子どもがいない、もしくは子に頼らず暮らしたいと考える高齢世代が増加しています。そうした方の選択肢のひとつが“高齢者の住まい”への住み替えです。しかし、高齢期の住まい選びには多くの課題や注意点があり、事前に以下のステップで十分に確認することが不可欠です。

高齢者施設への住み替えのポイントについて、シニア世代の住まい選びについて詳しい、山中由美氏に解説をいただきました。

山中氏は国内外の高齢者施設を約700ヵ所訪問調査し、シニア世代の暮らし・資金計画、介護に関するテキスト発行やセミナーを多数実施されています。

(株式会社Pro・vision所属 1級ファイナンシャル・プランニング技能士、福祉住環境コーディネーター 他)

山中 由美(やまなか ゆみ)氏 山中 由美(やまなか ゆみ)氏
  1. ステップ
    住み替え時は、自立?それとも要介護?

    「将来老人ホームへ入居したい」「頼る人がいないので将来は施設へ」など、漠然と考えている方は少なくありません。しかし、多くの方が"高齢期の住み替え"を検討する初期に、遠回りをしてしまいがちです。最初に考えておきたいのが、住み替えをするとき、ご自身が「自立で元気なとき」なのか「介護が必要になってから」なのかということです。

    住み替え時の心身の状況により、探す施設は全く異なります。簡単に言うと、元気なうちの住み替えは、小ぶりなマンションに困ったときの支援サービスが付いたようなもので、現在の生活スタイルと大きく変える必要はありません。しかし、要介護になってからの住み替え先は、ワンルームにトイレ・洗面付きの介護をするための施設となり、環境は激変します。入居する際の心身状況により、設備もサービス内容も全く違うのです。

  2. ステップ
    住み替えの条件を固める

    次に、住み替えをするための条件をまとめてみましょう。長年連れ添った夫婦でも、項目ごとに考えていくと、希望が違ってくることが多々あります。まずは、希望を全部出してみて、その中から「譲れない条件」「どちらでもいい条件」「よく考えると不要な条件」などに分類し、これから検討する施設とどれくらい合うか確認してみます。特に注意しておきたいのは、「元気なうちに住み替えを」と考える場合、『今』を視点に見てしまいがちですが、将来身体が思うように動かなくなったときでも、その条件で満足できるかどうか、ということが重要です。

    また、100%条件が合致する施設はまずないと覚悟しておきましょう。施設を見たり調べたりしていると、「これがいいな」「あれもいいな」と目移りし、例えば、将来の介護サービスが信頼できることなどの本来の目的からずれていく場合がよくあります。しかし、もっとも大切なのは「住み替えの目的」。高齢期の住まい選びは、希望条件を諦めていくほうが多いくらいです。迷ったら必ず原点(目的)に戻るように心掛けてください。

    希望・条件の整理

    • 住み替えの目的
    • 希望する地域
    • 入居一時金の予算
    • 月々の費用の予算
    • 自室の広さ(間取り)
    • 自室に必要な設備
    • 必要なサービス
    • 一番重視するポイント
  3. ステップ
    複雑な高齢者の住まいの基礎知識を学ぶ

    介護保険が施行される前は、「老人ホーム」と聞くと、役所にお願いして入れてもらう介護施設か、悠々自適な高額の有料老人ホームか、というイメージでした。しかし、介護保険施行後、高齢者の住まいは、種類(分類)が複雑になり、施設数も爆発的に増加しており、基本的な分類と特徴を理解するだけでも非常に難しくなっています。さらに、同じように見えても、根拠法や制度、仕組みは違っています。名称やイメージだけで合点せず、まずは正しい基礎知識をしっかり学ぶことが必要不可欠です。

    また、パンフレットは広告・宣伝のための資料です。基本は良いことばかりが記載されています。高齢者の施設には「重要事項説明書」のように、費用やサービス内容の詳細を説明する資料が必ずあります。話を聞くだけでなく、正式な書面になったものも必ず入手し、理解するようにしてください。

  4. ステップ
    現場を見て、見えない部分も確認すること

    関心のある施設には、必ず見学に行くことが重要です。残りの人生を託す先を資料だけで決めることはできません。人間は情報の80%を目から入れると言われます。現場で設備や雰囲気を見ることも大切なのですが、高齢期の住まい選びは目で見える部分以上に見えないソフト(サービス)面の確認を怠れません。職員の様子、入居している人の様子なども含めて、そこでの生活を「自分が暮らすとすると?」と想像して確認してみてください。

    「安心」という言葉に安心しない

    安心は自分で感じるもので、他者から押し付けられるものではありません

    「五感」と「第六感」を使う

    見るだけでなく、聞く、嗅ぐ、味わう、触れる、さらに「雰囲気」もキャッチしましょう

    経営状況の確認

    営業担当の話だけでなく、財務諸表など事業者の経営状況のわかる資料を入手しましょう

「高齢者の住まい」の特徴

公的施設、民間施設、入居時の心身状態による条件など、さまざまな分類で分けられます。高齢者の施設だからといって、全てに食事や介護がついているわけでもありません。しっかりとサービス面も費用を含め確認しておきましょう。

住まいの種類と価格帯の目安
高齢者の住まいの費用×身体状況の目安

施設によってさまざまな入所要件があります。

  • 入所時の心身の状態
  • 要介護度
  • 持病(医療対応)

さらに、退居要件も重要です。施設で対応できない病気や重度の認知症になった場合、費用が支払えなくなった場合など、入居後に困るケースもありますので、必ず事前に確認を。

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