三井住友信託銀行は、事業を通じた社会・環境問題の解決に取り組んでいます。特に、昨今話題となっている「気候変動問題」については、問題解決に向けた専門チームや組織を社内に設置するなどしており、非常に重視しています。今年度は計4回、この「気候変動問題」に関わる動向について、社内の専門家が分かりやすく解説します。最終回となる第4回は、最も身近な「住まい」を取り上げました。住まい方の工夫がどう気候変動問題やWell-beingにつながるのか、是非ご一読いただき、より良い生活について考えていただけたら幸いです。(執筆者:人生100年応援部 谷口 佳充)

日本の住まいが抱えるリスク

突然ですが、脱衣室が寒い、廊下もトイレも寒い、部屋の中でも床が冷たい、そう思いながら暮らしておられる方はいらっしゃいませんか?世界基準で見ると、WHOは「冬の最低室温18℃以上」を強く推奨していますが、皆さまのご自宅やご実家は冬場、すべての部屋で18℃を保てていますか?

住まいの寒さは住む人の健康に大きな影響を及ぼします。例えば、生活習慣病で見ると「室温が10℃下がると、血圧が10㎜Hg上がる」といわれています。コレステロールについても「居間が18℃あっても脱衣所や廊下が18℃未満の家では脂質異常症になる確率が1.46倍」に上がってしまいます。そして、睡眠の質についても「寒い住まいでは寝つきが悪くなって途中で目覚めてしまう、夜間頻尿のリスクも大きくなる」といわれています。頻尿になると夜中に暖かい布団の中と寒いトイレとの往復回数が増えます。その温度差が血管を収縮させ、血管へのストレス増にもつながります。

「人生100年時代」といわれる現代、私たちは還暦を迎えても、そのあとに40年以上の人生があります。今まで子育て中心の建築を優先してきた日本の住まいは、長くなった人生後半戦のための作りにはなっていないのが実状です。図表1にある通り、高齢期に事故に遭っている場所は、実は多くが自宅の中です。しかしながら私たちは今まで、要介護認定を受けてから介護保険の範囲で手すりを付けるといった対症療法のようなリフォームしかしてきませんでした。その結果、住まいで事故が発生し、不本意な老後を迎えることになってしまっている方もいらっしゃいます。

自宅の中の事故の例で多いのは、老眼では判別しづらい小さな段差があって転びやすく「予期せぬ転倒で大腿骨を骨折した」、個室ごとに冷暖房をつけているため、部屋を移動すると温度差が大きく「ヒートショック(心疾患など)になった」、といった事例です。特に後者は、断熱材が薄い、気密性能が低い、窓も1枚ガラスのアルミサッシといった住まいで危険度が増します。これらに関連し、寒い住まいでは活動量自身が減少し、認知症になる確率も要介護になる確率も上がります。部屋が各々独立し、家族団らんスペースが限定的な家の中では孤立状態になりやすく、地域とも家族とも会話が少なくなりがちです。

暖かい住まいでWell-being向上を

国土交通省の調査では、バリアフリーや省エネ基準を満たしている家は、人が住んでいる住宅のうち5%もない、という結果が出ています。寒い住まいに暮らしていると、「生活満足度」が低くなるという調査結果もあります。断熱性能を高めた暖かい住まいにすることは、これまで述べてきたさまざまなリスクを回避でき、健康面からみても、生活満足度から見ても、たくさんの良い効用があることが期待できます。これは長期的に見ても人生の日々刻々で見てもとても大切なことで、暖かい住まいは総合的に「Well-beingを向上させる」といえるでしょう。

高性能な住宅は省エネも実現

さらに、暖かい住まいは地球のWell-being向上にも貢献することができます。図表2にある通り、日本のCO2削減目標のうち26%は家庭部門、すなわち住まいが受け持っています。

近年、「ZEH(ゼッチ:Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス))」に注目が集まっていますが、これは家庭で消費するエネルギーを自給だけで賄えるよう、断熱性と高効率の住宅機器、再エネ・創エネ(太陽光発電など)の設備を備えた住まいのことで、脱炭素社会の実現に直結しています。政府は2030年度までに新築住宅のZEH化100%を目指しており、減税制度・補助制度、住宅ローンの融資条件や金優遇など、各種支援策を講じています。

私たちにできること

あなたとあなたの家族がより良い人生100年を迎えるため、よりよい住まいに暮らすことはとても大切なことです。特に人生後半の住まいの選択はとても重要で、住宅を建築したまま放置せず、「転ばない、孤立しない、暖かい住まい」に暮らせるよう、対策を講じる必要があります。今の住まいをリフォームするのか、建て直すのか、引っ越すのか…住まいの専門家に相談したり各種制度を活用したりしながら、適切なタイミングで選択していきましょう。「暖かで快適な住まいに暮らすこと」は、健康とWell-beingの向上につながり、気候変動の抑止にも貢献できる優れた「私たちにできること」です。

4回にわたる気候変動をテーマとした連載はいかがでしたか。気候変動は、非常に難しく大きな問題ですが、私たち一人ひとりが自分の行動を見つめ直し、よりよい製品や生活を選択することにより、サステナブルな社会の実現に近づくことができます。当社のサステナビリティの取り組みは各種レポート・Webサイトで紹介していますので、是非ご覧ください。

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