新議長体制で変わるFRBの政策コミュニケーション

5月22日にケビン・ウォーシュ氏が第17代のFRB(米連邦準備理事会)議長に就任しました。新体制になって初めてのFOMC(米連邦公開市場委員会)は6月16~17日に開催されましたが事前予想どおり政策変更はありませんでした。ウォーシュ議長は、①情報発信のあり方、②バランスシート政策、③データの活用、④生産性と雇用の構造変化、⑤物価評価の枠組みの5つについて見直しを行うための作業部会の立ち上げを宣言し、年内をめどに結論を出す方針を示しました。

また、声明文の分量が大きく減少した点も注目されました(下図)。先行きの政策運営を説明するフォワードガイダンスが削除され、政策決定の背景になる経済・物価認識の説明も大幅に減りました。

記者会見では「なぜ利上げをしなかったのですか?」と追加的な説明を求める質問が飛びましたがウォーシュ議長の回答は「 I‘ve got nothing more to say than the statement itself. 」(声明文そのもの以上に言うことはありません)でした。声明文と記者会見で丁寧な説明を尽くしてきたこれまでのFRBの姿勢からの転換を印象付けました。

FOMC声明文の単語数 FOMC声明文の単語数

(出所)FRBの資料より三井住友トラスト・アセットマネジメント作成

多くを語らないのがウォーシュ流

ウォーシュ議長は、経済・物価・金利見通しにも自身の見解を提出しませんでした。「私にとっては政策遂行において役に立たない」との判断からでした。多くを語らないのが、ウォーシュ流と言えそうです。

ウォーシュ流は市場の混乱を招くと警戒されています。情報発信が減れば、金融市場が政策変更の見通しを織り込めなくなる可能性があるためです。また、将来的にはFRBの独立性にも議論が及ぶかもしれません。中央銀行は、独立性を強化する過程で、透明性やアカウンタビリティ(説明責任)を質・量ともに充実させてきた経緯があるからです。

情報発信の抑制にも一定の合理性

一方、肯定的な意見もあります。中央銀行とて万能ではありません。高頻度で見解を発していると、何らかの理由で方針転換が必要になった際、過去との矛盾を過度に恐れて判断を誤る可能性が指摘されます。

市場参加者は2000年代半ば以降、FRBの情報発信に順応してきました。ウォーシュ議長の新方針への戸惑いはみられるものの現時点ではまだ就任間もないこともあり、「ウォーシュ議長のお手並み拝見」との論調が主流に見えます。ウォーシュ議長が理想とするグリーンスパン議長時代(2000年代半ばまで)には、現在のような詳細なフォワードガイダンスはありませんでした。それでも「大いなる安定」と呼ばれる市場環境が長く続きました。市場参加者は、フォワードガイダンスに大きく依存しないコミュニケーションへの回帰を少しずつ手探りで模索し始めているのが現状でしょう。

過去の歴史を振り返ると、FRBの改革は高い確率で日銀など他の中央銀行に影響してきました。ウォーシュ議長の新たな対話戦略が定着すれば、日銀にも波及する可能性はあるでしょう。

作成:三井住友トラスト・アセットマネジメント

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