「利上げすれば通貨高になるのか?」

2022年10月20日

「英ポンドが対米ドルで史上最安値へ急落」――。

9月23日に英トラス政権が減税を盛り込んだ経済対策を発表したことから、英ポンドが下落し始め、9月26日には対米ドルで史上最安値を更新しました。同日、ポンドは対円でも約6円下落する局面がありました。しかし、英中銀は日銀とは異なり2021年末から利上げを続けています。

利上げの気配のない日本で円安傾向

2022年3月から円安が進行しています。3~9月の7ヵ月間の日本円の下落率は、対米ドル20.5%、対豪ドル9.8%、対ユーロ9.1%と、主要先進国通貨に対し日本円の下落が顕著となっています。

円安の第一の理由として挙げられるのは、日本の低い金利、あるいは、中央銀行の金融緩和姿勢の堅持です。読者諸氏もご存じの通り、パンデミックで混乱したグローバルサプライチェーンが回復しないままでの経済活動再開で供給制約の品不足で物価が上昇傾向にあったことに加え、今年に入り、資源価格高騰が世界的にインフレ率を押し上げました。2020年のパンデミックへの対応で大幅な金融緩和を実施していた各国中銀は、姿勢を大転換し、利上げに踏み切っています。

図1は、日本と米国・ユーロ圏・英国・オーストラリア・ニュージーランド、計6ヵ国の政策金利の推移を示したものです。2021年7月から2022年9月までのデータを表示しています。日本の政策金利が-0.1%水準で横ばいであるのに対し、他の5ヵ国の政策金利はすべて引き上げられています。前述したように、さまざまな通貨に対し円安となっているのは、これを見ると肯けます。

(図1)主要国の政策金利推移

(出所:Bloombergのデータより作成)

(図2)主要国通貨の対日本円レート

(出所:Bloombergのデータより作成)

図2は、図1と同じ期間について、米ドル・ユーロ・英ポンド・豪ドル・NZドルの5通貨の対円レートの推移です。図2の①は、2022年3~4月に各国で利上げ実施、あるいは、利上げ観測が高まった期間で、すべての通貨に対し円安となりました。

 為替相場の変動要因は金利差がすべてではない

ここで疑問が出てきます。英中銀も利上げを継続しているのに、なぜ9月に英ポンドは対米ドルで史上最安値をつけたのでしょうか?

確かに、金利差は為替レートを考える上で非常に重要な要素です。しかし、通貨の強弱は金利差だけでは決まりません。経済成長力はどうか、円滑な経済取引ができるように物価が安定しているか、対外収支は過度に流出超過に偏っていないか、政府の財政状況は健全か、さまざまな観点に影響されます。

9月26日の英ポンド急落は、トラス政権が財源の裏付けがないままで減税を計画したことが市場参加者から失望されたために発生しました。政府の財政状況の悪化は、国債利回りの上昇につながり、ひいては、英国のさまざまな主体の借り入れコストを押し上げ、経済の持続的な成長を妨げます。英ポンド下落と同時に英国債も下落し、結局10月3日にトラス首相は減税案の一部撤回に追い込まれました。

日銀が現行の緩和策を維持し、米国が利上げを継続するので、日米金利差拡大から円安は止まらない、との見方もありますが、図2の②を見ると、利上げをしている国でも対円で通貨安に動いている局面が確認できます。②は8月後半から9月末までの期間にあたります。米ドルに関しては、利上げペースが他国よりも速く、かつ、政策金利の水準が最も高いせいか、米ドル高傾向が続いていますが、他の通貨は対円で弱含んでいます。利上げをしたからと言って、単純に通貨高になるわけではないことがわかります。

ちなみに、②の8月後半から9月末までの期間は、株価が下落傾向にありました。日本円は対米ドルでは「リスク回避の円高」にはなりませんでしたが、その他の通貨に関してはリスク回避的な動きが見られたと言ってもよいと思います。

外貨預金など、金利差に着目した外貨投資を検討する際、既に大幅な円安となっている現状では、気軽に外貨投資に踏み切ることは難しいかもしれません。しかし、各国の利上げで短期金利がこれまでよりも高くなっていることを踏まえ、金利差以外の要因で外貨が下落する場面があれば行動がとれるよう、米ドル以外の通貨にも目配りして準備しておくことが肝心です。

(三井住友信託銀行マーケット企画部 瀬良礼子)

《本資料は執筆者の見解を記したものであり、当社としての見通しとは必ずしも一致しません。本資料のデータは各種の情報源から入手したものですが、正確性、完全性を全面的に保証するものではありません。また、作成時点で入手可能なデータに基づき経済・金融情報を提供するものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資に関する最終決定はお客様ご自身の判断でなさるようにお願い申し上げます。》

執筆者紹介 瀬良 礼子

執筆者紹介 瀬良 礼子 せらあやこ

三井住友信託銀行マーケット・ストラテジスト

1990年に京都大学法学部卒業後、三井住友信託銀行に入社。公的資金運用部にて約6年間、受託資産の債券運用・株式運用・資産配分業務に携わった後、総合資金部で自己勘定の運用企画を担当。以後、現在にいたるまで、為替・金利を中心にマーケット分析に従事。

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