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広告ギャラリーシンジル&タクセル
三井住友信託スペシャル対談シリーズ
「人生100年時代を輝かせる、
世界の見方。
人生100年時代と言われる今、長くなった人生の時間をポジティブに捉え、一日一日の価値を高めていくために。
さまざまなジャンルの方と俳優 佐藤浩市さん・木村文乃さんとの対談を通じて、
新しい時代の生き方について、前向きな視点や考え方をお伝えしていきます。
ひとりひとりの100年が、
宇宙の時間を紡いでいく。
無重力の宇宙で、重い責任と向きあった
毛利 : 佐藤さん、宇宙って興味があったりします?
佐藤 : 宇宙って、自分にとっては普段あまり考えることのない世界なんです。意識にあるのはウェルズの『宇宙戦争』くらいですかね。
毛利 : 子どもたちにも2種類あって「宇宙に行きたい?」と聞くと「はいはいはい」と手を挙げる一方で、本当は行きたくない子もたくさん居るんです。それはすごく自然で、宇宙への憧れって大人から刷り込まれている側面があるんですよね。
佐藤 : 毛利さんが宇宙の体験で、何か大きく変わったなと思うことってあるんですか?
毛利 : 大きな違いは、自分の意図ではないのに有名人になったことです。それ以来、本屋さんの立ち読みも気にしながらするようになった。NASAでは徹底的に、ロールモデルという言葉を使うんですけれども。「子どもに尊敬される行動を」というようなことを、宇宙飛行士に期待されるというのはあります。同時に、すごく強く意識したのが日の丸ですね。オリンピックの選手も同じですけど、国を代表する重さというのはすごいですね。
佐藤 : 限られた人しか見たことがない宇宙から地球を見たという、その体験をした人に対する憧れがありますよね。
毛利 : 確かに無重力になってフワ〜ッと浮きながら地球を見る。あの感覚は宇宙に行かないと分からない。
佐藤 : 毛利さんは何日、宇宙にいらっしゃったんでしたっけ。
毛利 : 最初は8日間、2回目は11日間で19日間ですね。
佐藤 : 地球に帰ってくる時ってどういう感じなんですか?
毛利 : 重力がどんどんかかってきて、頭がすごく重たくなり、地上に戻ってもしばらくは紙1枚が重く感じます。
佐藤 : 重いんですね。この地上の生活は。
毛利 : そうですね。映画を撮る時、舞台でも、その場所に合わせたような環境を作りますよね。でも、必ず重力はあるので、どんな環境になっても上下の混乱はないですよね。重力がなくなるというのは、上下感覚がすごく混乱してしまうんです。
佐藤 : 上下がなくなる。それはやっぱり混乱するんですね。
毛利 : 面白いことに、宇宙船の中で、足の裏が着いた途端に、そこが床だという感じがするんです。人間の感覚では「こっちが下だ」と。あれは面白いです。
佐藤 : 浮ついた気持ちのことを「地に足が着いてない」と言いますもんね。
2度の宇宙飛行が、人類代表のミッションを教えてくれた
佐藤 : そうやって宇宙から帰ってきて、人類代表として公の立場でお話をされる時と、個人でお話される時というのは、やっぱりちょっとスイッチが切り替わるようなものなんでしょうか。
毛利 : そういう意味で公で話す時は、人類代表として伝えたいと思っています。
佐藤 : 人類は宇宙を目指すけど、それを自分事として感じるのは難しいというか。その時に、人類の中の自分というものさしを感じるにはどうすればいいんでしょうね。
毛利 : それはまさに私が宇宙で感じた本質です。1回目の宇宙飛行は、宇宙実験をしていたので、地球全体を見る余裕がなかったんです。でも、2回目の仕事は地球観測だったので、絶えず地球を見ていました。レーダーを使って、高精細立体地形図を作るためのデータを取っていたんです。今、皆さんスマホで3次元マップとか使われていますけれども、あれは私たちのミッションのデータが基礎になっていたりするんですよ。宇宙から地球を見ると、昼間太陽に照らされている陸地では、数十億人居るはずの人間の姿は見えない。ところが、夜に入ると、急にオレンジの光がたくさんワーッと見えてくる。1992年の1回目の時には、地球の陸地に住む人々の活動が発するオレンジ色がきれいだなというぐらいだったんです。その時には地球人口55億人でしたかね。それから8年後に行った時は、もう61億人になっていました。現在では77億人。2050年代に100億人に増えるなんて予測がありますよね。でも、そこまで持たないんじゃないの?という素朴な疑問が生まれました。
佐藤 : もう場所がないということですか。
毛利 : 場所の問題以上に、化石燃料や食糧、地球環境を考えた時、みんな簡単に100億人になると言っているけれども、それは相当努力しなければ難しいんじゃないの?という意識を持って帰ってきたというのが2回目の飛行の後でした。だから、この危機感を伝えないといけない、これが自分のミッションだなと思い、いろんなところでお話ししています。
佐藤 : 海洋プラスチックなんかはまさに今、問題になっていますね。
毛利 : 世界中で当たり前のように使っていますよね。でも、問題だからいきなりやめるとなると半世紀前の生活に戻ってしまう、それは無理ですよね。だから無理なことを次の世代にさせるのではなく、何ができるかを考え実行する。例えば日本人の研究者が今から30年ほど前に発見した、生分解性ポリマーです。植物由来の油をもとに、微生物が作るポリマーでプラスチックを置き換える技術。土中の特殊な微生物が生み出す樹脂で、すでにストロー、皿やナイフなどに今までのプラスチックに代わって使われ始めています。海に投棄されても微生物が分解してくれ、最後は水と二酸化炭素になる。完全に循環するんです。今プラスチックで作られているものを、どんどん置き換えていくというのは、日本のビジネスにとっても世界の環境に貢献する良いチャンスです。何よりも現在便利に使用しているプラスチックを急になくすという極端な考えでは社会は満足しません。「だんだん置き換えていきましょうね」ということは答えられる。日本からそういう素晴らしい製品が生まれ始めています。否定ではなく科学技術の新しい可能性を伝えてゆきたいですね。
佐藤 : なるほど。ちゃんとポジティブな方向に変化を持っていくという。
ひとりの100年に閉じないことで、未来はつながっていく
佐藤 : 人生100年時代、と長くなったように言われますが、宇宙の時間と比べれば、ほんの一瞬のようにも感じますが。
毛利 : 宇宙は138億年前から、人間と関係なく存在したものですよね。地球が生まれて46億年、生命が生まれどんどん多様化して、絶滅の危機を乗り越えてきました。今、人間もその種のひとつです。人間は威張ってますけど、人間の存在というのは、類人猿も含めてほんの数百万年ですよね。人が人らしく農業を発明したり定住をはじめてからわずか1万年。でも、人生の100年と比べてみたら、1万年はすごく長い時間です。100年かける100年。100年を完全に生きたとしても100世代以上ありますよね。ということは、自分の100年じゃなくて、人間として人間らしい生活を送ってから、過去、祖先がたくさん居て、今の自分が居て。これからまだたくさん努力すれば、われわれ人間というものが代々100年健康に生きていく。そういうものの見方をした時に、自分だけを考えたら100年で終わってしまうけれど、地球生命としての遺伝子は脈々とつながっている。子どもが居なくても、自分が過去遺伝子を共有した親戚もたくさん居ます。その人たちがつながっているので、自分だけの人生ではない。生物学的にも、ゲノム解析によって遺伝子で人間はすべてつながっていることがわかりました。
そういうふうにものを考えると、自分の100年は始まりでも終わりでもなく、過去から未来へつながる人類の一部です。大切なのは、「未来へつなげる」ということだと思うんです。その時に初めて希望が出てくる。自分で終わりだったら、勝手なことをやればいいんだけど、人類を未来へつなげるような何かをするということが、人生が100年だろうと200年になろうと、変わりなくきっと価値が高いんだと。自分の人生を、現在、満足させるためには、未来へ貢献しているかどうかをものさしにする。それは、社会に対して何か少しでも役立つことをしているかどうかということと同じかもしれないです。誰でも自分が現在精いっぱい生きていれば、それだけで未来へ貢献しているはずですよね。なんかちょっと偉そうなことを言ってしまった。(笑)

佐藤 : いいんです。もちろん毛利さんのように分かりやすく社会に貢献できるお仕事の人も居ると思いますけれども、なかなかそういう実感を日常の中で、持つのって難しいじゃないですか。
毛利 : でも、そのために佐藤さんが俳優として、映画でいろんな人生のシーンを見せてくれて、たくさんの人が共感するわけですよね。そういう意味で、どういう気持ちで俳優をされていますか。
佐藤 : 僕らの仕事というのは、人が生きていくうえで必要のない仕事なんですよ。
毛利 : それが今、意識改革しなくちゃいけないところだと思うんです。つまり、そういう考え方だとAIに負けてしまいます。AIは効率化しか求めませんからね。目の前の役に立つものしかやらない。もしも佐藤さんがそういう考え方で舞台や映画をやっていたら、要らなくなりますね。
佐藤 : でも、どこかで人間だからこそという、いわゆる観念的な部分での舞台や映画の存在価値は確実にあるんですけどね。
毛利 : そうですよね。宇宙へ行く訓練はギリギリのことしかしないんです。文化の香りなんか初めから一切無視されています。宇宙で生きるためには最低限、空気と水と食料があればいいけれど、それだけの環境では世代を超えて未来へ生きられない。殺伐とした、ミッションを達成するしか目的がない世界である宇宙では、社会は作れないんです。
佐藤 : 毛利さんが宇宙に行かれた時に、音楽を聴いて心のバランスをとっていたというエピソードがありますね。それが必要だったわけですね。
毛利 : 必要です。必要だということを示したかったんです。
佐藤 : なるほど。
毛利 : 宇宙では、飲む水も、化学反応させて作ります。その水というのは燃料電池で作るピュアなH2Oなので、まずいんです。地球に帰ってきた時に、ハッチが開いたら、待機している宇宙飛行士が必ず冷たいコップ1杯の水を差し出してくれるんです。それを飲むとおいしいんですよ。いろんなミネラルが入った自然水ですよね。そして人工の空気を吸っていた宇宙と違い、周りの空気には何か微生物が漂っているような安心感を覚えました。これで「ああ、地上に帰ってきたな」という感じがする。その感覚を知っていると、人間だけでは生きていられないなということを実感させられるんです。
佐藤 : その延長線上でいろんなものが、人が人らしく生きていくためには必要だということですね。つまり、宇宙では次の世代を生めないということですか。
毛利 : 人間だけでは何世代にもわたって生きられないです。それだけ地球環境は人間にとって恵まれているのです。月や火星に行って短期間滞在することは可能かもしれませんが。
佐藤 : キャンプみたいなものですね。
毛利 : そうそう。そのためにはすごく面白いところだと思うんです。でも、世代を超えて未来へ向かって人間が生きていく、社会を作るというのとはちょっと違うと思います。
人類が社会で生き延びるために政治、経済、宗教、スポーツ、芸術、科学などを発明しましたよね。表面的な効率や、生きる死ぬだけで切ってきたら、おそらく人類はこんなに続かなかったと思うんです。いろんな多様な価値を持っていたのでここまで来れたんじゃないかと思います。他人の存在を認めるというか。文化と言ってもいいと思うんですけれども。私は知恵という言葉を使っています。生き延びるための、ただ動物的に生きるだけじゃなくて、豊かに生きるための知恵。いろんな知恵をうまく統合する未来智があれば初めて22世紀以降へも生き残れると思います。
毛利 もうりまもる (72歳) / 宇宙飛行士
北海道余市市生まれ。1992年日本人で初めて米スペースシャトルに搭乗。自身の専門である科学技術への理解促進と後進育成のため、日本科学未来館館長として現在も活動を続ける。
※年齢は2020年1月現在です