「サミットか国連総会か、
日米首脳会談で
通商交渉大詰めへ」

2019年8月21日

「サミットか国連総会か、日米首脳会談で通商交渉大詰めへ」

「貿易に関して、8月に日米両国にとってとても好ましい発表があるだろう」――。

5月27日に、令和初の国賓として来日したトランプ米大統領はこのように述べました。この発言は、4月15日から開始している日米通商交渉を8月にも決着させる(米国にとって好ましい方向で)という、大統領の期待の表れでしょう。

日米通商交渉については事務レベルや閣僚級の協議が断続的に行われていますが、「大枠合意」がなされる日米首脳会談のタイミングとしては、8月24~26日にフランスで開催される先進7カ国首脳会議(G7サミット)、もしくは、9月後半の国連総会にあわせた安倍首相訪米が考えられます。

日米通商交渉で金融マーケットはどうなる?

日米通商交渉の主な焦点は農産物と自動車ですが、特に日本から米国への自動車輸出についてはトランプ大統領が昨年11月に「日本は不公正」と不満を示しており、どのような妥協点にいたるか注目されます。

ところで、最近の日本は貿易黒字ではありません。図1にあるように、2000年に10.7兆円の貿易黒字(輸出超過額)を得ていましたが、鉱物性燃料の輸入額が拡大していることなどを背景に、2018年には1.2兆円の赤字となっています。

(図1)日本の地域別輸出超過額

(図1)日本の地域別輸出超過額

(出所:INDB-Accelのデータより作成)

ただし、米国に対しては貿易黒字が続いており、2018年は6.5兆円でした。そのうち5.3兆円が自動車などの輸送用機器の黒字です。自動車の台数で見ると、2018年に日本は米国に174万台輸出しましたが、米国からの輸入は2万台にとどまっています。

その自動車をめぐって注目されるのは、米通商代表部(USTR)が昨年12月に公表した「日米間の貿易協定交渉の目的」の中に盛り込まれている、「為替条項」と「原産地規則」です。

「為替条項」は自国の貿易に有利になるような為替操作を禁じるもので、米自動車業界が強く要望しています。もしもこれが導入されると、円高が急速に進行したときに円売り介入が難しくなります。しかし、1ドル=100円を割り込むような事態でなければ、為替条項は存在感を発揮しないため、たとえ導入されても一時的な円高にとどまると思われます。

「原産地規則」は関税引き下げを適用する条件を定めたもので、部品の調達先を制限します。たとえば、大半の部品を日米以外の国から調達して組み立てた自動車に優遇関税を適用すると、通商協定に関係のない第三国を利することになります。原産地規則によりそれを回避します。また、従業員の賃金の安い国から部品を調達しないよう制限が課せられる可能性もあります。そうなると、日本の自動車メーカーがこれまで構築してきた部品調達体制が制約され、米国向け輸出自動車の生産に影響が出てくるかもしれません。この場合、自動車関連株を中心に日本株が下落し、リスク回避の動きから円高が進むと予想されます。

以上のように、円高方向の反応が警戒されますが、日本の経常収支の中身が昔とは変化していることにも注意が必要です。

経常収支は、端的に言うと「海外からの稼ぎ」を示します。図2にあるように、日本は経常収支黒字が続いています。しかし、内訳を見ると、貿易ではなく、投資で稼ぐ構造に変化しています。

(図2)日米の経常収支と主な内訳

(図2)日米の経常収支と主な内訳

(出所:INDB-Accelのデータより作成)

1980年代後半、日本の経常収支黒字は貿易黒字とほぼ等しい状況でした。しかし、最近は証券投資収益(外債・外株投資から得られる利子・配当)や直接投資収益(海外子会社の配当)が経常収支の主役になっています。

なかでも直接投資収益の増加は、日本国内で生産したものを海外に輸出する構造から、生産は海外子会社が行い、その子会社が稼いだ利益を配当で受け取る構造へ変化していることを示します。

実際に、日本企業による海外企業の買収や海外での子会社設立の増加傾向は現在でも続いています。ひょっとすると、日米首脳会談で、日本企業の対米投資を増やす(=米国に工場を作り雇用を増やす)というような話が出てくるかもしれません。トランプ大統領も過去に対米投資を歓迎する発言を繰り返しています。そうなると、円売りドル買いの増加で円安圧力が高まります。

8月のG7サミットか、9月の国連総会か、日米首脳会談から目が離せません。

(三井住友信託銀行マーケット企画部 瀬良礼子)

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