「米利上げで住宅市場冷え込みも、債務膨張には至らず」

2022年11月24日

「米住宅ローン金利が1年の前の2倍以上に」――。

ご存知のように、FRBは今年3月に利上げを開始し、11月までにFF金利を合計3.75%ポイント引き上げました。住宅ローン金利も大幅に上昇しており、住宅購入意欲は冷え込んでいます。

ローン申請件数が急減

米抵当銀行協会(Mortgage Bankers Association)によると、米国の住宅ローン30年固定金利は、2020年12月に過去最低の2.85%まで低下しましたが、2022年10月に7%台に乗りました。その間は2年に満たず、かなりの短期間で急上昇しています。30年固定金利が7%台となるのは、実に20年ぶりのことで、住宅バブル期と言われた2005~06年の最高値6.86%を上回っています(図1参照)。

(図1)米国の住宅ローン金利と申請件数

(出所:Bloombergのデータより作成)

このように借り入れコストが上昇するとローン申請件数が減少するのは自然な流れで、図1に示したように、2022年に入って、住宅新規購入のためのローン申請件数は急減しています。

2020年にパンデミックによる景気下振れに対応して大規模な金融緩和が実施され、住宅購入の需要が高まったことで住宅価格も高騰していますが、このように需要が冷え込むと、「住宅価格急落、そして、住宅ローンが不良債権化して2007年のサブプライム・ショックのような事態が再発しないか」、心配になってきます。実際、米連邦住宅金融庁(FHFA)が公表している住宅価格指数は今年7月・8月に連続して前月比で下落しています。2020年6月以降、25ヵ月連続で上昇していたので(ほとんどの月が1%超の大幅上昇)、金利上昇が住宅市場を冷え込ませているのは確かです。

では、サブプライム・ショックのような事態が再燃する可能性は高いのでしょうか?

住宅バブルにはなっていない

2007年のサブプライム・ショックでは、信用力の低い借り手が実力以上に借金を膨らませたことで、債務返済に無理が生じ、不良債権が積みあがりました。

では、現状の住宅ローンの返済負担の状況はどうなっているでしょうか。

図2は、住宅ローン残高について、家計の可処分所得ならびに住宅の資産価値に対する割合を示したものです。

(図2)米国家計の住宅ローン負担状況

(出所:Bloombergのデータより作成)

2007年のサブプライム・ショック時には、全米の住宅ローン残高合計は家計の可処分所得(図2では年率換算ベース)のほぼ100%まで膨張していました。2000年からの膨張速度が著しいことが見て取れます。しかし、直近データの2022年6月末時点では66%にとどまっており、急速に膨張している様子も見られません。

また、ローン残高が減少しないのに、購入した住宅の価格が下落すると、資産と負債のバランスが負債過多に傾いてしまいます。図2を見ると、サブプライム・ショック以降に住宅価格が下落したことで、ローン負担が増加したことがわかります。しかし、足もとではローン負荷が拡大する様子は見られません。

米利上げは続き、住宅価格にも不安は残る

サブプライム・ショックのような事態が再発すると、リスク回避の動きから「株価急落・円高」が連想されるのですが、住宅ローンの負担状況からは、再発の可能性はあまり高くなさそうです。

しかし、FRBの利上げはまだ終わっていません。今後、住宅価格の下落傾向が顕著となり、住宅ローン返済のために持ち家を売らざるを得ない家計が増えると、売りが売りを呼んで住宅価格が急落する可能性が無いとは言い切れません。

今年11月までに、FRBは異例の3倍速の利上げを4回連続で行いました。その影響は時差を伴って現れます。住宅投資が冷え込むだけにとどまるか、経済全体の下振れにまで波及するか、経済データへの感度を高めておきましょう。

(三井住友信託銀行マーケット企画部 瀬良礼子)

《本資料は執筆者の見解を記したものであり、当社としての見通しとは必ずしも一致しません。本資料のデータは各種の情報源から入手したものですが、正確性、完全性を全面的に保証するものではありません。また、作成時点で入手可能なデータに基づき経済・金融情報を提供するものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資に関する最終決定はお客様ご自身の判断でなさるようにお願い申し上げます。》

執筆者紹介 瀬良 礼子

執筆者紹介 瀬良 礼子 せらあやこ

三井住友信託銀行マーケット・ストラテジスト

1990年に京都大学法学部卒業後、三井住友信託銀行に入社。公的資金運用部にて約6年間、受託資産の債券運用・株式運用・資産配分業務に携わった後、総合資金部で自己勘定の運用企画を担当。以後、現在にいたるまで、為替・金利を中心にマーケット分析に従事。

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