「英国の総選挙と
EU離脱の行方」

2019年11月29日

「英国の総選挙とEU離脱の行方」

「The long and winding road」は英国が輩出したロックバンド「ザ・ビートルズ」の名曲の一つですが、英国のEU離脱(ブレグジット)はまさに「長く曲がりくねった道」の先にあります。――

英国では、12月12日に総選挙が実施されます。ブレグジットを問う、事実上の再国民投票とも見られています。総選挙では、既存の協定による離脱か、新たな離脱協定の再交渉か、それとも残留か、が大きな争点となります。この総選挙により、「長く曲がりくねった道」の行き着く先は見えてくるのでしょうか。

発端は3年半前のことでした。2016年6月23日に英国で欧州連合(EU)離脱を問う国民投票が実施されました。図1にあるように、事前の世論調査やブックメイカー(賭け屋)のオッズ(賭け率)ではEU残留が優勢だったのですが、投票の結果は離脱が51.9%と多数となり、リスク回避の動きから金融マーケットは株価急落・金利大幅低下・円高となりました。

(図1)国民投票(2016年6月23日)直前の予想

(図1)国民投票(2016年6月23日)直前の予想

(出所:Bloombergのデータより作成)

英国は、当初の予定では、今年3月30日にEUから離脱するはずでした。

それが6月末に延期され、10月末へ再延期され、そして2020年1月末へと3度目の延期となりました。EU離脱により、地続きのアイルランドとの間に国境が復活する問題をどのように解決するかで、EUと英国との合意がなかなか得られません。EUと英政府が合意しても、英議会が承認しないという事態が続いています。離脱協定の合意には英議会の承認が必要なのです。この離脱協定の合意がないままで時間切れとなると、いわゆる「合意なき離脱」となり、ルールのないままでヒト・モノの流れが滞って、経済に悪影響が及ぶことが警戒され、金融マーケットはリスク回避方向(株安・円高)へ動きます。

図2は英ポンドの対円レートの推移ですが、2016年6月の国民投票でポンドが急落した後は、世界経済堅調を背景にやや持ち直した後、EUとの交渉を見守る形で140~150円近辺で推移しました。ところが、今年7月に離脱強硬派のジョンソン氏が首相に就任すると、「合意なき離脱」への警戒感からポンドは一段安となりました。しかし、10月末での「合意なき離脱」が回避される見込みが高まると、ポンドは上昇し、直近では横這いの動きとなっています。この横這いの水準は、2016年の国民投票後の最安値と2018年の高値のちょうど半分の位置にあたります。「合意なき離脱」への警戒が高まるとこれよりも下へ、警戒が薄まると上へ、位置どころが推移すると考えられます。

(図2)英ポンドの対円レートの推移

(図2)英ポンドの対円レートの推移

(出所:Bloombergのデータより作成)

ジョンソン英首相は10月末のEU離脱に非常に拘っていました。

10月17日に、ジョンソン首相はEUとの間で離脱協定の合意にこぎつけましたが、英議会は協定を審議しませんでした。英議会もEUも、「合意なき離脱」は回避したいため、10月末での離脱は延期されましたが、解散総選挙で国民の判断を仰ぐこととなりました。

ブレグジットに関して、与党・保守党は2020年1月末でのEU離脱を唱える一方、野党第1党の労働党は新たな離脱協定をEUと再交渉し2回目の国民投票を実施することを公約に掲げています。

保守党が過半数議席を確保すれば、ジョンソン首相が10月に取りまとめた離脱協定が議会で承認され、来年1月末にEUを離脱することができます。秩序だった離脱となるため、金融マーケットはリスク選好方向(株高・円安)へ動くことが期待されます。

一方、労働党が過半数を占めた場合は、EUとの再交渉や2度目の国民投票という不透明感で、金融マーケットはリスクを取りづらくなりますが、労働党は歳出拡大や鉄道・水道等の国有化も公約としているので、この点でリスク回避方向となる可能性があります。

どちらの政党も過半数をとれず、ハングパーラメント(宙ぶらりん議会)となった場合、先行きの見通しが最も困難で、決められない政治が警戒されます。来年1月末での「合意なき離脱」の可能性が持ち上がってくるかもしれません。金融マーケットはリスク回避傾向となるでしょう。

英国のEU離脱問題が世界経済全体に与える影響は軽微で、金融マーケットも世界的に大きな反応になるとは思いませんが、ポンドの対円レートは8月の安値から11月まで約15円動いているので、英総選挙を気にする意味はあると思います。

(図3)世論調査 政党支持率の推移

(図3)世論調査 政党支持率の推移

(出所:Bloombergのデータより作成)

図3は、世論調査の政党支持率の推移を示したものです。複数の調査の支持率を表示しているので多少のバラツキはありますが、今のところ、保守党が40%強、労働党が30%前後となっており、保守党が10%ポイント程度リードしています。小選挙区制で「死に票」が多いため、世論調査通りに議席が取れるわけではありませんし、2016年の国民投票のように世論調査が外れる場合もあります。とはいえ、世論調査通りに保守党が過半数政権を取れば、来年1月末での「合意ある離脱」が見えてきます。

もっとも、「合意ある離脱」の先には、2020年末までの移行期間が待っています。将来の英国とEUとの通商協定などを交渉しなくてはなりません。「長く曲がりくねった道」はまだ続きます。

(三井住友信託銀行マーケット企画部 瀬良礼子)

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