ポジティブ・インパクト・ファイナンスの取組み事例(王子ホールディングス株式会社)
2024年3月
ポジティブ・インパクト評価(要約)
王子グループは、「革新的価値の創造」「未来と世界への貢献」「環境・社会との共生」を経営理念として掲げている。その実現に向けた戦略として、2022年5月に「長期ビジョン」を発表し、2030年までの事業戦略の柱として、「環境問題への取り組み」「収益向上への取り組み」「製品開発への取り組み」の3点を掲げた。同時に、「森林を健全に育て、その森林資源を活かした製品を創造し、社会に届けることで、希望あふれる地球の未来の実現に向け、時代を動かしていく」を「存在意義(パーパス)」に定めた(図表①)。
長期ビジョンの実現にむけた中期的な指針として、「2022-2024年度中期経営計画」が策定され、理念・ビジョンに根差した経営戦略のもとで、事業運営が進められている。加えて、かかる事業戦略と連動する形で、2050年のネット・ゼロ・カーボン実現を目指す「環境ビジョン2050」の実現に向けた2030年までのマイルストーンとして、「環境行動計画2030」が策定されている。前述の「長期ビジョン」の中で、かかる行動計画の達成も目標の一つに設定されており、事業戦略と環境問題との関連性を意識した経営がなされている。
王子グループでは、2022年4月に、代表取締役社長を委員長として、取締役、各カンパニーのトップを委員とする「サステナビリティ推進委員会」を設置し(図表②)、サステナビリティに係る各種リスクや対応方針、実行計画策定、進捗状況の把握・評価等につき協議を行うとともに、グループ横断的にリスク・機会を特定し、各種部会等を通じてグループ内への浸透を図っている。また、森林資源を核とした事業展開を支える5つのコア・コンピタンスを特定し、かかるコンピタンスを活かして解決すべきサステナビリティ重要課題を特定している(図表③)。
本評価では、王子グループの事業活動全体に対する包括的分析を行った。同社のサステナビリティ活動も踏まえ、インパクト領域につき特定のうえ、「持続可能な森林経営」、「気候変動の緩和・対応」、「資源の循環的利用」「サプライヤーを含む人的資本の保護・活用」の4項目のインパクトを特定した。これら4項目のインパクトはいずれも同社のマテリアリティに係るものであり、それぞれ設定したKPI(図表④)に基づき、今後モニタリングを実施する予定である。
図表①:存在意義(パーパス)

図表②:サステナビリティ推進体制

図表③:サステナビリティ重要課題

図表④:ポジティブ・インパクト評価で設定した目標と指標(KPI)
テーマ | 主な内容 | 主なKPI(指標と目標) | SDGs |
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持続可能な森林経営 | 森林の多面的機能(生物多様性保全、土砂災害防止機能/土壌保全機能、水源涵養機能、物質生産機能等)の発揮 |
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気候変動の緩和・対応 | 気候変動の緩和・対応 |
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資源の循環的利用 | 循環型社会の実現 |
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サプライヤーを含む人的資本の保護・活用 | 人的資本の保護・強化 |
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上記KPIのモニタリング状況
テーマ | 目標と指標(KPI) | 2023年度実績 | 2024年度実績 | 2025年度実績 | ||
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1 | 持続可能な森林経営 |
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(a)持続可能性に配慮した森林経営 |
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(b)海外植林地の拡大 |
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275千ha |
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(c)グリーンイノベーションによる新たな価値創造 |
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バイオケミカル研究センター(江戸川)にベンチプラントを設置。世界初のベンチプラント規模の「木質由来ポリ乳酸」合成に成功。 |
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2 | 気候変動の緩和・対応 |
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(a)生産効率向上、省エネルギー、再生可能燃料・廃棄物燃料の活用によるGHG排出量削減(Scope1、Scope2) |
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GHGネット排出量28.1%削減
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(b)持続可能な森林経営によるCO2の固定 |
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1億2,456万トン |
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3 | 資源の循環的利用 |
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(a)紙のリサイクル(古紙利用率の向上) |
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68.3% |
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(b)取水量削減と水のリサイクル |
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14.2%削減 |
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4 | サプライヤーを含む人的資本の保護・活用 |
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(a)人権の尊重 |
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(b)環境や社会に配慮したCSR調達の推進 |
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(c)ダイバーシティ推進 |
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3.9% |
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