医療技術の進歩などにより、我が国の平均寿命がさらに延び、多くの人が100歳以上の長い人生を生きることになるといわれていますが、現在の社会や企業の各種制度は、「人生100年」を前提としていないため、これまでになかったさまざまな不安を抱えることになることが予想されます。三井住友信託銀行では2019年4月、「人生100年応援部」を新たに設置し、「人生100年時代」の到来により生じるさまざまな課題に対し、適切なソリューションを提供してまいります。

人生100年応援部 部長
谷口 佳充
昭和から平成に移った頃「これから人生80年の時代になる」と言われ、さまざまな変化がございました。あれから30年、多くの方に「百寿」が訪れる令和の時代において、信託をはじめとしたソリューションで、皆さまの豊かな人生を応援いたします。
谷口 佳充

安心とたのしみで豊かな長寿を」では、「健康」に関連して、「フレイル」や、「見えない資産-社会とのつながり」について紹介いたしました。今回も「健康」の話題をご紹介します。

健康について

「健康」というと、皆さんはどういう状態と思われるでしょうか。「健康診断」などからイメージされるように、「病気ではないこと」「病気として設定されている基準数値よりも良いこと」でしょうか?「健康」は、皆さん個人個人によって、いろんな意味合いがあるとは思うのですが、WHOの定義では、下の囲みの通りとなっています。日本語訳は戦後すぐの官報から引用していますので、少し古く感じるかもしれませんが、皆さんのイメージと合いますか?

WHOの健康の定義

読んでみて少し気になるのは、「完全な」というところでしょうか。英語の“Health”という言葉自体が、”Whole”などと同じ語源で、やはり完全という意味合いがあるとも言われているようですが、複数の慢性疾患を抱える高齢社会の中で、「完全な」を徹底することは難しく、また過度な医療依存にもなりかねません。例えば日本と同じように高齢社会に直面しているオランダでは、「健康」について、「社会的・身体的・感情的問題に直面したときに適応し、みずから管理する能力」という新しい健康概念「ポジティヴヘルス」が提起され、「身体的機能(体調、睡眠等)」「メンタルウェルビーイング(記憶力、変化に対する適応等)」「生きがい(生きる意欲、感謝の心等)」「生活の質(住居、生活を賄える経済力等)」「社会参加(社会的な接触、帰属感等)」「日常機能(自分の限界を知る、働ける等)」という6つの次元にフォーカスをあて、疾患であってもそれに対処し乗り越えていくこと、前向きに人生を過ごすことを、個人で地域で、国全体で、推進しようとしているそうです。漢字の「健康」は、中国の五経の一つ易経にある「健体康心(体がすこやかで、心がやすらかなこと)」から作られたといわれています。「病は気から」、人生100年時代に大切なのは、前向きな気持ちによって心をやすらかにする力なのかもしれません。

健康寿命

また健康について、2000年にWHOが提唱した言葉に、「健康寿命」があります。「寝たきりや認知症で介護が必要な期間を含まない寿命」ということで、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」とされており、この健康寿命と平均寿命のギャップが図1になります(残念ながら日本は欧米に比較して、健康でない期間が長いそうです)。人生100年時代に向けては、この健康寿命を延ばすことと共に、ギャップ期間も含めた「ポジティヴヘルス」の実践が大切です。

図1健康寿命と平均寿命

健康寿命と平均寿命のグラフ

認知症について

そして、人生が80年から100年に延びる中で、「認知症」への対応がクローズアップされています。図2にあるとおり、人生が80年で終焉を迎えていれば、認知症は一桁パーセントの出現率のところ、80歳を超えたあたりから出現率が高まり、例えば95歳以上の女性では4人に3人ほどと、他人ごととしておくには難しいくらい、大きな割合になってきます。 認知症を発症すると、個人差はあるのですが、記憶力や、意思さえも消えていく可能性があり、財産管理はもちろん日常生活も難しくなっていきます。

図2年齢別認知症出現率

年齢別認知症出現率のグラフ

ただ、認知症は、現在の医学では治療が難しいといわれていますが、仕方ないということではなく、早期発見・早期治療によって、改善することができたり、進行を遅らせることができます。例えば、認知症は、「遺伝因子と環境因子との積み重なり」で、一定のラインを超えると発症するといわれています。環境因子は自分でコントロールすることができるものであり、糖尿病、高血圧、脂質代謝異常などに象徴されるメタボリック症候群などは認知症の確率を高め、一方で、赤ワイン、緑茶など抗酸化作用のある食生活は予防効果があるといわれています。これらをポジティヴに意識し、生活環境をコントロールすることで、発症ラインへの到達が無くなったり、遅くなったりする可能性があるわけです。例えば図3にあるような簡単なチェックをしてみて、複数項目が該当する場合などは、医師の診断を受けることで、早期発見ができます。

図3認知症のチェック

認知症による変化は、ご本人より周りが先に気づく場合も多いものです。家族や身近な人がチェックをしてみましょう。

認知症のチェックシート

認知症の方の数は2050年までに世界で1億人を超え、そのうち日本では1,000万人を超えると推計されています。そのような中で大切なことは、家族や社会が、認知症とともに生きる環境、認知症になっても、これに対処し、乗り越え、笑顔で暮らせる環境を作っていくことだと思います。認知症に対応するための器として、日本では、後見制度、家族信託や自立支援事業などがあり、三井住友信託銀行でも後見制度支援信託、セキュリティ型信託、安心サポート信託など複数のソリューションをご用意し、また今年6月からは新たに「100年パスポート」もラインナップに加えております。新しい「健康」社会に向け、これからも当社は、人生100年時代の皆さんをしっかりと応援いたします。

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