介護に使える補助金制度とは?条件や申請方法を分かりやすく解説
高齢化が進むなか、介護にかかる費用の負担は多くの家庭にとって大きな課題です。
「親の介護が始まったけれど、金銭面の負担が気になる」「将来の自分の介護にどの程度備えておけば良いのか分からない」など、不安を抱える方も多いのではないでしょうか。
この記事では、介護に使える主な補助金制度の種類と条件、申請の流れを分かりやすく解説します。
介護に役立つ補助金制度
介護に役立つ補助金制度には、主に以下の7つがあります。
制度ごとに対象や支給条件、申請窓口が異なるため、それぞれの特徴を理解し、自身や家族の状況に合った支援を受けましょう。
①高額介護(居宅支援)サービス費
高額介護(居宅支援)サービス費は、介護保険を利用して発生した自己負担額が、世帯の所得に応じた上限額を超えた場合に、超過分が払い戻される制度です。
介護サービスの利用が多くなったときでも、一定額以上の負担を避けられる仕組みとなっています。
上限額は世帯の収入や課税状況によって異なり、住民税非課税世帯の場合は15,000〜24,600円、世帯のどなたかが市区町村民税を課税されている場合は44,400円です。
上限を超えた分については、後日申請すれば払い戻しを受けることができます。
| 対象となる方 | 上限額 | |
|---|---|---|
| 現役並み所得者に相当する方がいる世帯の方 | 44,400 円(世帯) | |
| 世帯のどなたかが市区町村民税を課税されている方 | 44,400 円(世帯) | |
| 世帯の全員が市区町村民税を課税されていない方 | 24,600 円(世帯) | |
| うち、前年の合計所得金額と公的年金収入額の合計が年間80万円以下の方等 | 24,600 円(世帯) 15,000 円(個人) |
|
| 生活保護を受給している方等 | 15,000 円(個人) | |
※「世帯」とは、住民基本台帳上の世帯員で、介護サービスを利用した方全員の負担の合計の上限額を指し、「個人」とは、介護サービスを利用したご本人の負担の上限額を指します。
出典:厚生労働省「月々の負担の上限(高額介護サービス費の基準)が変わります」
申請は、お住まいの市区町村の介護保険担当課で行うのが基本です。
自治体によってはマイナポータルなどを利用した電子申請にも対応しており、来庁せずに手続きできる場合もあります。
一度申請が通れば、次回以降は自動的に払い戻しの対象となるケースもあるため、最初の申請を忘れずに行いましょう。
②家族介護慰労金
家族介護慰労金は、要介護者を在宅で介護している家族に対して支給される自治体独自の支援制度です。
要介護者が施設サービスを利用せず、家族が1年間を通じて介護を担っている場合などに、慰労金が支給されます。
東京都内では新宿区・世田谷区・江東区などで実施されており、「住民税非課税世帯」「要介護認定を受けている方と同居している」「過去1年間介護保険サービスを利用していない」などの条件を満たすと、年額10万円程度が支給されます。
申請は、お住まいの自治体の介護保険課・高齢者福祉課などで行い、介護を受けている方の健康保険証や介護保険証などの提出が必要です。
在宅介護を続ける家族への経済的支援を目的とした制度なので、該当する場合は必ず確認しておきましょう。
③高額介護合算療養費制度
高額介護合算療養費制度は、医療費と介護費の自己負担額を1年間(8月1日〜翌年7月31日)で合算し、一定額を超えた分を払い戻す制度です。
医療と介護の両方に支出がある世帯を対象としています。
上限額は世帯の所得区分ごとに設定されており、以下のとおりです。
| 75歳以上 | 70~74歳 | 70歳未満 | |
|---|---|---|---|
| 介護保険+後期高齢者医療 | 介護保険+被用者保険 または国民健康保険 |
||
| 年収約1,160万円~ | 212万円 | 212万円 | 212万円 |
| 年収約770~約1,160万円 | 141万円 | 141万円 | 141万円 |
| 年収約370~約770万円 | 67万円 | 67万円 | 67万円 |
| ~年収約370万円 | 56万円 | 56万円 | 60万円 |
| 市町村民税世帯非課税等 | 31万円 | 31万円 | 34万円 |
| 市町村民税世帯非課税(年金収入80万円以下等) | 19万円(注) | 19万円(注) | |
(注)介護サービス利用者が世帯内に複数いる場合は31万円。
出典:内閣府「高額介護合算療養費制度 概要」
支給申請は、基準日(毎年7月31日)に加入している「医療保険者(市区町村、会社の健康保険組合など)」に対して行います。
申請には、介護サービス利用の領収書や支払証明書の提出が必要です。
④医療費控除
医療費控除とは、年間で支払った医療費および一定の介護サービス費が、所得税の確定申告時に所得控除として扱われる制度です。
申告をすることで税負担を軽減できます。
医療費控除の対象となる金額
対象金額=実際に支払った医療費-保険金などで補填される金額-10万円
保険金などで補填を受けていない場合は、基本的に10万円を超えた分が控除の対象です。
総所得金額が200万円以下の方は、「総所得金額×5%」を超えた金額が控除対象となります。
出典:国税庁「No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)」
医療費控除の対象となる介護・施設サービス
- 訪問看護
- 訪問リハビリテーション
- 居宅療養管理指導
- 通所リハビリテーション
- 短期入所療養介護
- 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
- 介護老人保健施設 など
ただし、高額介護(居宅支援)サービス費や他の制度などによって、自己負担額が軽減された分は医療費控除の対象外です。
また、家事援助や見守りなど、医療的な要素を含まない介護サービスは控除の対象になりません。
申告の際は、領収書や明細書の保存が求められるため、サービス利用時に必ず発行してもらいましょう。
⑤福祉用具購入費の支給
福祉用具購入費の支給は、腰掛け便座や排せつ予測支援機器、入浴補助具など、在宅介護に必要な福祉用具を購入する際に費用の一部を補助する制度です。
要介護・要支援の認定を受けている方が対象で、在宅での生活を安全かつ快適にする目的で利用できます。
支給金額は、原則として1年度(4月〜翌年3月)につき10万円までを上限として、購入費用の7〜9割が補助されるのが一般的です。
例えば、10万円の福祉用具を購入した場合、7〜9万円が払い戻され、自己負担は1〜3万円程度となります。
購入できる用具の種類は自治体によって異なりますが、主な対象は以下のとおりです。
介護保険の給付対象となる福祉用具
- 腰掛け便座
- 自動排せつ処理装置の交換部品
- 入浴用椅子や手すり
- スロープ
- 歩行器や杖 など
申請は、お住まいの自治体の介護保険課窓口またはマイナポータルなどから行います。
同一品目を複数回購入する場合は対象外になることもあるため、事前相談が大切です。
⑥居宅介護(介護予防)住宅改修費の支給
居宅介護(介護予防)住宅改修費の支給は、介護を受ける方が自宅で安全に生活できるように行う住宅改修に対して、費用の一部を補助する制度です。
例えば、手すりの設置や段差の解消、滑りにくい床材への変更、浴室・トイレの改修などが対象になります。
支給限度額は、要介護度に関わらず上限20万円です。
合計が20万円を超えない範囲であれば複数回に分けて利用でき、実際に支払った費用の7〜9割(最大18万円)が支給されます。
申請は、市区町村の介護保険担当課の窓口で行います。
ただし、申請にはケアマネージャーが作成する「住宅改修が必要な理由書」が必要です。
また、工事を自己判断で始めてしまうと補助の対象外になる場合があるため、必ず着工前に相談・申請を行いましょう。
⑦介護休業給付金
介護休業給付金は、家族の介護のために休業した労働者が受けられる給付金制度です。
仕事と介護の両立を支援するために設けられており、一定期間仕事を休んでも生活費を確保できます。
給付を受けるには、介護休業を開始する日前2年間に「雇用保険の被保険者期間が12カ月以上」あることが条件です。
給付額は、休業開始時点の賃金の67%相当で、支給対象となる同一の家族について93日を上限として、最大3回まで受け取ることができます。
申請は、勤務先を通じて管轄のハローワークで行います。
休業中の生活を支えるための制度なので、介護休業を検討している場合は、会社の人事担当者やハローワークに早めに相談しましょう。
民間の介護保険にも加入するべき?
公的な介護保険制度は、40歳以上の全ての国民が加入する義務を持つ社会保険制度です。要介護認定を受けることで一般的には65歳から、特定疾病では40歳からの利用が可能となります。
一方で、民間の生命保険会社などが提供する介護保険は、公的な介護保険でカバーし切れない経済的リスクや、公的制度を上回る保障を希望する方向けのオプションとして存在します。加入は義務ではなく任意です。
続いては、民間の介護保険にも加入するべきなのか、特徴やメリットを詳しく見ていきましょう。
民間介護保険の特徴①:加入義務のない任意保険
前述のとおり、民間介護保険は加入義務のない任意保険です。
40歳以上が強制加入となる公的介護保険とは異なり、加入するかどうかは個人の判断によります。
そのため、生命保険や医療保険と同じように、自ら加入手続きを行うことが必要です。
民間介護保険の特徴②:保障プランを選べる
民間の介護保険は、保険会社ごとにさまざまな商品があり、保障内容や給付条件を選択できる自由度が高いのが特徴です。
例えば、以下のような保障があります。
- 要介護2以上で、毎月5万円の保険金が一生涯支給される
- 要介護2以上で、一時金300万円を受け取れる
- 要介護1以上で、以後の保険料の払い込みが免除
- 認知症と診断された場合、一時金300万円を受け取れる など
民間の介護保険は、要介護度や給付条件に応じて、保障内容を選べます。
公的制度だけでは対応しきれない費用や経済的負担にも備えることが可能です。
また、公的な介護保険制度は40歳から保険料の徴収が始まり保険給付の対象となりますが、要介護認定の対象となる年齢や条件は限定されます(原則として65歳以上、40歳~64歳は特定の疾病が原因の場合のみ対象)。
これに対し、民間介護保険であれば、20〜30歳から加入できる商品も存在します。
さらに、保障の対象となる条件も多様で、公的介護保険制度の要介護認定を受けた場合だけでなく、保険会社所定の基準(所定の身体障害状態や認知症と診断された場合など)を満たすことで保障されるケースもあります。
これにより、公的制度の要介護認定の条件に満たない場合や、若年層での病気や事故などによる介護リスクにも、柔軟に備えられるのが魅力です。
民間介護保険の特徴③:給付金(現金)を受け取れる
公的介護保険が「サービス提供(現物給付)」を中心としているのに対し、民間介護保険は「現金給付」が一般的です。
使い道は自由に決められるため、「高額介護(居宅支援)サービス費」などの自己負担分を補いたい方はもちろん、介護サービス以外にかかる交通費・医療費・住宅改修費・家族への謝礼などにも充てることができます。
また、要介護度に応じて一時金または毎月の年金形式で受け取れる商品もあり、長期的な介護費用の備えとしても有効です。
民間介護保険の特徴④:生命保険料控除の対象となる
民間の介護保険は、支払った保険料が所得控除(生命保険料控除)の対象となります。
控除できる金額は、以下のとおりです。
| 年間の支払保険料 | 控除額 |
|---|---|
| 20,000円以下 | 支払保険料の全額 |
| 20,000円超40,000円以下 | 支払保険料等×1/2+10,000円 |
| 40,000円超80,000円以下 | 支払保険料等×1/4+20,000円 |
| 80,000円超 | 一律40,000円 |
出典:国税庁「No.1140 生命保険料控除」
生命保険料控除の適用を受けるには、年末調整または確定申告による申請が必要です。
補助金を活用して介護の金銭的負担を軽減しよう
人生100年時代と言われる昨今、家族や自分にいつ介護が必要になるかは予測できません。
公的な介護保険制度や補助金制度は利用できる権利があっても、申請しなければ支給されないものが大半です。何かが起きてから慌てるのではなく、事前に制度の仕組みを理解して備えておくことが重要になるでしょう。
また、公的制度でカバーしきれない自己負担部分については、民間の介護保険を活用するという選択肢もあります。20代・30代のうちから加入可能な商品も多く、早い段階から介護リスクに備えることが可能です。
いずれの制度も、「どの補助金や保険が自分や家族の状況に合うのか」「どのように申請して活用できるのか」を知っておくことが、金銭的な負担を軽減する第一歩となります。
早めに自治体窓口や専門家に相談し、ライフイベントに合わせた計画を立てておきましょう。
三井住友信託銀行では、ライフイベントに合わせた資産に関するシミュレーションを無料で提供しており、介護保険の活用を含めた適切なマネープランをご提案いたします。
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※この記事は2025年10月末時点の情報に基づいています
監修者紹介
監修者 金子 賢司
資格 CFP®資格
プロフィール
東証一部上場企業(現在は東証スタンダード)で10年間サラリーマンを務める中、業務中の交通事故をきっかけに企業の福利厚生に興味を持ち、社会保障の勉強を始める。以降ファイナンシャル・プランナーとして活動し、個人・法人のお金に関する相談、北海道のテレビ番組のコメンテーター、年間約100件のセミナー講師なども務める。趣味はフィットネス。健康とお金、豊かなライフスタイルを実践・発信している。