「米国の中間選挙とミザリー指数」

2022年8月25日

「FBIがトランプ前大統領の別荘を家宅捜索」――。

8月に入り、米国では11月の中間選挙に向けて多くの州で予備選挙が実施されるなか、このようなニュースが飛び込んできました。2年後には大統領選挙を控えており、米国の政治への注目度が高まっています。

中間選挙の投票日は11月8日

米国の大統領選挙が4年毎に実施されているのはよく知られていますが、その中間に実施される「中間選挙(Midterm Elections)」では、連邦議会上院の3分の1議席、下院の全議席、一部の州知事が改選されます。大統領の就任2年目の11月に実施されることから、大統領のこれまでの政策に対する評価が下される重要な政治イベントといえます。

中間選挙では大統領は改選されないため、引き続き民主党のバイデン政権のままですが、連邦議会の多数派は現在の民主党から変化する可能性があります。現状は大統領・上下院多数派がすべて民主党という、いわゆる「ブルーウェーブ」です。現在の上院は、民主党・共和党が50・50議席の同数ですが、副大統領がキャスティング・ボートを持っているため、民主党がギリギリの過半数を確保している状況です。

世論調査ではバイデン大統領の支持率が低下しており、中間選挙で「ブル―ウェーブ」が解消される可能性が高まっています。そうなると、バイデン政権の政策運営が滞り、既に大幅利上げで景気にはマイナスの圧力がかかるなかで、経済を支援する材料が少なくなることが懸念されます。したがって、この先、金融マーケット参加者は中間選挙関連のニュースに敏感になってくるでしょう。

ミザリー指数で中間選挙を占う

さて、その中間選挙の見通しですが、8月9日時点の政治ニュースサイト「Real Clear Politics」の世論調査集計によると、上院は民主党・共和党が五分五分、下院は共和党が過半数議席を獲得する見込みになっています。しかし、選挙の予想は非常に難しく、新たな材料が報道されることで、情勢が逆転する可能性もあることに注意が必要です。

そんななかでも注目しておきたいのが「ミザリー指数(Misery Index)」です。「悲惨指数」や「窮乏化指数」とも呼ばれます。ミザリー指数は、インフレ率と失業率を単純に足し合わせたもので、ミザリー指数は高いほど「悲惨」であることを意味し、指数が上昇するということは、インフレ率・失業率が同時に上昇、もしくは、いずれかの上昇が一方の低下を上回っていることを示します。

図1は1950年以降の米国のミザリー指数の推移です。直近データは2022年6月で12.7(CPI前年比+9.1%、失業率3.6%)となっています。1973~83年にこの水準を上回って推移した時期を除くと、直近の12.7はかなり高い水準にあるといえます。

(図1)米国のミザリー指数

(出所:Bloombergのデータより作成)

内訳を見ると、失業率が歴史的に低い水準にある一方で、高インフレが悲惨度を高めていることがわかります。高インフレがバイデン政権への支持率低下の一因になっているともいえるでしょう。

足もとで幸いなのは、失業率が低いことです。ミザリー指数が高止まりしていた1973~83年は、インフレ率・失業率ともに高まっていました。しかし、今後、インフレ率が高いままで、失業率が上昇し始めると、国民の不満がさらに高まることは必至です。国民の不満は現政権に向かいますので、中間選挙へ向けて、ミザリー指数が今以上に高まるかどうか、注目しておきたいと思います。

2024年の大統領選挙を見据え

中間選挙のさらに先、2024年には大統領選挙が控えています。中間選挙で、大統領・上院・下院の「ブルーウェーブ」は終了する可能性が高いですが、そうなった場合、次の大統領選挙へ向けて、共和党多数派の議会がバイデン政権の得点になるような政策には協力しなくなることが考えられます。

図2はニクソン氏以降の8人の大統領の1期目の経済成長率の推移を比較したものです(途中経過のバイデン氏を含めると9人ですが)。再選されなかった大統領のグラフには四角形のマーカーを付けています。

(図2)米大統領1期目の米実質GDP成長率

(出所:Bloombergのデータより作成)

再選されなかったカーター氏は任期4年目に、ブッシュ氏(父)は任期3年目に経済成長率がマイナスに落ち込んでいるのがわかります。なお、トランプ氏も任期4年目に景気が急激に落ち込んでいますが、これはパンデミックの不運によるものでした。

バイデン大統領が再選を目指すのか、民主党から他の候補が立つのかは、まだ定かではありませんが、2024年の大統領選挙に民主党候補が勝利するためには、2023年以降の景気が堅調を維持することが重要になってきます。しかし、共和党が支配する連邦議会は景気押し上げに積極的になる可能性は低く、政治面では米国景気の先行きにあまり楽観的になれません。

金融マーケットも、今はインフレ抑制ためのFRBの大幅利上げを中心材料として動いていますが、中間選挙が近づくにつれ、2023年以降の米国景気動向が焦点になってくると見ています。

(三井住友信託銀行マーケット企画部 瀬良礼子)

《本資料は執筆者の見解を記したものであり、当社としての見通しとは必ずしも一致しません。本資料のデータは各種の情報源から入手したものですが、正確性、完全性を全面的に保証するものではありません。また、作成時点で入手可能なデータに基づき経済・金融情報を提供するものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資に関する最終決定はお客様ご自身の判断でなさるようにお願い申し上げます。》

執筆者紹介 瀬良 礼子

執筆者紹介 瀬良 礼子 せらあやこ

三井住友信託銀行マーケット・ストラテジスト

1990年に京都大学法学部卒業後、三井住友信託銀行に入社。公的資金運用部にて約6年間、受託資産の債券運用・株式運用・資産配分業務に携わった後、総合資金部で自己勘定の運用企画を担当。以後、現在にいたるまで、為替・金利を中心にマーケット分析に従事。

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