米トランプ大統領の不規則発言とマーケットの動向

トランプ米大統領による不規則発言が、金融市場に動揺をもたらし続けています。特に市場に影響を与えた4月中の言動を整理してみました(下表)。これらの発言のタイプは2つに整理できそうです。「朝令暮改」と「従来の定説に反する言動」(反・定説)です。
「朝令暮改」は、B・C・D・Fが該当します。超大国のリーダーの発言が一貫性を欠いたり、以前に述べたことと矛盾したりすることで、政権運営の先行き不安が強まっています。
「反・定説」にあたるのは、相互関税(A)と金融政策への介入(E)です。戦後の世界経済は、過去のブロック経済化※が世界大戦の一因になったことへの反省などから、経済的な国際協力や貿易の自由化を重視する考え方が主流となり、自由貿易は経済合理性の観点でも是とされてきました。また、金融政策に関しては、戦時中から戦後にかけて中央銀行による大量の国債引き受けが高率のインフレを招いたという苦い経験があり、今日の中央銀行の独立性の考え方に繋がっています。トランプ政権の相互関税や金融政策への介入は、このような歴史的経緯を踏まえて形作られてきた定説に逆行するものとして、驚きと不安をもたらしています。
※ブロック経済:世界恐慌後、自国と植民地など特定の国や地域のみで経済活動を行う仕組み。自由貿易と反対の体制

FRB:米連邦準備理事会
(出所)各種資料を基に三井住友トラスト・アセットマネジメント作成
図表を改めて見ると、この2つのタイプの不規則発言が連動していることが見えてきます。例えばB(相互関税の一部停止)は、A(相互関税発表)に驚いたマーケットの混乱を受けたものだったと報じられています。F(FRB議長を解任する気はない)も、E(金融政策への介入)の後に、株価、債券価格、為替(米ドル)が同時に下落するトリプル安が進んだことに危機感を覚えたためだと考えられます。「反・定説」的な発言が不安をもたらし、市場が混乱すると、「朝令暮改」的な発言が飛び出してまた混乱するという構図が繰り返されています。不確実性が不確実性を呼ぶ自己増殖的なメカニズムが働いていると言えるでしょう。
こうしたなか、5月中旬に入って日米株価指数は相互関税発表前の水準まで値を戻してきました。米中両国が日本時間5月12日に、互いに課している追加関税を115%引き下げることに合意したこと等が株高を後押ししました。当面、米国が課す対中関税は145%から30%に、中国が課す対米関税は125%から10%になります。

(出所)各種資料より三井住友トラスト・アセットマネジメント作成
もっとも、90日間の期限内に交渉がまとまらなければ、双方の関税のうち24%分が復活することになります。米国側が求める市場の開放や貿易赤字の削減などについて両国が合意できるか、引き続き注視が必要でしょう。
今後も不規則発言が続けば、値動きが激しく、短期間で上昇・下落のトレンドが目まぐるしく変わる局面が続きそうです。不確実性が高い局面においては、市場に居続けないと回復局面に乗り遅れる可能性があります。先が読めないからこそ、一喜一憂することなく、長期運用というスタンスが重要な姿勢と言えるでしょう。
作成:三井住友トラスト・アセットマネジメント