三井住友信託銀行は、事業を通じた社会・環境問題の解決に取り組んでおります。特に、昨今話題となっている「気候変動」は、問題解決に資する専門チームや組織を社内に設置するなど、非常に重視しているテーマです。今年度は計4回、この気候変動問題に関わる動向について、社内の専門家が分かりやすく解説いたします。第2回は気候変動問題の解決に役立つと言われている「蓄電池」と「水素」について取り上げました。私たちの生活にどのように利用できるのかについて考えていただくきっかけになれば幸いです。(執筆者:サステナビリティ推進部 テクノロジー・ベースド・ファイナンスチーム 羽田貴英、鈴木洋介)

気候変動対策に必要な「蓄電池」と「水素」

本特集の第1回では、気候変動問題の主な原因はCO2などの温室効果ガスであり、対策として再生可能エネルギー※(以下、再エネ)や、電気自動車などの利用があることを紹介しました。

しかし実際に私たちがこれらを利用するためには課題が多くあります。例えば、再エネだけでは電気を使う量に対して電気を作り出す量が足りないことや電気が作られる時間と使いたい時間が異なることなどです。今回取り上げる「蓄電池」と「水素」は、これらの課題に対応するために既に活用が始まっており、まさに気候変動を食い止めるための救世主とも呼べる存在です。

太陽光や風による発電、CO2を排出しないことから化石燃料を利用する従来の発電方式に変わることが期待されている。

蓄電池への期待と役割について

電池は、乾電池のように1回しか使えない「一次電池」と、何度も充電して使える「二次電池(蓄電池)」に分かれます。昨今よく利用される蓄電池はリチウムイオン電池で、他の種類の電池と比べて小さく・軽く作ることが可能な上に、たくさんの電気を蓄えることができるという特長があります。この特長を活かして、パソコンやスマートフォンのバッテリーなど、私たちの実生活でも広く利用されています。このように身近な蓄電池は気候変動問題解決のカギと言われています。どのような役割が期待されているか、3つの観点から解説します。

まず、「再エネを貯めておく」役割です。化石燃料の代わりに私たちにできること太陽光や風力から再エネを作りだす場合、太陽が照る昼間や風が吹く時間にしか発電できないという大きな課題があります。発電可能なタイミングで作られた電気を蓄電池に貯めておけば、必要な時に使うことが可能です。「それならば、皆が不自由なく暮らせる分の電気を全て蓄電池に貯めておけば良いのでは?」と思われるかもしれませんが、大量の電気を貯めておくには膨大な量の蓄電池に加え、高額なコストと設置場所の確保が必要で、実現は相当困難と考えられます。ただ、例えば既に太陽光発電を行っている家庭であれば、追加で蓄電池を設置することにより、自宅で発電した再エネを無駄なく使うことが可能になります。少し年月がかかりますが、追加コストを上回るメリットを得ることも可能です。

次に、「自動車用のエネルギー源」としての役割です。気候変動の原因となる全世界のCO2排出のうち、約20%が交通や運輸から排出されています。ガソリンで走行すれば自動車は当然CO2を排出しますが、再エネで作られた電気を蓄電池に貯めて電気自動車を動かすことでCO2排出量削減につながります。化石燃料で発電した電気で電気自動車が走ると間接的にCO2を排出してしまうので注意が必要ですが、貯める電気がクリーンであれば、ガソリン車よりも電気自動車の方が走行時のCO2排出量は少なくなります。

最後に、「防災に役立てる」役割についてです。近年、大規模な災害による停電が頻発していますが、ご高齢の方や持病のある方にとって、突発的なもしくは長期間の停電は命に関わる大きな問題になりえます。そんな時でも、蓄電池があれば一定期間、電気のある生活を送ることができるため、大きな安心につながります。

このように、蓄電池は再エネを活用する際の課題に活用することができる心強い存在です。2019年に吉野彰博士がリチウムイオン電池開発でノーベル化学賞を受賞したことも、とても誇らしいことですね。

水素への期待と役割について

「水素」は最も軽い元素で、水を電気分解することで作られる無色・無臭の気体です。再エネ(電気)を使って水素を作れば、生成の過程でCO2を全く排出しない燃料となります。また、大気中にたくさんある酸素と反応させることで電気や熱を作ることができるため、使用の過程でもCO2を排出しないクリーンな燃料として使うことが可能です。この性質から、気候変動問題解決の燃料として期待されており、既に燃料電池自動車の燃料などに使われ始めています。現在、国をまたぐような輸送は電気よりも水素の方がしやすいという利点を活かして、化石燃料と同様に船で日本に運んでくるという計画も進んでいます。将来的には、化石燃料の代わりとして、発電所や工場などで大規模に使われることも期待されています。

水素を使って生み出した電気や熱によって作られた製品やサービス(燃料電池バスの利用など)は、その製造・利用過程においてCO2が出ないため、気候変動対策を進める社会において非常に重要なものです。ちなみに、日本は、この水素の製造・利用技術において世界のトップランナーであり、地球規模の気候変動問題を解決することができる国としても注目されています。

私たちにできること

最近の電力不足で国から節電要請が出されている状況も、国として気候変動に立ち向かうべく再エネを増やしていることも、「蓄電池」や「水素」と大いに関係のある事象です。日本では今後、国レベルでも各家庭レベルでも蓄電池や水素を利用する時代にシフトし、「職場や各家庭が家庭用の蓄電池や電気自動車・燃料電池車を導入」「昼間に電気を貯めて夜に使う」といった変化が起きます。

この変化は少しずつ起こる見込みですが、変化の重要性を理解し行動することで、変化が起こる時期を早め、気候変動問題に能動的に貢献することが可能です。燃料電池バスに乗ってみる、配送車を電気自動車にシフトしようとしている配送業者を使う選択をしてみる等から始めてみませんか?ほかにも、将来の蓄電池・水素の利用にチャレンジしている企業を調べて投資するなど、将来のよりよい社会のためにお金を使うということもご検討ください。

蓄電池や水素に関する取り組みは全世界が注力しています。私たちの生活にどのように導入されていくのか、日々のニュースなどで動向をご確認いただければと思います。

今回は、蓄電池と水素について解説いたしました。次回は、プラスチックとの付き合い方について解説いたしますので、是非ご覧ください。

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