「米銀破綻は単発か、それとも続くのか」

2023年4月20日

「総資産が全米で16位の銀行が破綻」――。

2023年3月10日、米連邦預金保険公社(FDIC)がシリコンバレー銀行の経営破綻を発表しました。2008年のリーマン・ショック以降で最大規模となります。金融システム全体へ影響が拡大することを回避するため、同月12日、米当局は預金全額保護を発表しました。

金融機関破綻は米利上げ後に発生する傾向

今年3月はシリコンバレー銀行に続き、シグネチャー銀行が破綻、スイスの大手金融機関のクレディ・スイスにも経営不安が高まり、世界の金融市場に緊張が走りました。例えば、3月9日に一時28700円を超えていた日経平均株価は16日には一時27000円を割り込み、また、3月上旬に4%で推移していた米10年国債利回りは3月後半には3.5%前後へ水準を切り下げました。しかし、前述したような当局の対応により、銀行破綻の「ドミノ倒し」への懸念は後退しました。

ところで、金融機関の破綻と言えば2008年のリーマン・ブラザーズの破綻が連想されますが、その根底には「サブプライム・ショック」と呼ばれる住宅バブルの崩壊がありました。住宅ローンが経済の実力を上回って過剰に膨張した結果、不良債権が積み上がり、金融危機に繋がりました。原因の過剰なローンは低金利の局面から好景気の時期に積み上げられましたが、FRBの利上げがピークに到来したところで、バブルが破裂しました。

図1は、過去の米国の利上げと金融機関の破綻の歴史を示したものです。2008年のリーマン・ブラザーズ破綻の前段階として2007年にサブプライム・ショックが起こりましたが、政策金利がかなり高水準へ引き上げられた局面だったことが見て取れます。

(図1)米FF金利と金融機関破綻

(出所:Bloombergのデータより作成)

バブル崩壊で言えば、ITバブルも利上げの最終段階の2000年に崩壊しています。金融機関ではありませんが、1994年末にはカリフォルニア州のオレンジ郡という自治体が財政破綻を起こしています。オレンジ郡の破産は投資ファンドを通じたデリバティブ取引の損失が原因でした。1990年のドレクセル・バーナム証券も利上げ終了後しばらくして破綻しましたし、1991年のニューイングランド銀行の破綻も利下げ中とは言えの高い金利水準の局面でした。

このように振り返ってみると、政策金利の引き上げは金融にかなりストレスを与えるものだということがわかります。2015~18年の利上げ局面は無難に通過しましたが、政策金利の最終到達地点がかなり低いため、大きなストレスに繋がらなかったのかもしれません。

もちろん、金融機関等の破綻の背景には個々に複雑な原因があり、単に利上げだけで破綻に至ったわけでないでしょう。しかし、低金利局面では隠れていた問題が利上げによって顕在化した側面は否定できないと思います。

銀行のリスク管理と規制強化

今回のシリコンバレー銀行の破綻も急速な利上げで高い金利水準の下で発生しました。ただし、リーマン・ショックとは異なり、不良債権が原因ではありません。バーFRB副議長が「管理ミスの教科書のような事例だ」と発言しているように、金利リスクや流動性リスクの管理が甘かったことが主因とされています。つまり、信用力が低い証券や複雑な仕組みの金融商品ではなく、国債や住宅ローン担保証券などの取引の容易でシンプルな債券の含み損が膨らんだところに預金引き出しが加速したために経営破綻に追い込まれました。

2022年3月以降、FRBが大幅利上げを行ったため、米国では金利が全般的に上昇、つまり、債券の価格は下落したわけですが、このような金利リスクはしっかりと管理されていると思われていました。

また、2008年の金融危機後の規制強化で、流動性カバレッジ比率と安定調達比率という2つの規制が導入されていました。平たく言うと、前者は短期間の極端な資金流出への備えを示し、後者は売却しにくい資産が安定的な資金調達で対応されているかどうかを示します。しかし、この規制が適用されるのは「国際統一基準行」という国際的に営業を行う銀行で、シリコンバレー銀行は対象外でした。

米連邦預金保険公社(FDIC)によると、米銀全体の有価証券の含み損は2021年末時点で79億ドルでしたが、2022年末時点には6204億ドルに膨らんでいます。シリコンバレー銀行のような「管理ミス」は例外的かどうか判断するには、現時点では情報が不足しています。多くの銀行では金利リスクや流動性リスクがしっかりと管理されていることが判明するまで、銀行不安が燻ると思われます。

加えて、今後、当局の監督や銀行規制は強化される可能性が高いでしょう。2020年のパンデミックを受けてFRBが大胆な金融緩和に踏み切り、いわば「イージーマネー(安易な資金)」が溢れていたわけですが、昨年来のFRBの利上げ、量的引き締め、そして、今後の規制強化と、「お金の巡り」はかなり引き締まりそうです。

景気動向と銀行貸出の健全度が鍵

前述したように、シリコンバレー銀行の破綻は不良債権を原因としたものではないため、リーマン・ショックのような深刻な金融危機に発展する可能性は今のところ高くないと思われます。しかし、まだ警戒を解くのは早いと見ています。

今後、米国の景気が弱くなり、企業業績が悪化すると、銀行ローンの貸し倒れが増加し、不良債権が金融システムを蝕むことになります。この観点で注目しておきたいのが、銀行ローンの延滞率です。図2は米国商業銀行ローンの30日以上延滞率の推移です。

(図2)米商業銀行ローン30日以上延滞率

(出所:Bloombergのデータより作成)

2000年のITバブル崩壊時には商工業ローンの、2007年の住宅バブル崩壊時には住宅ローンの延滞率が顕著に上昇したことがわかります。

図2の直近データは2022年末時点ですが、米国景気が堅調なこともあり、延滞率は低位に留まっています。しかし、今後、米国景気悪化で不良債権が増加すると、銀行破綻が頻発することが懸念されるため、ローン延滞率の上昇は要注意のサインです。

ただし、景気悪化が軽微なものであれば不良債権増加に至らない可能性もあるため、慎重に見極める必要があります。したがって、景気の下振れ懸念が続く間は、金利・為替相場や株価も、景気動向(ひいては銀行貸出の健全度)のニュースに敏感に反応する状況が続きそうです。

(三井住友信託銀行マーケット企画部 瀬良礼子)

《本資料は執筆者の見解を記したものであり、当社としての見通しとは必ずしも一致しません。本資料のデータは各種の情報源から入手したものですが、正確性、完全性を全面的に保証するものではありません。また、作成時点で入手可能なデータに基づき経済・金融情報を提供するものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資に関する最終決定はお客様ご自身の判断でなさるようにお願い申し上げます。》

執筆者紹介 瀬良 礼子

執筆者紹介 瀬良 礼子 せらあやこ

三井住友信託銀行マーケット・ストラテジスト

1990年に京都大学法学部卒業後、三井住友信託銀行に入社。公的資金運用部にて約6年間、受託資産の債券運用・株式運用・資産配分業務に携わった後、総合資金部で自己勘定の運用企画を担当。以後、現在にいたるまで、為替・金利を中心にマーケット分析に従事。

執筆者関連書籍のご紹介
「投資家のための金融マーケット予測ハンドブック(NHK出版)」
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