“Aging in Place”― 「人生100年時代」は、住み慣れたまち、一番大切な自分の住まいで、豊かに自分らしく暮らしていくことを第一の選択肢としてあげる時代となると言われています。そして、“Well-being”― 住まいは、幸福な人生のためにとても大切な場所であることは間違いありません。人生100年応援部は、すべての皆さまのお住まいが、幸福に年齢を重ねられる「幸齢住宅」となることを応援するため、住まいと住まい方をキーワードにトピックをご紹介いたします。

三井住友信託銀行
人生100年応援部 部長
谷口 佳充
昭和から平成に移った頃「これから人生80年の時代になる」と言われ、さまざまな変化がございました。あれから30年、多くの方に「百寿」が訪れる令和の時代において、信託をはじめとしたソリューションで、皆さまの豊かな人生を応援いたします。
谷口 佳充

徒然草に描かれる住まい

つれづれなるままに、日暮らし。吉田兼好は、さまざまなことをつれづれに話していますが、幸齢住宅について、今回はこの徒然草の第五十五段前半部分の紹介から始めたいと思います。

徒然草と吉田兼好

家のつくりやうは夏をむねとすべし。

冬はいかなる所にも住まる。

暑き頃わろき住居は耐えがたきことなり。

現代風にいえば、夏の暑さ対策を第一に、家づくりを考えよう!冬はこたつに入って厚着をすれば、どんなところでも耐えられる、住むことができる!といった感じでしょうか。高温多湿の日本では、良い住まいといえば、伝統的に、涼しい爽やかな風が自然に通る家というイメージがあります。ご紹介した徒然草での住まいのコメントについて、皆さんはどう思われますか?特に夏の部分については同意するとしても、冬についてはいかがでしょう。

世界的には冬の暖かさ重視

世界保健機関(WHO)は、2018年11月に、持続可能な開発目標(SDGs)の17個のゴールのうちのゴール3(健康)とゴール11(まちづくり)の達成に寄与するための勧告として、住まいと健康に関するガイドラインを公表しています。この中で、冬の住まいの暖かさが、健康に大きく貢献するということで、冬の住まいの室温については「18℃以上を強く勧告」と記載されています。アフリカ大陸で誕生した人類ですので、当然といえば当然ですが・・・。

そしてこのWHOの室温18℃以上推奨の記載には、「小児と高齢者にはもっと暖かく」という追記があるのですが、日本は、高齢社会先進国のなかでも最先進国であるにもかかわらず、住まいの防寒性能は、「幸齢住宅で人生を豊かに」の記事でも記載のとおり、欧米と比較してみるとずいぶん遅れているといわれています。

住まいの中の温度差

そして欧米との比較でいえば、この住まいの中での温度差についても日本は課題が多いといわれているのです。暖房の考え方が、欧米がセントラルヒーティングであるのに対し、日本は局所暖房、極論をいえば、こたつ内暖房ともいえる傾向があることも一つの要因といわれています。この住まいの中の温度差について、もう少しご紹介して参ります。

では始めに、住まいの中の温度差について、断熱リフォーム工事のビフォーアフター調査の事例からご紹介します。リフォーム工事で居間と脱衣室の両方(住まい全体)が暖かくなると、住まいの中の場所による室温差も小さくなり、その結果こたつが不要となったり、脱衣室など部屋ごとの暖房のオン・オフが不要となることがあります。これによって、住んでいる方の、一日の住まいの中での活動時間(軽強度以上)が、65歳以上の方で35分ほど増加しているそうです。若い方はもう少し活動時間の増加は少なめです。厚生労働省の、国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針である「健康日本21(第二次)」でも、「身体活動・運動は、生活習慣病の予防のほか、社会生活機能の維持及び向上並びに生活の質の向上の観点から重要である」として、一日の目標平均歩数を65歳以上の男性で7,000歩、女性で6,000歩と設定しています。これに対し令和元年の「国民健康・栄養調査」によれば、65歳以上の一日の平均歩数は男性で5,396歩、女性で4,656歩で、この10年で男性は横ばい、女性は減少しているそうです。その理由は高齢期における骨折などのケガも避けるためもあるかもしれません。いずれにしても住まいのリフォームを行い、室内の温度差も無くなれば、この数字は変わってくると思われます。

活動時間以外にも、断熱リフォーム工事後に住まいの就寝前の室温が上昇したことで、過活動膀胱症状が、半分に抑制されたという調査結果もあります。また、この住まいの中の温度差については、前述の住まいの中の横移動方向の温度差に加えて、縦方向の温度差、すなわち足元、床付近の温度が低いことにも注意が必要といわれています。ある起床時と就寝前の血圧に対する室温影響の調査では、同じ1℃の低下でも、床上1mよりも床付近、すなわち足元の室温が1℃低下した場合の方が、血圧への影響が大きかったという調査結果もあります。皆さまの中には、冬に、寝るときには暖房を切る方もおられると思います。布団の中は体温に近い温度で暖かくても、朝、寒くて布団から出るのがつらくなると思います。これは住まいの中の活動時間にも影響を及ぼします。また、ある調査では、起床時の血圧も室温が低く寒いほど高い最高血圧となる傾向があり、暖かくすると落ち着くという結果が出ています。特にこの傾向は、高齢の方ほど、また女性ほど、効果が高く出るそうです。

出典:国土交通省~断熱改修等による居住者の健康への影響調査 中間報告(第3回)~

住まいの中で快適に移動・運動をするために

住まいの中で快適に移動・運動をするために

温度計を置いてみましょう

冬が始まっています。住まいの中の温度差も健康にとても大切な要素です。もしも温度計がお手元にあるなら、脱衣室やトイレ、居間に置いてみてください。同じ場所でも足元と胸元で比べてみてください。WHOが強く勧告する温度はありますでしょうか。また住まいの中でのご温度差、上下の温度差が大きくはないでしょうか。住まいは健康を育むはずの大切な場所です。それが、場合によっては、住まいの温度によって健康にネガティブな影響を及ぼしてしまっているかもしれません。健康は幸福に、幸福は健康に相互に影響を与えるといいます。ぜひ今一度ご確認を。

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