2022年1月

ポジティブ・インパクト評価(要約)

鹿島建設は総合建設大手5社の一角を占めており、国内外において、関係会社と共に土木事業、建築事業、開発事業等を手掛けている。同社は、「全社一体となって、科学的合理主義と人道主義に基づく創造的な進歩と発展を図り、社業の発展を通じて社会に貢献する」という経営理念のもと、長期的に目指す姿として「人の思いと技術を受け継ぎ想像と感動をかたちにするために新しい発想で挑戦しつづける」というビジョンを掲げている。

鹿島建設は、環境・社会・ガバナンスに関する各種方針を策定し、ESGを重要な経営課題と位置づけ、ESG経営を推進している。同社は、社会課題の解決と同社の持続的成長を両立させるためのマテリアリティとして、社会への影響度および同社における重要度の観点から、事業を通じて貢献する4項目、事業継続の基盤となる3項目の計7項目を特定しており、2021年3月には、社会環境の変化とそれに伴う同社グループへの影響を整理し、社内外の意見交換を重ねたうえで、一部見直しを行っている(図表①)。新中期経営計画(2021-2023)では、見直したマテリアリティをベースに戦略構築を行い、ESGマネジメントの観点から2023年度のKPI目標を定め、目標達成に向けた取り組みを推進している。

鹿島建設は、サステビリティ活動推進にあたっては、環境関連課題を審議・決定する機関として、社長を委員長とする全社環境委員会を設置し、気候変動への対応を含む環境に係る重要な方針や施策について審議・決定しており、重要な方針については取締役会や経営会議に付議し決定している。社会関連課題のうち、人権に関しては人事部管掌役員を委員長とする人権啓発委員会、安全に関しては社長を委員長とする中央安全衛生委員会を設置しており、それぞれ年間2回程度開催される各委員会において議題を審議・決定している。なお、重要な事項に関しては経営会議で決定しており、各委員会・経営会議での決定事項については各委員会がPDCAサイクルを回し各事業部門への落とし込みを行っている。

本ファイナンスでは、鹿島建設の事業活動全体に対する包括的分析が行われた。同社のサステナビリティ活動も踏まえ、インパクト領域につき特定のうえ「脱炭素社会移行への積極的な貢献を主とする環境負荷の低減」、「新たなニーズに応える機能的な都市・地域・産業基盤の構築」、「長く使い続けられる社会インフラの追求」、「安全・安心を支える防災技術・サービスの提供」、「安心・安全・快適で魅力的な労働環境の創出」の5項目のインパクトが選定された(図表②)。そして、各インパクトに対してKPIが設定された。

図表①:サステナビリティに関するマテリアリティ

図表②:ポジティブ・インパクト・ファイナンスで設定した目標と指標(KPI)

テーマ 内容 目標と指標(KPI) SDGs
脱炭素社会移行への積極的な貢献を主とする環境負荷の低減 事業活動における環境負荷の低減はもとより、建造物のライフサイクルを考慮し、脱炭素社会・資源循環社会・自然共生社会を実現する
  • 事業及びサプライチェーンから排出されるCO2の削減とカーボンオフセット

    目標
    • 2023年度までにCO2排出量(スコープ1・2)の原単位を2013年度比で26%以上削減する。
    • 2030年度までにCO2排出量(スコープ1・2)の原単位を2013年度比で50%以上削減する。
    • 2050年度までにグループ全体のCO2排出量(スコープ1・2)のカーボンニュートラルを達成し、スコープ3については2013年度比で80%以上削減する。
    • 2023年度までにSBT認証を取得する。
    指標(KPI)
    • CO2排出量(スコープ1~3)
    • SBT 認証の取得
  • 廃棄物最終処分率の削減と再生材利用率の向上

    目標
    • 2023年度までに建設廃棄物最終処分率3%未満を実現する。
    • 2030年度までに建設廃棄物最終処分率0%を実現する。
    • 2030年度までに主要資材での再生材利用率60%以上を実現する。
    • 2050年度までに建設廃棄物のゼロエミッション化とともに、サスティナブル資材の活用、建造物の長寿命化により建設事業での"ZeroWaste"を実現する。
    指標(KPI)
    • 建設廃棄物最終処分率
    • 主要資材における再生材利用率
  • 生物多様性優良プロジェクトの推進

    目標

    建設事業における自然・生物への影響を抑制し、新たな生物多様性の創出・利用を促進することで、建設事業全体で"Zero Impact"を実現する。

    指標(KPI)

    生物多様性優良プロジェクト件数及び取組内容

12 つくる責任 つかう責任
13 気候変動に具体的な対策を
15 陸の豊かさも守ろう
新たなニーズに応える機能的な都市・地域・産業基盤の構築 価値観・行動様式の変化に伴い多様化するニーズに応えた空間の提供
目標
  • ヒト中心の持続可能な街づくりを目指して、ヒューマン・スマート・ソサエティを実現する。
  • 先端技術と高度なマネジメントの活用による課題解決と新たな価値の創出を目指したまちづくり(スマートシティ)を推進する。
指標(KPI)

建物・インフラの構築、まちづくり・産業基盤整備の分野における、住みやすさ、働きやすさ、ウェルネスなどの機能性向上への取組状況

3 すべての人に健康と福祉を
8 働きがいも経済成長も
11 住み続けられるまちづくりを
長く使い続けられる社会インフラの追求 将来にわたり安心して使い続けられる優良な社会インフラの整備
目標

建造物の長寿命化、改修・更新分野における技術開発を推進し、優良な社会インフラを整備する。

指標(KPI)

建造物の長寿命化などの技術開発や施設・建物の管理高度化に関する取組状況

9 産業と技術革新の基盤をつくろう
11 住み続けられるまちづくりを
12 つくる責任 つかう責任
安全・安心を支える防災技術・サービスの提供 災害に強い建物・インフラの建設や技術開発
目標

防災技術・サービスの高度化に努め、安心して暮らせる安全な社会を実現する。

指標(KPI)

防災技術・サービスの高度化に関する取組状況

9 産業と技術革新の基盤をつくろう
11 住み続けられるまちづくりを
安心・安全・快適で魅力的な労働環境の創出 次世代の担い手確保と魅力ある就労環境の整備
目標

2030年度までに、安心・安全・快適で、全ての建設技能者が魅力を感じる現場の実現、並びに多様な人材が集う自由闊達な組織を形成する。

指標(KPI)

次世代の担い手確保、安全・安心な職場形成、ダイバーシティ&インクルージョン並びに生産性向上への取組状況

3 すべての人に健康と福祉を
4 質の高い教育をみんなに
5 ジェンダー平等を実現しよう
8 働きがいも経済成長も
10 人や国の不平等をなくそう
17 パートナーシップで目標を達成しよう

上記KPIのモニタリング状況

目標と指標(KPI) 2021年度実績 2022年度実績 2023年度実績
1 脱炭素社会移行への積極的な貢献を主とする環境負荷の低減
  • 事業及びサプライチェーンから排出されるCO2の削減とカーボンオフセット

    目標
    • グループ全体のCO2排出量(スコープ1・2)を2026年度までに23%以上、2030年度までに42%以上削減する(2021年度比)。
    • グループ全体のCO2排出量(スコープ3(カテゴリー1及び11))を2026年度までに10%以上、2030年度までに25%以上削減する(2021年度比)。
    • 2050年度までにグループ全体のCO2排出量(スコープ1・2・3)のカーボンニュートラルを達成する。

    2021年度及び2022年度モニタリング時に、グループ全体の排出量算定が完了したこと受け、「2023年度までに施工現場からのCO2排出量(スコープ1・2)の原単位を2021年度比で7%以上削減する。」「2030年度までにCO2排出量(スコープ1・2)の原単位を2021年度比で42%以上削減し、スコープ3(カテゴリー1及び11)については2021年度比で25%以上削減する。」「2050年度までにグループ全体のCO2排出量(スコープ1・2・3)のカーボンニュートラルを達成する。」から脱炭素目標を更新しております。

    2023年度モニタリング時に、SBT認証取得、及び鹿島環境ビジョン2050plusの策定を受け、達成済みの「2023年度までにSBT認証を取得する。」を目標から外し、2026年度目標を追加しております。

    指標(KPI)
    • グループ全体のCO2排出量(スコープ1~3)
  • 施工現場(単体):原単位14.0t/億円
  • スコープ1・2(グループ):37.4万t-CO2
  • スコープ3カテゴリー1及び11(グループ):1,231.0万t-CO2
  • スコープ1・2・3(グループ):1,382.7万t-CO2
  • SBT認証:2023年度の取得に向けて対応中
  • 施工現場(単体):原単位16.0t/億円(2021年度比14.9%増)
  • スコープ1・2(グループ):42.9万t-CO2(2021年度比14.7%増)
  • スコープ3カテゴリー1及び11(グループ):1,856.9万t-CO2(2021年度比52.3%増)
  • スコープ1・2・3(グループ):2,072.9万t-CO2(2021年度比49.9%増)
  • SBT認証:2023年度の取得に向けて対応中
  • 施工現場(単体):原単位13.9t/億円(2021年度比0.2%減)
  • スコープ1・2(グループ):41.4万t-CO2(2021年度比10.7%増)
  • スコープ3カテゴリー1及び11(グループ):1,773.1万t-CO2(2021年度比44.0%増)
  • スコープ1・2・3(グループ):1,977.3万t-CO2(2021年度比43.0%増)
  • SBT認証:2023年7月取得済み
  • 廃棄物再資源化等率の向上と再生材利用率の向上

    目標
    • 建設廃棄物再資源化等率を2026年度に97%、2030年に99%、2050年度に100%を実現する。
    • 主要資材での再生材利用率を2026年度までに40%、2030年度までに60%を実現する。

    2023年度モニタリング時、鹿島環境ビジョン2050plusの策定を受け、「建設廃棄物最終処分率3%未満を実現する。」「2030年度までに建設廃棄物最終処分率0%を実現する。」「2030年度までに主要資材での再生材利用率60%以上を実現する。」「2050年度までに建設廃棄物のゼロエミッション化とともに、サスティナブル資材の活用、建造物の長寿命化により建設事業での"Zero Waste"を実現する。」から上記目標に変更しております。

    指標(KPI)
    • 建設廃棄物再資源化等率
    • 主要資材における再生材利用率

    2023年度モニタリング時、鹿島環境ビジョン2050plusの策定を受け、「建設廃棄物最終処分率」から「建設廃棄物再資源化等率」に変更しております。

  • 建設廃棄物最終処分率:2.4%
  • 主要資材における再生材利用率:99%超(アスファルト・コンクリート)

セメント・砕石・鉄鋼についてはデータ集計に向けて対応中

  • 建設廃棄物最終処分率:2.7%
  • 主要資材における再生材利用率:99%超(アスファルト・コンクリート)

再生材の定義及び実績把握方法を検討中

  • 建設廃棄物最終処分率:3.0%
  • 主要資材における再生材利用率:再生材の定義及び実績把握方法を継続検討中につき非開示
  • 生物多様性優良プロジェクトの推進

    目標

    NbS提供(環境認証等取得)件数を2026年度に10件/年、2030年に100件/年

    NbS:Nature-based Solutions(自然の機能を活用して社会的課題に対処する取組)

    2023年度モニタリング時、鹿島環境ビジョン2050plusの策定を受け、「建設事業における自然・生物への影響を抑制し、新たな生物多様性の創出・利用を促進することで、建設事業全体で"Zero Impact"を実現する。」から上記目標に変更しております。

    指標(KPI)

    NbS提供(環境認証等取得)件数

    2023年度モニタリング時、鹿島環境ビジョン2050plusの策定を受け、「生物多様性優良プロジェクト件数及び取組内容」から上記KPIに変更しております。

  • 生物多様性優良プロジェクト:6件
  • 生物多様性優良プロジェクト:7件
    森の中のキャンパス計画である「麗澤大学新学部設置に伴うキャンパス再整備計画」、地域の地形を生かした建物配置のマンション計画である「GFS計画」等を推進。
  • 生物多様性優良プロジェクト:14件
2 新たなニーズにこたえる機能的な都市・地域・産業基盤の構築
目標
  • ヒト中心の持続可能な街づくりを目指して、ヒューマン・スマート・ソサエティを実現する。
  • 先端技術と高度なマネジメントの活用による課題解決と新たな価値の創出を目指したまちづくり(スマートシティ)を推進する。
指標(KPI)

建物・インフラの構築、まちづくり・産業基盤整備の分野における、住みやすさ、働きやすさ、ウェルネスなどの機能性向上への取組状況

  • アフターコロナに対応する新たな建物の構築に向けて、感染対策に配慮した空調システム「Stela UVC (ステラユーブイシー)」を開発し、自社所有する横濱ゲートタワーに試験導入して実証を進めている。
  • 順天堂東京江東高齢者医療センターを舞台に、①「そと部屋®」を利用した認知症対策・予防、②メタバースを活用した情報発信と地域医療連携の推進、③デジタルツインによる転倒・転落予防の3つのテーマに取り組んでいる。
  • 開放的な居室空間を提供しながら、より高い安全性を確保した超高層建物を実現する「K-ARCS」(カークス®)構法を開発。従来のRC造の超高層住宅に比べて、CFT造による高い耐震性と、オイルダンパ技術を応用した制震装置「HiDAX」による建物全体の揺れの大幅な低減により、柱や梁の本数を減少させ、自由度の高い居室空間を実現可能にした。
  • より快適で魅力あるオフィス空間の創造のため、「The GEAR」に快適なオフィス空間の実証施設を共同開設。
3 長く使い続けられる社会インフラの追求
目標

建造物の長寿命化、改修・更新分野における技術開発を推進し、優良な社会インフラを整備する。

指標(KPI)

建造物の長寿命化などの技術開発や施設・建物の管理高度化に関する取組状況

  • 施工中の成瀬ダム堤体打設工事において、高性能光ファイバを用いて、堤体コンクリートのひび割れ発生要因であるひずみ挙動をリアルタイムに検知することに業界で初めて成功した。今後は検知したひずみ挙動の計測データを基にひび割れ発生のメカニズムを解明し、より有効な事前のひび割れ制御対策を考案していくことで、将来にわたり安心して使い続けられる優良な社会インフラの整備に貢献することが期待できる。
  • グループ3社と共同で、地方自治体の公共施設アセットマネジメントを支援・分析するシステム「KCITY-M」を開発した。本システムの活用により、公共施設の維持・再編方針の立案のみならず、防災・BCP対策等の地方自治体への支援が可能となるとともに、インフラ維持管理等の合理的なサービス提供を通じて、地域社会の課題解決への貢献が期待される。
  • 道路橋床版取替工事に伴う交通規制を大幅に短縮できる「スマート床版更新(SDR1)システム」を床版取替工事に初めて適用した。この結果、既設床版の撤去から新設床版の架設に至る一連の作業において、最大85%の工期短縮が可能であることを実証している。
  • 屋外環境下においても錆びることなく、長期的な活用が可能な光ファイバセンシングを活用したインフラ整備・維持管理の研究技術開発を推進している。安全で品質の高い施工管理に向けてインフラに設置した光ファイバセンサを残置しておくことで、効率的な維持管理や迅速なBCP等への活用も期待される。
  • 「スマート床版更新(SDR)システム」を広島自動車道奥畑川橋、関越自動車道阿能川橋に適用し、大幅な工期短縮とソーシャルロス低減を実現。
  • 超高強度コンクリートを使用した鉄筋コンクリート造柱を、建物の重量を受けたまま補修・補強する技術を開発。大地震や設計想定を上回る地震によって超高強度RC造柱が損傷した場合でも、建物を使い続けながら柱の耐力および性能を維持・回復することを可能にした。
4 安全・安心を支える防災技術・サービスの提供
目標

防災技術・サービスの高度化に努め、安心して暮らせる安全な社会を実現する。

指標(KPI)

防災技術・サービスの高度化に関する取組状況

  • 港区赤坂地域において地域に根付いた災害時及び平常時の街の見える化を通じた安全安心の提供、利便性向上、街の賑わい創出に向けたスマート化実証を進めている。
  • 企業の水災害を想定したBCPを支援するため、「リスク評価」「対策立案」「対策工事」「運用支援」を一気通貫で提供するトータルエンジニアリングサービスの提供を開始した。
  • 港区赤坂地域のまちづくり対応を通じて、都心部の地震動分析につなげるべく赤坂地域の公園に地震計を設置。港区に対し㈱イー・アール・エスの地震分析サービスを提供。
  • 自治体が定めるハザードマップを確認した上で周辺状況や建物用途を調査・評価し、行動タイムラインや災害対策案の考案・選定を行うことで、企業の水災害を想定したBCPサポートを実施。
  • 巨大地震に伴い発生する長周期地震動による超高層建物全体の揺れを、従来の耐震・制震架構と比べ大幅に低減する制御層制震構造®「KaCLASS」を開発。阪急阪神不動産㈱が事業を進める超高層タワーレジデンス「ジオタワー大阪十三」(大阪市淀川区)に初導入。
  • 音楽ホールなどで採用されている防振天井の耐震性を容易に高めることができるデバイス「RESI-CUBE」(レジキューブ)を開発。
5 安心・安全・快適で魅力的な労働環境の創出
目標

2030年度までに、安心・安全・快適で、全ての建設技能者が魅力を感じる現場の実現、並びに多様な人材が集う自由闊達な組織を形成する。

指標(KPI)

次世代の担い手確保、安全・安心な職場形成、ダイバーシティ&インクルージョン並びに生産性向上への取組状況

  • 優秀登録職長手当制度「鹿島マイスター」運用状況:スーパーマイスター119人、マイスター401人選定
  • 優良技能者報奨金制度「新E賞」運用状況:735人選定
  • 女性管理職数:164人
  • 女性新卒採用者比率:25.1%
  • 二次下請以内の施工体制達成率:72.4%
  • 優秀登録職長手当制度「鹿島マイスター」運用状況:スーパーマイスター127人、マイスター407人選定
  • 優良技能者報奨金制度「新E賞」運用状況:768人選定
  • 女性管理職数:189人
  • 女性新卒採用比率:28.6%
  • 二次下請以内の施工体制達成率:74.3%
  • 優秀登録職長手当制度「鹿島マイスター」運用状況:スーパーマイスター149人、マイスター422人選定
  • 優良技能者報奨金制度「新E賞」運用状況:854人選定
  • 女性管理職及び女性管理職候補者数:212人
  • 女性新卒採用者比率:25.7%
  • 二次下請以内の施工体制達成率:77.2%(2024年1月時点)

プレスリリース

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