9. 豊かな湧き水が潤す静かな湿原-中池見湿地

市街地のそばにあるラムサール湿地
中池見湿地は福井県敦賀市の市街地北東部にある、広さ25haほどの小さな湿地です。敦賀駅から約2kmと市街地のすぐ近くにありながら、周りを山に囲まれて、まるで隠れ田のように静かな時間が流れるところです。
中池見では近年まで全域で水田耕作が行われてきたものの、減反政策や開発問題などさまざまな経緯を経る中で水田は放棄され、その多くがヨシやマコモなどが覆う草原となりました。しかし、水田耕作をしていた頃からの小さなため池や大小の水路などが残され、その多様な水環境によって、今でも多くの生き物たちを育んでいます。
2012年、特異的な地形や地質に加え、その生物多様性の高さから、「国際的に重要な湿地」と認められ、中池見湿地はラムサール条約湿地に登録されました。
春、一面黄色いサワオグルマを背に昔ながらの農法で行われる田植え、夏の水路や池の周りには忙しげにトンボが飛び回ります。ヨシやススキの穂が風に揺られ足元には小さな野の花が咲き乱れる秋、そして一面雪におおわれる美しい冬には、ふだん姿が見られない動物や鳥たちの気配で溢れます。四季の美しさ、生き物の豊かさを日々実感させてくれる中池見湿地。次の世代にもこの豊かな自然や人の営みが受け継がれるように、さまざまな保全活動と共に、市民や小中学生の手による田んぼが少しずつ広がりつつあります。

人の営みと共にある多様な生き物たち
中池見湿地には流れ込む川はなく、湿地を満たす水はすべて、周囲の山から供給されています。その水を利用して300年以上にわたり続けられてきた湿田には、水田環境による植物が生育し、また一方、放棄された場所には、人の手が加わる以前の湿地の植物が復活しています。この多様な環境によって、70種以上のトンボをはじめとする約3,000種もの生きものが確認されています。
中には、県内で中池見にしか自生していないデンジソウをはじめ、ヤナギヌカボやミズトラノオなどといった水生植物や、また動物ではナカイケミヒメテントウやキタノメダカ、ホトケドジョウなど、60種以上の絶滅危惧種が含まれています。さらに世界的に絶滅を危惧されている渡り鳥のノジコの主要な中継地としても注目されています。


現地への交通(2019年12月現在)
「中池見 人と自然のふれあいの里」まで
- JR敦賀駅より徒歩35分
- JR敦賀駅からバス「中池見口」より徒歩15分

NPO法人 中池見ねっと(文・写真)
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