人生100年時代の住まいと住まい方 幸齢(こうれい)住宅で、人生を豊かに

“Aging in Place”― 人生100年時代は、住み慣れたまち、大切な自分の住まいで、豊かに自分らしく暮らしていくことを、第一の選択肢としてあげる時代であるといわれています。そして、“Well-being”― 住まいはまた、幸福な人生のためにとても重要な場所、一丁目一番地であるといえます。人生100年応援部は、皆さまのご自宅が、幸福と年齢を一緒に重ねていく「幸齢住宅」となることを応援し、住まいと住まい方についてのさまざまなご提案を行います。

三井住友信託銀行
人生100年応援部 部長
谷口 佳充
昭和から平成に移った頃「これから人生80年の時代になる」と言われ、さまざまな変化がございました。あれから30年、多くの方に「百寿」が訪れる令和の時代において、信託をはじめとしたソリューションで、皆さまの豊かな人生を応援いたします。
谷口 佳充

住まいと活力資産

「人生100年時代」という言葉を日本で有名にしたリンダ・グラットン教授の『ライフ・シフト』という本では、人生100年を豊かに過ごすという視点で、お金や不動産といった有形資産とともに、値段をつけられない無形の資産の重要性が説かれています。 無形の資産のうちの一つとされる友人を例に挙げ、遠い地域に引っ越しをすれば、それまでの友人を売って、新しい友人を買うことはできないという事実とともに、その無形の資産の特性が述べられています。

そしてこの本では、無形の資産には、所得を増やすのに役立つ「生産性資産」、心身の健康などを指す「活力資産」、大きな変化への対応力である「変身資産」の、3つのカテゴリーがあると紹介されています。(図1)

住まいは不動産という有形資産ではありますが、実はこの無形の資産のうちの特に「活力資産」の蓄積・形成に大きな影響を与えているといわれています。

新型コロナウイルスの影響で、自宅で過ごす時間も増えている方も多いと思います。今回は、ご自宅と、心身の健康などを指す「活力資産」との関係性について考えてみましょう。

有形資産と無形資産のイメージ

適度な室温は健康にも影響

夏になると、朝の寝起きで寒くて布団から出づらいということはなくなりますが、人と住まいの温度との関係は、健康や活動量に関係があるそうです。例えば室温にも、健康に良い室温と、健康に悪い室温があるようです。

皆さまは、イギリスでは、法律で部屋の最低温度が定められていることをご存知でしょうか?この法律は、イギリス国民の健康のために制定されているそうです。最低室温が低くなると呼吸器系疾患が起こる可能性が高くなるということで、実際に18℃という最低室温が守られない住宅は、改修や解体が命じられるそうです。日本の住宅では、この基準にマッチしていない住宅も多いようです。

住まいの室温と体の抵抗力の関係図

この住まいの室温と健康という関係性については、日本の研究でも、最低室温が18℃より寒い住まいでは、18℃より暖かい住まいと比較して、肩こりや腰痛を訴える人が倍以上になるという結果があるそうです。

また起床時の居間平均室温が冬18℃未満、夏26℃以上の住宅[A]と、冬18℃以上・夏26℃未満の住宅[B]とで、住んでいる人の血圧を比較すると、冬と夏の季節の比較で、室温の上下が大きい住宅[A]のグループの方が、血圧の上下の変化もより大きくなるという調査結果もあります。

住まいの室温と血圧の関係図

そして実際に、図4のグラフにあるように、日本での心疾患や脳血管疾患での死亡者数は夏を谷底としたU字型を描いて、11月から3月までの間が多くなっています。

脳血管疾患と心疾患の月別死亡指数グラフ

また活動量という面からみても、住まいの最低室温が2℃暖かくなると、1日の歩数が1,600歩分増えるという調査結果もあるそうです。

室温が低くならない住まいに住むことで、活動量がアップするということになれば、これによって地域や家族とのコミュニケーションも強化され、「活力資産」の増加にもつながってきます。

私たちはつい住まいのことを「不要不急」な項目と整理しがちで、どうしても対応が後回しとなり、その結果として、長い不健康期間を甘受するという人生を迎えてしまうこととなりますが、その点は考え直した方が良いかもしれません。

季節と地域と住まいについて

次に住まいと健康について、地域という視点から比較してみましょう。

図5のヨーロッパ各国と日本の冬の死亡増加率のグラフをご覧ください。ヨーロッパで、冬の死亡率が増える国は、寒い北欧の国ではなく、南欧の国々となっています。個別でみると、フィンランドでは冬の死亡増加率が10%しかなく、四季の中で特段冬の死亡数は増えていないのに対して、温暖なポルトガルでは28%となっており、差が顕著に出ています。

この傾向は、実は日本の中でも同じで、北海道や青森県は冬の死亡増加率がフィンランドと同じ程度であるのに対し、一般的に温暖と考えられている各県は軒並み高くなっています。これは、寒冷地は住宅の断熱性能が高いため冬季死亡率が低い一方で、温暖な地域では断熱住宅の普及が遅れていることが背景にあると推定されています。逆にいえば、住まいを寒冷地並みの断熱住宅にすれば、より健康寿命が延び、活力資産も増えるともいえるわけです。

冬の死亡増加率グラフ

健康寿命を延ばし、幸せに過ごす

健康で介護いらずの状態が長く続けば経済的なメリットがあります。なにより自分自身が長く健康でいられるのは幸せなことです。そしてまた周りの人に介護の苦労をかけずに暮らすことができれば、家族も幸せです。住まいが変わることで「健康」「家族や仲間とのつながり」などの住まい方がより良い方向に変化し、年齢とともに「活力資産」が蓄積されることとなります。そして、これが「幸齢住宅」になるのです。

リフォーム・リノベーションや、建て替え・住み替えには、一定の時間がかかります。次の冬に向けて、暖かいうちに、今の住まいをチェックしてみること、ご家族と一緒に考えてみることは、タイミング的にも良いかもしれません。

これからの人生のうちで一番若い「今!」のうちに、ぜひご検討ください。

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