

2022年は米国が利上げに踏み切る可能性も高まっているため、金融市場にはストレスがかかりやすくなっています。そして奇しくも、世界の経済大国トップ1・2の米国・中国の重要政治日程が2022年秋に重なります。それらが景気ピークアウトの契機となるかもしれないため、米中の政治関連情報から目が離せません。

(三井住友信託銀行マーケット企画部 瀬良礼子)

《本資料は執筆者の見解を記したものであり、当社としての見通しとは必ずしも一致しません。本資料のデータは各種の情報源から入手したものですが、正確性、完全性を全面的に保証するものではありません。また、作成時点で入手可能なデータに基づき経済・金融情報を提供するものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資に関する最終決定はお客様ご自身の判断でなさるようにお願い申し上げます。》

執筆者紹介 瀬良 礼子

執筆者紹介 瀬良 礼子 せらあやこ

三井住友信託銀行マーケット・ストラテジスト

1990年に京都大学法学部卒業後、三井住友信託銀行に入社。公的資金運用部にて約6年間、受託資産の債券運用・株式運用・資産配分業務に携わった後、総合資金部で自己勘定の運用企画を担当。以後、現在にいたるまで、為替・金利を中心にマーケット分析に従事。

執筆者関連書籍のご紹介
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