「米利上げ開始とドル円レート」

2022年2月25日

「3月のFF金利引き上げを想定している」――。

パウエルFRB議長は1月26日の記者会見でこう述べました。同日に公表されたFOMC声明で示された「FF金利の目標誘導レンジの引き上げが間もなく適切になると予想する」との表現から、具体的な利上げ時期に踏み込みました。

FRBが利上げ開始した後のドル円レートの動き

FRBが2020年3月に新型コロナウイルスのパンデミックへの対応で大幅利下げに踏み切って以来、初めての利上げが間近に迫ってきています。今後、政策金利の日米格差が拡大していくことになりますが、米利上げで為替レートがどのように反応するのか、過去の米利上げ局面を1990年代まで遡って確認しておきたいと思います。

最初に1990年代を振り返ってみましょう。図1は1993~2000年のFF金利とドル円レートの動きを示したものです。1994年と1999年が連続的な利上げ局面の開始時期に当たります(1997年にも単発の利上げがありました)。

(図1)FF金利とドル円レート(1993~2000年)

表1

(出所:Bloombergのデータより作成)

続いて図2は2002~2009年の動きです。この間は2004年に連続的な利上げが開始されました。この利上げ局面では、FOMCの毎会合で0.25%ずつの利上げが行われ、この利上げの動きは「メジャード(慎重な)・ペース」と呼ばれました。

(図2)FF金利とドル円レート(2002~2009年)

表2

(出所:Bloombergのデータより作成)

最後に、図3は2015年以降のFF金利とドル円レートです。2015年12月に利上げが開始されましたが、2回目の利上げはその1年後であったため、連続的な利上げ局面の開始といえるかどうか難しいところです。なお、図2と図3の間の2010~2014年は政策金利に変更はありませんでした。

(図3)FF金利とドル円レート(2015年~)

表3

(出所:Bloombergのデータより作成)

以上の3つの図で4回の利上げ開始局面を示しましたが、利上げ開始後のドル円レートを見ると、4回とも円高ドル安方向に動いていることがわかります。図2の2004年の利上げ開始時は、直後は円安ドル高で反応したものの長続きせず、4ヵ月ほど横ばい圏で推移した後、円高へ振れました。図3の2015年の利上げを単発と見て、2016年12月の利上げを連続利上げの開始と捉えたとしても、やはり円高に動いています。

もちろん、米国の政策金利だけで為替レートが決定されるわけではないので、その他の要因も考慮する必要がありますが、過去の利上げ開始時のドル円レートの反応を見ると、金融市場の格言として知られる”Buy the rumor, sell the fact”、つまり「噂で買って事実で売れ」が思い起こされます。

金融市場は将来を先取りして動く

「噂で買って事実で売れ」は、ニューヨーク株式市場から出てきたと言われますが、買い材料は思惑のうちに株価に織り込まれ、事実として公表された時には十分に株価が上昇してしまっていることを意味します。為替レートを株価と同一視することはできませんが、金融市場が将来を先取りして動く性質は共通しています。

実際に、図3にあるように、2021年の円安ドル高傾向は、将来の米国の利上げ開始を先取りして動いた側面があります。2021年前半の円安ドル高は利上げよりも財政出動や資産買い入れ縮小(テーパリング)観測が主因と見ていますが、2021年後半の円安ドル高は、FRBが2022年に利上げを開始するという見方が強まり始めた昨年10月頃が起点となっています。11月にテーパリグ開始、12月にテーパリング加速が決定され、2022年3月にテーパリング終了すると示されると、同月に利上げするとの観測が高まり、円安ドル高が進行したのは、読者の皆様の記憶に新しいのではないでしょうか。

前述したように、為替レートに影響するのは米国の政策金利だけではないので、その他の材料も考慮しなくてはなりませんが、足もとのドル円レートが米利上げをどの程度まで織り込んでいるのか、1990年以降は利上げ開始で円高ドル安に動いてきたが今回は異なるのか、熟考しながら、3月15~16日のFOMCに備えましょう。

(三井住友信託銀行マーケット企画部 瀬良礼子)

《本資料は執筆者の見解を記したものであり、当社としての見通しとは必ずしも一致しません。本資料のデータは各種の情報源から入手したものですが、正確性、完全性を全面的に保証するものではありません。また、作成時点で入手可能なデータに基づき経済・金融情報を提供するものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資に関する最終決定はお客様ご自身の判断でなさるようにお願い申し上げます。》

執筆者紹介 瀬良 礼子

執筆者紹介 瀬良 礼子 せらあやこ

三井住友信託銀行マーケット・ストラテジスト

1990年に京都大学法学部卒業後、三井住友信託銀行に入社。公的資金運用部にて約6年間、受託資産の債券運用・株式運用・資産配分業務に携わった後、総合資金部で自己勘定の運用企画を担当。以後、現在にいたるまで、為替・金利を中心にマーケット分析に従事。

執筆者関連書籍のご紹介
「投資家のための金融マーケット予測ハンドブック(NHK出版)」
「60歳までに知っておきたい金融マーケットのしくみ(NHK出版)」

※NHK出版のWEBページに移動します。

ページトップへ戻る