4. 天然記念物マガンの集まる湿地-蕪栗沼・周辺水田

数万羽のマガンが舞う壮大な光景
蕪栗沼・周辺水田は、ロシアから渡ってくる冬鳥が集まってくる越冬地として有名です。天然記念物に指定されているマガンやオオヒシクイ、オジロワシをはじめ、ハクチョウ類、カモ類、ワシタカ類など約200種類の鳥類が確認されており、国際的に重要な湿地を保護するラムサール条約に登録されています。
マガンは雁(がん・かり)の仲間で、体長70cm、翼を広げると150cmほどの大型の水鳥で、椋鳩十の童話『大造じいさんと雁』に登場することで知られています。毎年、秋の稲刈りが始まる頃にマガンの第一陣がやってきます。ロシアの北極圏に近いシベリアから4,000kmの旅をして、北海道や秋田を経由し、越冬地の宮城に集まります。10月下旬から2月上旬の最盛期には、約5万~7万羽が蕪栗沼に集まり、日本で越冬するマガンのおよそ半数にまで達します。
マガンは沼をねぐらとし、日中は水田で落ち穂や雑草を食べたり、休んだりして過ごします。マガンを保全するためには水田と沼がセットになった環境が必要で、ラムサール条約には水田を含んだ形で登録されています。朝に沼から一斉に飛び立ち水田に向かう「マガンの飛び立ち」や、夕方水田から沼へ向かう「ねぐら入り」は、数万羽のマガンが朝焼けや夕焼けの空に乱舞する圧倒的な迫力のある壮観な光景が繰り広げられ、毎年2万人ほどの観光客が観察に訪れます。そのため沼の保全活動を行うNPOでは、臨時案内所を設置してマナー啓発や観察指導などを行っています。


人と鳥が共生する里山の自然
蕪栗沼は、長い年月をかけて人が関わることでつくられた里地里山の自然が豊富に残されています。沼の面積の半分以上が湿性植物に覆われた湿地帯で、ミズアオイやタコノアシ、マイヅルテンナンショウをはじめメダカやニホンアカガエルなどの貴重な動植物が生息するヨシ・マコモ群落が広がっています。こうした氾濫原の湿地は富栄養化が進むと自然の遷移でヤナギなど森林に変わっていきます。渡り鳥やこうした動植物が生息する環境を維持するため、動植物調査や冬のヨシ刈りなど保全活動が行われています。また、刈り取られたヨシはペレット燃料に加工されバイオマス燃料として利用されます。蕪栗沼の自然は、人と野生生物が共存する社会のひとつの象徴となっています。

現地への交通
蕪栗沼へのアクセスは、東北新幹線古川駅から自家用車で約40分、東北本線田尻駅からタクシーで20分、東北自動車道古川ICもしくは長者原SAから自家用車で40分です。大崎市田尻には日帰り温泉と宿泊施設があり、冬には渡り鳥の観察ツアーも開催されます。

特定非営利活動法人蕪栗ぬまっこくらぶ(文・写真)
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