年収の壁とは?共働き世帯が知っておくべき改正・対策のポイント

目次
共働き世帯では、配偶者の年収が一定の基準を超えると扶養から外れることになり、その影響は家計全体に広がります。
そのため、世帯の中にパートやアルバイトで働く方がいる場合、「年収の壁」を気にかけている方も多いのではないでしょうか。
年収の壁を越えて働くか否かを家庭内で検討するためにも、制度の仕組みや最新の改正内容を理解することが重要です。
この記事では、年収の壁とは何か、税制改正のポイント、具体的な対策について分かりやすく解説します。
年収の壁とは?

年収の壁とは、所得税や住民税、社会保険料などの負担によって、手取り収入が減少する年収のボーダーラインのことです。
例えば、共働き世帯の場合、配偶者の年収が一定の基準を超えると、扶養の対象外となり、社会保険料の支払義務が発生します。すると、収入は増えたはずなのに手取りが減ってしまうという逆転現象が起こるのです。
そのため、共働き世帯のなかには配偶者が扶養内で働き続けられるよう、勤務日数や労働時間を調整し、年収の壁を超えないよう意識して働くケースが多く見られます。
年収の壁は、家計の収入や生活設計に大きく影響するため注意が必要です。
年収の壁には、以下のとおりいくつかの種類が存在します。
主な年収の壁
- 所得税の壁(配偶者控除の壁を含む)
- 社会保険料の壁
- 住民税の壁
それぞれの壁の具体的な金額や、2025年の制度改正のポイントは、以降の章で詳しく解説します。
所得税における年収の壁(改正のポイント)

所得税における年収の壁は「103万円の壁」と呼ばれ、主に共働き世帯がボーダーラインとして意識しています。
しかし、103万円を超えないように労働時間や収入を抑える「働き控え」は、本人の収入増加やキャリア形成の機会を制限するだけでなく、企業にとっても安定的な人材確保を妨げる要因となることから、このような状況を改善し、労働力の確保や世帯収入の増加を促すため、令和7年度税制改正では所得税に関する年収の壁が大きく見直されました。
所得税がかからない年収の上限や、配偶者控除が適用される範囲などが引き上げられ、より柔軟な働き方が可能になっています。
ここでは、その主な改正ポイントを紹介します。
所得税がかからない年収の壁は「103万円から160万円へ」
2025年から、所得税がかからない年収の水準が103万円から160万円へと大幅に引き上げられ働ける時間や日数の自由度が大きく向上しました。
ただし、給与所得者で年収200万円相当以下の方に限られます。
特に、配偶者が扶養内で働く共働き世帯にとって、所得税はそのままで最大で年間約57万円の収入を増やせるため、家計の安定につながるでしょう。
配偶者控除の年収の壁は「103万円から123万円へ」
配偶者控除とは、配偶者の年収が一定額以下の場合に、納税者の所得税が軽減される制度です。
控除額は最大38万円で、納税者の年収や税率によって変わります。
例えば、控除額が38万円で納税者の所得税率が20%の場合、年間7万6,000円の税負担が軽減される仕組みとなっています。
令和7年度税制改正により、この配偶者控除を受けられる配偶者の年収上限が、103万円から123万円へと引き上げられました。
さらに、年収が123万円を超えた場合でも「配偶者特別控除」※が段階的に適用されるため、共働き世帯が年収を増やしやすくなっています。
※配偶者の収入が103万円も超えても、一定額の収入(2024年(令和6年)までは150万円、2025年(令和7年)以降は160万円)までは控除が満額受けられ、さらにその一定額を超えても控除額が段階的に減少する仕組みのこと
19歳~22歳の年収の壁は「103万円から150万円へ」
学生アルバイトを想定した19~22歳の年収の壁も、令和7年度税制改正で引き上げられました。
所得税が課せられる年収のボーダーラインが103万円から150万円となり、保護者に所得税の負担をかけることなく収入を増やすことが可能です。
さらに、年収150万円を超えた場合も、188万円までは段階的に控除が適用される仕組みとなっているため、学生にとっては就職活動の資金準備や生活費の確保がしやすくなり、経済的な自立を後押しする改正と言えるでしょう。
参考:首相官邸「「年収の壁」対策」
社会保険における年収の壁(対策ポイント)

社会保険における年収の壁とは、健康保険や厚生年金の加入義務が生じ、保険料の負担によって手取りが減少するボーダーラインです。
パート・アルバイトなどの非正規雇用であっても、勤務条件によっては社会保険に加入する義務が発生します。
社会保険料は税金よりも負担割合が高いため、注意が必要です。
特に、扶養内で働く共働き世帯の場合、月1万円以上、年間10万円以上負担が増えるケースも珍しくありません。
続いては、社会保険料における年収の壁と、具体的な対策を紹介します。
106万円の壁には「キャリアアップ助成金」
106万円の壁への対策として、勤務先で「キャリアアップ助成金」を活用した「社会保険適用促進手当」の制度があるか確認してみましょう。
この制度がある職場では、社会保険に加入しても手当により実質的な手取り減少を避けられる場合があります。詳しくは勤務先の人事担当者にご相談ください。
130万円の壁は「事業主の証明」で扶養継続に
2023年10月から、年収が一時的に130万円を超えても、事業主が「一時的な収入変動」と証明すれば、扶養を継続できる制度が導入されました。
例えば、繁忙期に残業やシフト増で一時的に収入が増加し、気付かないうちに130万円の壁を超えてしまった場合でも、事業主が書面で「一時的に収入が上がった」ことを証明すれば、社会保険の被扶養者資格を失わずに済む可能性があります。
短期間の収入変動で扶養を外れるリスクを軽減できるため、共働き世帯が安心して働きやすくなったと言えるでしょう。
106万円の壁は撤廃も検討中
政府は、パートやアルバイトの社会保険加入基準である「106万円の壁」について、将来的な撤廃を本格的に議論しています。
2025年6月には年金制度改正法が成立し、企業規模や賃金要件を撤廃し、勤務実態のみで加入を判断する方向性が示されました。
参考:厚生労働省「年金制度改正法が成立しました」
パートやアルバイトの方々は年収や企業規模に関係なく、より柔軟に働けるようになると期待されています。
一方で、社会保険の加入者が増えることで、従業員の保険料負担や事業主の負担額拡大の懸念もあるため、最新の情報と勤務先の制度をしっかり確認しましょう。
住民税における年収の壁(改正のポイント)

住民税は、地方自治体が住民に対して課す税金で、都道府県税と市区町村税の2種類があります。
前年の所得額を基準として翌年に課税され、所得税とは別に徴収される仕組みです。
所得税と同様に、年収が一定額を超えると課税されるため、住民税も「年収の壁」の一つとして意識されています。
2026年(2025年の所得)からは110万円の壁に
住民税が課税される基準は自治体によって異なるものの、おおむね年収100万円前後です。
しかし、2026年度(令和8年度)※から適用される住民税は、給与所得者の場合、全国一律で年収110万円まで引き上げられることになりました。
※2025年(令和7年)1月1日から12月31日までの収入
これまでよりも税負担が発生しにくくなり、年間で数千~数万円の負担軽減が見込まれるでしょう。
ただし、住民税は「所得割」と「均等割」で構成され、非課税となる条件は扶養人数や障害者控除などによっても変動します。
正確な基準を知りたい方は、自治体のホームページや窓口でご確認ください。
共働き世帯が手取り収入を減らさないために!年収の壁に注目しよう

年収の壁とは、税金や社会保険料の負担が増し、年収が増えても手取りが減ってしまうボーダーラインを指します。
特に、世帯の中にパート・アルバイトとして働く方がいる場合、この壁を超えるかどうかで家計に大きな影響が出るでしょう。
また、年収の壁には、所得税・社会保険料・住民税の3種類があり、それぞれ基準が異なるため注意が必要です。
政府は近年、年収の壁の引き上げや撤廃を進めています。2025年には所得税の基準が大幅に引き上げられ、2026年には住民税の基準も改正予定です。
効率良く働き手取りを減らさないためには、最新の制度改正情報を把握した上で、収入と支出のバランスを確認し、ご家庭の状況に合わせた収入や勤務時間に調整するよう心がけましょう。
※この記事は2025年8月末時点の情報に基づいています
監修者紹介
監修者 金子 賢司
資格 CFP®資格

プロフィール
東証一部上場企業(現在は東証スタンダード)で10年間サラリーマンを務める中、業務中の交通事故をきっかけに企業の福利厚生に興味を持ち、社会保障の勉強を始める。以降ファイナンシャル・プランナーとして活動し、個人・法人のお金に関する相談、北海道のテレビ番組のコメンテーター、年間約100件のセミナー講師なども務める。趣味はフィットネス。健康とお金、豊かなライフスタイルを実践・発信している。