第16回のコラム」では、公的年金が老後生活の大きな支えになっていることを見てきました。一方で、昨今話題の金融経済教育は、高校生から、ということで、老後の年金なんて先のことに感じられるかもしれません。しかし、今回のコラムでは、高校生からちょっと知っておきたい、公的年金の意外(?)な側面である、「障害年金」と、「学生納付特例制度」について、お届けしたいと思います。

まず、公的年金は、老齢年金、障害年金、遺族年金の3つの柱からなる保険です。

図表1 公的年金は3本柱の保険

老齢年金は、文字通り、老後に受け取れる年金です。65歳から受け取る方が多いようですが、少し早めに60歳から、あるいは、少し遅らせて70歳から、あるいは、一番遅らせると75歳からなど、60歳~75歳の自分で決めた年齢から受け取れます。死ぬまで受け取れますので、長生きのリスクに対応しています。

障害年金は、病気やケガで障害が残ったときに受け取れる年金です。これは、老後でなくても受け取れるのがポイントです。しかも、なんと障害年金は、基本的に老齢年金と同様に、死ぬまで受け取れます。税金もかかりません。

遺族年金は、生計を立てていた方が亡くなったときに遺族が受け取れる年金です。

さて、この3つの年金のうち、今回は、障害年金にスポットを当てたいと思います。

障害年金はどんなときに受け取れるのか

障害年金を受け取れるのは、基本的には「保険料をきちんと支払っていた」方が「厚生労働省の基準を満たす障害を負った」場合です。また、受け取れる金額や認められる障害の程度は、「障害のもととなった病気やケガについて病院で初めて診察を受けたときに加入していた年金制度」によって異なります。加入していた制度が国民年金のみの第1号被保険者や第3号被保険者であれば障害基礎年金の対象になり、厚生年金保険にも加入している第2号被保険者であれば障害基礎年金と障害厚生年金の対象になります。例外的に、国民年金の保険料を納め始める20歳よりも前から障害を負っている方は、障害基礎年金の対象になり、20歳から受け取れます。

障害年金の金額は、障害の程度が重いほうが大きくなります。障害基礎年金の金額は、保険料を支払った期間の長さとは無関係に、障害の程度と、所定の要件を満たすお子様の数だけで決まります。障害厚生年金の金額は、厚生年金なので基本的には支払った保険料のもととなる報酬に比例するのですが、若くして障害を負う方への配慮から、保険料を支払っていた期間が25年未満の方でも25年間保険料を支払ったものとして計算されます。また、2級以上の障害の場合は、所定の条件を満たす配偶者がいらっしゃる方には障害厚生年金の金額が加算されます。さらに、障害厚生年金のほうが障害基礎年金よりも幅広い障害を対象にしており、ワイドな保障になっています。また、厚生年金保険では、比較的軽い障害の場合に障害手当金という一時金の支給もあります。

図表2 障害年金の受け取りイメージ

障害年金の受け取りイメージ図

障害年金を縁遠く感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、若くても、病気やケガにはいつなるかわかりませんし、重篤な場合、障害が残る可能性は誰にでもあります。学生のうちから民間の医療保険に入っているという人もそう多くないと思います。そんなときに、頼りになる公的な保障の一つが障害年金です。「令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業年報」(※外部サイトへ遷移します。)(2023年4月、厚生労働省)によれば、50代までの障害年金受給権者は100万人以上いらっしゃいます。20歳になる前に障害を負った方も対象になっていますが、万が一のときに国のセーフティネットがあるというのは心強いものです。

図表3 20~50代の障害年金受給権者数

20代 242,638人 30代 293,614人 40代 396,740人 50代 439,396人

(出所)厚生労働省 「令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業年報」より三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成

学生納付特例制度について

国民年金は、20歳からの加入が義務付けられています。一方で、20歳というと、まだ働いていなくて、大学や専門学校などに通っている人も少なくありません。

20歳以上の学生は多くの場合第1号被保険者となりますが、働いていないのに保険料を納めなければならないというのはなかなかつらいものがあります。そこで、学生のうちは、所得が一定水準以下の場合は、手続きをすることで保険料の支払いを先延ばしにすることができる制度があります。これを学生納付特例制度といいます。この制度がすごいところは、しっかり手続きさえしておけば、仮にあとから保険料を追納しなかったとしても、障害基礎年金の受け取り要件の一つである「保険料をきちんと支払っていた」という条件を満たしたことにしてくれるのです。ですので、この「学生納付特例制度」の手続きはとても大事なものです。令和2年国民年金被保険者実態調査(※外部サイトへ遷移します。)(2022年6月、厚生労働省)によると、8割以上の学生が、「所得の少ない学生のために保険料の全部が猶予される制度(学生納付特例制度)がある」ことを「知っている」と答えています。

図表4 学生に対する「学生納付特例制度」の周知度

Q. 所得の少ない学生のために保険料の全部が猶予される制度(学生納付特例制度)がある 知っていた 83.3% 知らなかった 16.7%

(出所)厚生労働省 「令和2年国民年金被保険者実態調査結果」より三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成

学生納付特例制度の手続きですが、市(区)役所・町村役場の国民年金担当窓口や年金事務所のほか、大学や専門学校などの学校の学生課でも受け付けてくれる場合があります。学生納付特例制度の対象の学校一覧と学校での手続き可否は、日本年金機構のWebサイト(※外部サイトへ遷移します。)から確認することができます。

学生納付特例制度の留意点

学生納付特例制度の手続きは、20歳になったときだけ行えばよいわけではなく、年度ごとに行います。複数年度分の手続きを一度に行う場合も、複数枚の申請書の提出が必要です。また、年度途中で退学した場合には届出が必要です。

学生納付特例制度は、保険料を払わなくてよい(免除する)制度ではなく、あくまで保険料の支払いを先延ばしにする(猶予する)制度の一種です。あとから保険料を納めないと、老後の年金の受取額は、保険料を納めた人よりも少なくなってしまいます。令和2年国民年金被保険者実態調査(※外部サイトへ遷移します。)(2022年6月、厚生労働省)によると、学生納付特例制度または納付猶予制度を知っていると答えた学生納付特例者のうち、「保険料の猶予を受けた場合、さかのぼって保険料を納めなければ、猶予になった期間は年金額※には反映されない」ことを知っていると答えた方は4割しかいませんでした(※ ここでの「年金額」は、「老後の年金額」のことを意味している設問であると考えられます。障害基礎年金の年金額は、障害の程度と条件を満たすお子様の人数のみで決まります。)。

図表5 学生納付特例者に対する「猶予期間分の年金額反映」に関する周知度

Q. 保険料の猶予を受けた場合、さかのぼって保険料を納めなければ、猶予になった期間は年金額には反映されない 知っていた 44.1% 知らなかった 55.9%

(出所)厚生労働省 「令和2年国民年金被保険者実態調査結果」より三井住友トラスト・資産のミライ研究所作成

学生納付特例制度は、あくまで学生期間中に保険料が支払えないときの一時しのぎです。この制度を使った後、保険料を追納、いわば出世払いすることで、老後の備えになります。追納は社会保険料の支払いにあたるので、社会保険料控除の対象にすることができます。追納したときは、確定申告または年末調整を忘れないようにしましょう。なお、出世払いは10年以内(例えば、2023年度に追納できるのは2013~2022年度分のみ)なので、忘れないように注意が必要です。また、3年度以上昔の保険料を支払う場合には、支払わないといけない額が若干加算されることも留意点です。ただし、出世払いが間に合わなかった場合の最終手段にはなりますが、60歳以降も国民年金に任意加入して基礎年金を積み上げることも一応できます。

まとめ

学生納付特例制度を使えば、学生のうちから保険料の負担をすることなく、しっかり障害基礎年金の保障が受けられます。一方で、学生納付特例制度によって保険料の支払いを先延ばしにした期間は、老後の年金額に反映されるわけではありません。その後の追納と合わせて、ぜひ、高校卒業までに知っておきたい金融リテラシーの一つといえそうです。

「三井住友トラスト・資産のミライ研究所」は、人生100年時代に適応した資産形成や資産活用に関する調査・研究を中立的な立場で発信することを目的として、2019年に三井住友信託銀行内に設置した組織です。人生100年時代を安心して明るく過ごすために、資産形成・資産活用に関する情報をホームページや書籍を通してお届けしています。

今週の執筆者杉浦 章友すぎうら あきとも

三井住友トラスト・資産のミライ研究所 主任研究員
2010年に京都大学大学院理学研究科修士課程修了後、三井住友信託銀行に入社。年金信託部及び年金コンサルティング部にて企業年金の制度設計・数理計算業務に従事。厚生労働省への出向を経て、年金業務推進部にて年金に関する調査・研究・情報発信活動を行っている。2022年10月よりミライ研も兼務。年金数理人、日本アクチュアリー会正会員、1級DCプランナー(企業年金総合プランナー)。翻訳書として『図表でみる世界の年金OECD/G20インディケータ(2019年版)』(明石書店、2021年、岡部史哉(監修)らとの共訳)がある。

ページトップへ戻る