米雇用統計に不信感

米国で最も注目される経済指標の一つが、毎月第1金曜日に発表される雇用統計です。景気や金融政策の判断材料として世界中の市場関係者が注目しますが、2025年10〜12月の発表分は政府閉鎖の影響で発表スケジュールが不規則となり、経済の実態把握が難しい状況に陥りました。さらに8月発表分では、5・6月分が▲25万人超の下方修正。堅調と見られていた雇用が実は減速していたことが判明しました。

これを受け、トランプ大統領が労働統計局トップを解任する異例の事態に発展。市場では「雇用統計を信頼してよいのか」という不信感が広がり、統計の安定性が改めて問われています。

米雇用統計が重要視される5つの理由

日本でも失業率などの雇用指標は毎月公表されていますが、米国ほど注目されません。米国で雇用統計が重視される理由は次の5点です。

  • 1

    景気との連動性
    景気悪化時に雇用を守る日本企業と異なり、米企業は解雇に躊躇しない傾向があるとされます。景気の変化が雇用統計に直ちに反映されるため、景気判断の先行指標として機能します。

  • 2

    個人消費の重要性
    米国ではGDP(国内総生産)の約7割を個人消費が占めます。雇用はその裏付けであり、雇用動向は消費動向に直結します。

  • 3

    金融政策への影響
    FRB(米連邦準備理事会)は「雇用の最大化」を政策目標に掲げており、雇用統計は利下げ・利上げの判断に直結します。日銀やECB (欧州中央銀行)に比べ、米国では雇用の影響力が大きいのが特徴です。

  • 4

    速報性
    雇用統計は他の指標より早く公表され、景気の現状を迅速に把握できます。近年は最新の高頻度データ(カード決済、交通量、検索トレンドなど)を用いたオルタナティブデータも増えていますが、雇用統計は依然として重要な速報データです。

  • 5

    市場の注目度
    多くの市場関係者が注目するため、結果に敏感に反応し、さらに注目が集まる循環が生じます。市場心理を動かす「共通の物差し」としての役割も大きいのです。

速報性とのトレードオフ

速報性は強みですが、精度とのトレードオフがあります。調査回答率は低下傾向で、過去10年で家計調査は約9割→7割、事業所調査は6割→4割に減少。背景には、在宅勤務の普及などで回答率が下がったことも指摘されています。回答が少ない分、発表元は推計やモデルで補う必要があります。

時間をかければ精度は上がりますが、それを待たずに公表するのが雇用統計の宿命です。

それでも雇用統計重視は不変

今後、雇用統計の影響力は低下するでしょうか。答えは「ノー」です。皆が注目する限り、市場は短期的に敏感に反応します。万能ではないことが確認されましたが、共通の拠り所であることに変わりはありません。

市場を見る上で、「何が正しいか」と同時に「何が正しいと人々が考えているか」という視点が重要です。この点は今後さらに再認識されるでしょう。

雇用統計をどう読むか

雇用統計は不安定さを内包していますが、数字の表面だけで判断するのは危険です。非農業部門雇用者数だけでなく、失業率、平均時給、労働参加率、業種別動向など複数の指標を総合的に見る必要があります。例えば、失業率が下がっても労働参加率が低下していれば健全性に疑問が残りますし、平均時給の伸びが強ければインフレ圧力が再燃する可能性があります。

業種別の雇用動向からは景気の質や構造変化も読み取れます。こうした複数の視点を踏まえて初めて、雇用統計の意味を正しく評価できるのです。

米国の非農業部門雇用者数(前月差)の推移(2023年7月~2025年9月、月次)のグラフ 米国の非農業部門雇用者数(前月差)の推移
(2023年7月~2025年9月、月次)

(出所)Bloombergのデータを基に三井住友トラスト・アセットマネジメント作成

作成:三井住友トラスト・アセットマネジメント

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