住まいでできる健康配慮
住まいの理想は、住み慣れた環境での生活をなるべく長く継続する「エイジング・イン・プレイス」と言われています。病気を防ぎ健康に過ごすためには、住まいの温熱環境、空気環境を快適に整えることが重要です。積水ハウス株式会社・商品開発部の斉藤浩幸グループリーダーに「住まいでできる健康配慮」について解説いただきました。
住まいの温熱環境を考える
近年、ヒートショックをはじめとする家庭内事故の増加を受けて、室内の温度と血圧との関連性が注目されています。ヒートショックとは、急激な温度変化により身体が受ける影響のことで、暖かいリビングから寒いトイレや脱衣室など、温度差の大きいところへ移動すると、身体が温度変化にさらされて血圧の急変(上昇)を引き起こす、というものです。入浴事故や転倒転落などの事故は、心疾患(心筋梗塞や狭心症)や脳血管疾患といった循環器疾患が引き金となって起こることが多いといわれています。循環器疾患は、高血圧が主な要因とされ、最高血圧(収縮期血圧)が高い人ほど発症の確率が上がると考えられます。例えば、室内温度が10度下がるごとに血圧がどのように変化するかを調べた調査では、40歳をこえると血圧の上昇が顕著になります。
冬に家の中で厚着をして寒さに耐えたり、夏にエアコンを消して汗びっしょりになったりすることは、身体に悪影響を及ぼします。寒さ、暑さを我慢するのではなく、住まいの温熱環境の改善を図り、快適な暮らしをすることが、中高年の方の健康維持に良い影響をもたらすと考えられます。
断熱改修により身体への負担が減ります
断熱改修を想定した実験結果によると、家全体の断熱改修を行うことで、暖房をかけている部屋(暖房室)と暖房をかけていない部屋(非暖房室)との室温の差が小さくなり、また、暖房室から非暖房室へ移動したときの血圧変動も、断熱改修後の方が小さくなることがわかりました。また、同時に部屋の天井付近と床付近の温度差も小さくなることから、どこにいても均一な温度の室内環境が保たれ、身体への負担がぐんと少ない住まいになります。断熱性は国が基準を設定しているものの、古い家はいまの時代に即していないという現実があります。20年前、30年前に建てられた家は、現在の住まいの断熱性に比べると大きく劣っていることになります。リフォームによって現在の新築住宅に近い断熱性に高めることで、より快適な暮らしが実現するとともに、冷暖房費も抑えられます。
こんなことが思い当たったら断熱性能を見直すサイン
- 冷暖房の利きが悪く、消すとすぐ元の室温に戻る
- 冬は足の裏が冷たく、靴下が手放せない
- 窓に結露が発生する
- エアコンの暖房で頭がのぼせるのに足元は寒い
- 冬の朝、なかなか布団から出られない
- 光熱費の高さが気になる
- 窓際に近づくと寒さを感じる
- 廊下やトイレ、洗面所が寒い
- 夏場に外から帰ると、家の中が蒸し暑い
住まいの空気環境を考える
目には見えませんが、食べ物や水なども含め、身体への摂取量が最も多いのが室内空気です。今やアレルギーに悩む人は3人に1人以上といわれ(厚生労働省調査)、近年はますます増えつつあります。この要因として、特に室内の空気質が影響を与えているのではないかと指摘されています。ハウスダストやダニ・カビ、花粉・農薬・ばい煙などは、以前からアレルギーの原因物質として知られていますが、近年特に問題となっているのが化学物質です。化学物質は、洗剤や芳香剤、防虫剤、化粧品やヘアスプレーなど、身近な生活用品のいろいろなものに含まれています。必要以上に使用すると、室内の空気質を悪化させることもあるので注意が必要です。
人が一生涯に摂取する物質の割合
「化学物質の抑制」と「換気・空気清浄」が大切です
具体的に室内空気のすこやかさを高めるために、大きく2つの対策が考えられます。ひとつは、「化学物質の発生を抑え、発生したものを吸着させる」建材を選定することです。できるだけ化学物質を出さない建材で住まいづくりを行うとともに、家具などから発生した化学物質を吸着する塗り壁やアクセントタイルを採用することが有効と言えます。
住まいの中の様々なものから発生する化学物質
化学物質を吸着する機能建材
もうひとつの対策は「室内空気を効率よく入れ替えて、常にクリーンな空気環境を保つ」換気設備の導入です。一般的には室内よりも外気の方が空気の清浄度は高いため、私たちは窓を開け、通風により空気を入れ替えます。しかし、留守中や雨天時などは通風ができる機会が限られ、また、住まいの気密性や断熱性が高くなるほど空気の入れ替わりが行われにくくなるため、換気設備が必要になってきます。また、室内空気をきれいにしようと思えば、換気量を増やせばいいのですが、換気量を増やせば増やすほど、冬季は「寒い」「暖房効率が悪い」といった問題点が生まれてきます。換気設備を計画するにあたっては、有効な換気量を確保しつつ、熱損失を抑える熱交換型の換気システムがおすすめです。
熱交換型の換気システムの例
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