「2024年の世界の選挙日程に注目」

2023年12月28日

「台湾総統選、露大統領選、欧州議会選、自民党総裁選、米大統領選」――。

2024年に予定されている各国の選挙です。日本では、衆議院議員が2025年10月に任期満了となるため、2024年に総選挙が実施される可能性も高まっています。

米大統領選挙以外にもBRICS諸国で選挙実施へ

2024年は米大統領選挙が予定されているのは、皆さまよくご存じのことでしょう。しかし、米国以外にも重要な選挙が来年は多く実施される予定です。下表に主要な選挙日程をまとめました。前述したように衆議院議員の任期は2025年10月までですが、2024年に解散される可能性があり、来年の主要選挙日程に日本の総選挙が加わるかもしれません。

また、欧州連合では欧州議会選挙が6月に実施されます。2020年1月末に英国が欧州連合を離脱(ブレグジット)して以来、初めての選挙となります。

(表)各国の主要選挙日程

(出所:各種報道より作成)

先進国以外に目を向けると、2024年に総選挙や大統領選挙が予定されているのは、ロシア、インド、南アフリカといったBRICS加盟国のほか、インドネシア、メキシコといった、1億人超の人口を抱える国です。なかでも、インドネシアは2023年7月時点の総人口が2億7753万人(国連データ)で、インド・中国・米国に続く世界第4位です。

政治要因が経済・金融市場に与える影響が増大

ところで、なぜ各国の重要選挙に注目しているかというと、近年、政治関連の材料が経済や金融市場に与える影響が強くなっているからです。筆者はそのキーワードを「分断」と見ています。

象徴的な出来事としては、2016年6月に英国の国民投票で欧州連合離脱が可決されたことや、同年11月の米大統領選挙でトランプ氏が当選したことが挙げられるでしょう。英国の欧州連合への残留か離脱かの選択の間には、中間的な選択肢が無く、英国の国境を越える物流が混乱したり、欧州連合の他の国からの移民が流入しなくなったことで人手不足に陥ったり(パンデミックの影響もありますが)と、経済活動は低調な状況です。また、米国では2021年1月にトランプ政権からバイデン政権に移行する際、ワシントンの連合議会議事堂が襲撃された事件が思い起こされます。

社会の「分断」の溝が広がり、溝の両岸が互いに歩み寄ることができない、両者の間に落としどころが無い、そのような事態が増えたように思います。それは国際社会でも同様です。「東西冷戦の再燃」などと言われるように、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻で国際社会の対立も顕著になってきました。また、それより以前の2018年1月に米国が対中国で制裁関税を導入し、米中対立も既に鮮明になっていましたが、世界景気下振れ懸念につながり、金融市場はドル安・株安で反応しました。

国民の考えが分断された社会では、選挙によって政権が交代すると外交姿勢や経済運営方針が大きく転換、経済に影響を与え、金融市場も将来の変化を織り込む形で急変する可能性が高まります。そのため、景気や物価の状況だけを追いかけていると、選挙で突然に変化する金融市場に取り残される事態もあり得ます。

米大統領選挙も重要だが、新興国にも目配りを

近年、新興国の存在感が高まっている反面、G7などの先進国が国際社会に与える影響力は低下しています。1985年9月のプラザ合意が強く印象に残っているように、G7首脳会議や財務相会議は、かつては金融市場参加者にかなり意識されていました。しかし、2008年のリーマン・ショックをきっかけに、新興国も参加するG20が国際協調の場として前面に出てきました。

新興国の集まりとしては、BRICSを思い浮かべる方も多いでしょう。そのBRICS加盟国は、2024年1月1日から、現状の5ヵ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)に、アルゼンチン、エジプト、イラン、エチオピア、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)が加わり11ヵ国となります。これも、国際社会において、新興国の影響力が高まっていることの表れでしょう。

さて、2024年の各国の主要な選挙に話を戻しましょう。来年に主要選挙が行われる国の世界における存在感を、経済規模と総人口の割合で示したのが、次の図です。

(図)2024年に主要選挙が予定されている国・地域の
経済規模・人口の割合(2023年時点)

(注:名目GDPは購買力平価換算ベース)

(出所:IMF・国連のデータより作成)

来年、選挙の実施される国・地域の世界に占める割合は、経済規模では約52%、総人口では約37%となっています。経済規模で第1位の米国の大統領・上下院選挙が最重要であることは言うまでもありません。しかし、第2次世界大戦終結以降の世界秩序が揺らぎつつある現在、世界経済が各国の協調で成長するのか、分断して優勝劣敗の差が拡大するのか、新興国の選挙を含め、2024年は重要な岐路ではないでしょうか。

(三井住友信託銀行マーケット企画部 瀬良礼子)

《本資料は執筆者の見解を記したものであり、当社としての見通しとは必ずしも一致しません。本資料のデータは各種の情報源から入手したものですが、正確性、完全性を全面的に保証するものではありません。また、作成時点で入手可能なデータに基づき経済・金融情報を提供するものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資に関する最終決定はお客さまご自身の判断でなさるようにお願い申し上げます。》

執筆者紹介 瀬良 礼子

執筆者紹介 瀬良 礼子 せらあやこ

三井住友信託銀行マーケット・ストラテジスト

1990年に京都大学法学部卒業後、三井住友信託銀行に入社。公的資金運用部にて約6年間、受託資産の債券運用・株式運用・資産配分業務に携わった後、総合資金部で自己勘定の運用企画を担当。以後、現在にいたるまで、為替・金利を中心にマーケット分析に従事。

執筆者関連書籍のご紹介
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