7. 奇跡のように残された里山-横沢入

横沢入里山保全地域は、武蔵野段丘の最奥部に位置し、五日市丘陵とそれに囲まれた盆地とからなる地域で、2006年に東京都で第一号の「里山保全地域」に指定されました。
指定後は、多くの市民団体が湿地の復元や外来種の駆除などの生物多様性の保全・向上を目的とした維持管理・育成管理を行っています。
谷戸部は、7つの谷戸からなり、谷戸頭から湧出した水は、細流を形成して湿地を潤し、中央湿地でひとつの流れとなり秋川に注いでいます。丘陵部は谷戸部を取り囲むような形状で、スギ・ヒノキ植林とコナラ林が優占しています。
横沢入で観察することができる生き物たち
横沢入では市民団体の調査により、16種(コウモリ類は除く)の哺乳類、92種の鳥類、21種の爬虫両生類、昆虫類では、69種のチョウ類、49種のトンボ類など数多くの生き物の生息が確認されており、四季折々の里山景観と数多くの動植物を観察することができます。
ここでは、横沢入の里山環境を象徴する水辺の生き物、両生類を中心に生き物を紹介します。
カエル類の繁殖は、1月中旬から始まります。谷戸の水場がにわかに騒がしくなり、ニホンアカガエルとヤマアカガエルの産卵が始まります。耳を澄ますと、「キョ・キョ・・・」「キャララ・キャララ・・・」と、鳥の囀るような鳴き声が聞こえ、3月まで続きます。
3月に入ると、張り詰めた空気が緩み、雑木林が萌黄色に包まれます。
山際の水場や湿地ではトウキョウサンショウウオの産卵がピークを迎え、水中の小枝等に三日月形の卵嚢が産み付けられます。アカハライモリやアズマヒキガエルも繁殖のために集まってきます。これらの産卵がピークを過ぎる4月には、谷戸中にシュレーゲルアオガエルの大合唱が響き渡ります。
同じころ、姿を現すヤマトセンブリという昆虫がいます。ヤマトセンブリは、横沢入にとって関係深い昆虫で、1957年に京都で確認されて以来、記録が途絶え「絶滅したのではないか?」と考えられていましたが1994年に横沢入で再発見され、この再発見を基に調査研究が進み、新種として記載されました。
6月に入ると草熱れ(くさいきれ)が体を包みます。山際の水場には、水際の樹木や草に産み付けられたモリアオガエルの泡状の卵塊を見ることができます。このころになると、モートンイトトンボをはじめ多くのトンボ類が湿地を飛び交い、下旬になるとゲンジボタルやヘイケボタルが夜景を飾り、本格的な夏が到来します。




現地への交通
JR五日市線、武蔵増戸駅から徒歩15分。駐車場がないため公共交通をご利用ください。

西多摩自然フォーラム(文・写真)
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