争族が起こる原因は?具体的なケースと対策を解説
自分が亡くなった後も、大切な家族にはいつまでも笑顔で過ごしてほしいものです。
しかし、なかには遺産分与を適切に行っていなかったことによって、家族間に深い溝が生まれる「争族(そうぞく)」が起こることがあります。
せっかく家族のために遺した財産が、トラブルを招くことになっては本末転倒です。
この記事では、争族が起こる主な原因や具体例を紹介し、トラブルを回避するための対策を解説します。
争族とは
「争族(そうぞく)」とは、相続をきっかけに家族や親族の間で争いが起きてしまうことを指す言葉です。
「相続」に「争い」をかけ合わせた造語で、遺産をめぐるトラブルを象徴的に表しています。
実際、最高裁判所事務総局「司法統計年報 3家事編」によると家庭裁判所に持ち込まれる遺産分割事件の件数は年々増加しており、億を超えるような財産の多い家庭に限らず、1,000万円以下の遺産でも「争族」になるケースは少なくありません。
遺言書がない、財産内容が不明確、相続人の認識が異なるなど、ちょっとした誤解や不信感がトラブルに発展することもあります。
遺産分割協議書の作成や相続税の申告などの手続きを円滑に進めるためにも、相続人同士の協力と信頼関係が必要です。
争族を防ぐためにも、生前のうちに財産の整理や遺言書の作成、家族間の情報共有を行い、納得感のある相続を準備しておきましょう。
争族トラブルが起こる原因と具体例
争族は誰の身にも起こり得る問題です。
ここでは、実際に多く見られる争族の原因について、具体例とともに解説します。
相続財産のほとんどが不動産
自宅・土地・アパートなどの不動産は、現金のように均等分することが難しく、遺産分割協議の際に意見が割れやすくトラブルに発展しやすいと言われています。
最高裁判所事務総局「司法統計年報 3家事編」を見ても、多くの事件で遺産に「土地・建物」が含まれています。
例えば、被相続人と同居していた長男が「この実家にそのまま住み続けたい」と希望し、別に暮らしていた兄弟姉妹から「自分の取り分が少ない」「公平ではない」という不満が出るケースが挙げられます。
これが、争族で多くある典型的な事例です。
家族の関係性にひびが入り、相続手続きそのものが長期化したり、家庭裁判所の調停・訴訟にまで発展したりした事例も数多くあります。
特定の相続人が被相続人の財産を管理している
一部の相続人だけが、被相続人の預貯金・不動産・証券などを管理していた場合、他の相続人が「情報が隠されているのではないか」「私だけ取り残されているのではないか」という疑念を抱きやすくなります。
例えば、認知症や病気を患っている被相続人と同居している子どもが、被相続人の預貯金の入出金を日常的に行っているケースでは、介護費用や生活費としてお金を使用するのは当然であるものの、他の兄弟から見ると「相続前に引き出していたのでは」「財産が減っているのでは」といった疑問を持たれてしまうことも考えられます。
特定の相続人が生前贈与を受けていた
被相続人が生前に特定の子どもや家族だけにまとまった金額の贈与をしていた場合も、他の相続人が不公平さを感じやすく、争族に発展することがあります。
例えば、相続人の長男と次男のうち、長男のみがマイホーム購入時に被相続人から2,000万円の生前贈与を受けているケースです。
このような場合、遺産の分け方をめぐってトラブルに発展する可能性があります。
長男が「生前贈与は昔の話で、すでに相続とは関係ない」と主張しても、次男は「兄が受け取った2,000万円も相続財産に含め、公平に分けるべきだ」と考えるかもしれません。
生前贈与の扱いを曖昧にしたままにしておくと、このように感情的な対立を招く恐れがあります。
生前に贈与を行う場合は、他の家族にも事情を説明したり、贈与契約書を作成し、記録を残しておいたりすることが大切です。
公平性と透明性を確保しておくことで、家族の間に誤解が生じにくくなり、結果として争族を防ぐことにつながります。
被相続人の介護をしていた相続人がいる
特定の相続人が被相続人である親などの介護を長期間にわたって献身的に行ってきた場合、法定相続分どおりの遺産分割では「自分の貢献が正当に評価されていない」と感じ、不満を抱くことがあります。
民法では、「被相続人の財産の維持・増加に特別な貢献をした共同相続人がいるときは、その貢献を考慮して相続分を加えることができる」と定められており、これを「寄与分」と言います。
しかし、実務的には「介護したから必ず寄与分が認められる」というわけではなく、認められるためには複数の厳格な要件があります。
具体的には、扶養義務の範囲を超えて「無報酬で長期間かつ専従的に」介護を行い、その結果として被相続人の財産の維持または増加につながったという実績が必要です。
例えば、頻繁に介護サービスを受ける必要があった被相続人に対して、相続人がヘルパーを頼まずずっと自ら介護を続け、通院・療養・日常の生活支援を無償で行っていたというようなケースでは、寄与分が認められる可能性があります。
また、寄与分を主張する際には、通帳の出入金記録・医療・介護の領収書・要介護認定の書類・介護日記等の証拠をきちんとそろえておくことが重要です。
争族に発展し、家庭裁判所で「寄与分を定める処分調停」を申立てる場合、これらの証拠が判断材料となります。
家族関係が複雑になっている
相続人同士の人間関係が複雑だと、遺産分割協議はスムーズに進みにくくなります。
例えば、被相続人である父の遺産が預貯金6,000万円、相続人が配偶者と子ども(長男=前妻の子、長女・次女=現在の妻の子)という家庭を考えてみましょう。
父親には離婚歴があり、長男とは20年ほど疎遠で前妻とも面識がほとんどありません。
法定相続分に則れば配偶者が3,000万円、子どもそれぞれが1,000万円ずつとなります。
ですが、現在の配偶者や長女・次女の立場からすれば「前妻の子どもへも同じく1,000万円?」と違和感を抱く可能性があるでしょう。
実際に、こうした感情的な距離や不信感が争族を生む原因となっており、家族関係が複雑なケースでは争族のリスクが特に高いとされています。
親族関係が疎遠、認知されていなかった子どもがいる、離婚後に再婚しているなど、家族関係が複雑な場合、誰が相続人なのかが曖昧になりがちです。
争族を回避するためには、遺言書の作成や相続人への事前説明、家族間での話し合いといった準備が必要になるでしょう。
子どもがいない夫婦で遺言がない
子どもがいない夫婦の場合、遺言がないと遺産分割協議が複雑化する可能性があります。
例えば、夫が亡くなり妻が相続人となる場合、夫の兄弟姉妹も法定相続人に含まれるため、遺産分割協議が必要です。
兄弟姉妹が複数いる場合、意見がまとまらずトラブルに発展することも少なくありません。
さらに、兄弟姉妹が遠方に住んでいる場合や疎遠である場合、協議が長期化するリスクもあります。
争族トラブルを回避するための対策
ここまでさまざまなケースを紹介してきましたが、これらには具体的な対策方法もありますので、ご安心ください。
遺された家族・親族間の「争族(そうぞく)」を防ぐには、生前からの適切な準備が重要です。
相続が始まる前に「どう分けるか」「何を遺すか」を整理しておくことで、手続きがスムーズになり、後に感情的な対立に発展するリスクを大きく減らせます。
具体的には、以下の4つのポイントを意識しましょう。
遺言書(公正証書)を作成する
相続トラブルを未然に防ぐ上で、法的効力の高い遺言書を作成しておくことがおすすめです。
不動産や預貯金などの財産について「誰に」「どれだけ」をあらかじめ指定しておけば、相続人同士の解釈の違いや不公平感を防ぐことができます。
遺言書のうち、特に信頼度の高いのが「公正証書遺言」です。
公正証書遺言は、公証役場で証人2名以上の立ち会いのもと作成し、原本が公証役場に保管されるため、紛失や改ざんの心配が少ないのが特徴です。
証人は、弁護士や行政書士などの専門家に依頼できるほか、信託銀行の職員が担うケースもあります。
遺言書には、遺産分割について自由に記載することが可能です。
しかし、例えば「遺産はすべて長男に」と遺言書に記載する場合、「遺留分」に注意が必要です。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人(配偶者・子など)に与えられる「最低限保証された遺産取得分」です。
遺言書に「遺産はすべて長男に」という記載があったとしても、配偶者や子どもなどの法定相続人が遺留分侵害額請求を行えば、その長男は他の相続人に相当額を支払う義務を負います。
そのため、遺言書を作成する際には、「誰にどれだけ遺すか」の指定だけでなく、遺留分を侵さない配慮や、遺言執行者の指定・財産目録の添付などを検討することで、争族の可能性をさらに低減できるでしょう。
生前贈与の記録を残しておく
過去の贈与や支援の記録は、明確に残しておくことが重要です。
贈与契約書を作成したり、通帳の入出金記録や贈与税の申告書を保管したりしておくことで、証拠提出時にすぐ対応することができます。
他の相続人に対しても透明性を確保できるため、不信感を防ぐことにつながるでしょう。
生前の行動や意思表示をきちんと記録し、家族全員が納得できる形を整えておくことが、円満な相続と争族防止への備えとなります。
親族間のコミュニケーションを維持する
家族の財産を巡って争いが起こる背景には、感情的なすれ違いやコミュニケーション不足が原因であることが少なくありません。
争族を未然に防ぐには、遺産の中身や介護状況、資産の概況などを子どもや親族間で早めに共有し、定期的に話し合う習慣をつけておくことが重要です。
相続が発生してから慌てて話し合いを始めても、感情がこじれた状態では建設的な議論になりにくいものです。
被相続人が元気なうちから家族会議の時間を設けて、お互いの思いや状況を共有してはいかがでしょうか。
親族間で定期的なコミュニケーションを取り、財産を奪い合う相手ではなく、悩みを分かち合う仲間となることが、スムーズな相続を迎えるためのポイントになるでしょう。
専門家に相談する
「遺した財産をきっかけに、家族や親族間で争族が起こってほしくない」という思いがあるなら、生前から専門家の知見を活用することが重要です。
遺言の内容決めや他の相続人との交渉を相談すれば、法的な観点から公平性やトラブル予防策を検討できます。
また、トラブルが既に発生している場合や、相続人同士の人間関係に摩擦がある場合には、遺産分割協議書の作成代行や家庭裁判所での調停を弁護士に依頼するケースもあります。
このように、早期に専門家へ相談しておくことで、家族関係の悪化を防ぎ、相続後に「争族」という事態を招かない備えとなります。
争族を防ぐ対策は生前から!大切な家族のために準備を始めよう
争族は、誰もが直面し得る問題です。
特に、生前贈与や長期介護によって家族に不公平感が生まれていたり、家族関係そのものが複雑になっていたりすると、トラブルのリスクが一層高まります。
そのため、早いうちから備えておくことが重要です。
遺言書の作成や生前贈与の記録、家族内での資産整理・情報共有などをあらかじめ行うことで、相続発生後の混乱や感情的な対立を抑制できます。
三井住友信託銀行では、お客様の想いを実現するためのサポートとして、財務コンサルタントなどの専門スタッフが財産に関する総合的な知識と豊富な経験をもとに、一人ひとりのお客様に適切なご提案をいたします。
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※この記事は2025年10月末時点の情報に基づいています
監修者紹介
監修者 金子 賢司
資格 CFP®資格
プロフィール
東証一部上場企業(現在は東証スタンダード)で10年間サラリーマンを務める中、業務中の交通事故をきっかけに企業の福利厚生に興味を持ち、社会保障の勉強を始める。以降ファイナンシャル・プランナーとして活動し、個人・法人のお金に関する相談、北海道のテレビ番組のコメンテーター、年間約100件のセミナー講師なども務める。趣味はフィットネス。健康とお金、豊かなライフスタイルを実践・発信している。