老後にかかる医療費はどのくらい?必要な備えと今すぐできる対策を紹介

老後生活では年金収入がある一方、生活費だけでなく身体の不調により医療費がかかりやすくなります。

なかには、「老後にどのくらいの医療費がかかるのだろう」「年金や退職金だけで足りるのだろうか」と不安に感じている方も多いのではないでしょうか。

病気やケガの治療だけでなく、慢性的な持病や通院、介護に関わる医療費も発生するため、現役世代のうちから計画的に備えておくことが大切です。

この記事では、老後にかかる医療費の平均額や備えておきたい資産の目安、今からできる具体的な対策について分かりやすく解説します。

老後にかかる医療費は「約1,600万円」

グラフデータの上に聴診器とコインが置かれている画像

厚生労働省が発表した令和4年度医療保険に関する基礎資料の「生涯医療費PDF」によると、1人あたりの生涯医療費の平均額は2,873万円となっています。

このうち、定年退職後(65歳以降)にかかる医療費の平均額は1,593万円に達しており、生涯医療費の半分以上を占めていることから、老後の医療費負担がいかに大きいかが分かります。

老後に医療費がかさむ背景には、主に以下の2つのポイントがあります。

  • 年齢とともに病気のリスクが高まり、年間医療費が増える
  • 高齢になると医療費負担は軽くなるが、通院や治療の回数が増える

それぞれの項目を詳しく見ていきましょう。

65歳以上の1人当たりの年間医療費は「79万7,200円」

厚生労働省の「令和5年(2023年度)国民医療費の概況PDF」によると、1年間にかかる人口1人当たりの国民医療費は、以下のとおりです。

年齢 人口1人当たり国民医療費(年間)
75歳以上 95万3,800円
70歳以上 86万4,900円
65歳以上 79万7,200円
65歳未満 21万8,000円

この表から国民1人当たりの医療費は年齢が上がるにつれ、高額になることが分かります。

特に、65歳未満と比べて65歳以上では、年間医療費が約2.5~3倍に膨らんでいます。

75歳以上では年間約95万円、月に換算するとおおよそ8万円の医療費がかかる計算です。

ただし、この数字はあくまでも医療費の総額であり、自己負担額ではありません。

年間医療費は年齢が上がるほど高額になる一方で、実際に窓口で支払う医療費の負担は、高齢になるほど軽くなるよう設定されています。

高齢者の医療費自己負担は1~3割

以下の表は、医療費の一部負担(自己負担)割合を年齢別にまとめたものです。

医療費の窓口負担割合
年齢 自己負担割合
0~6歳まで 2割
7~69歳まで 3割
70~74歳まで

2割

現役並み所得者:3割

75歳以上

1割

一定以上の所得がある人:2割

現役並み所得者:3割

医療費の自己負担割合は年齢だけでなく所得や世帯構成によっても異なります。

例えば、70〜74歳であっても世帯に現役並み所得者(住民税課税所得145万円以上の方)がいる場合は、医療費の自己負担割合は3割が適用されます。

さらに、75歳以上の方が加入する「後期高齢者医療制度」でも、2022年10月の制度改正により、一定以上の所得がある人は1割ではなく2割負担へと引き上げられました。

また、一見すると年齢が上がるほど自己負担が軽くなるように感じますが、支出が少なくなるとは限りません。

厚生労働省「令和5年(2023年度)国民医療費の概況PDF」によると、65歳未満の1人あたりの国民医療費は21万8,000円、3割負担であれば年間の自己負担額は約6万5,000円です。

一方で、75歳以上の場合1人あたりの国民医療費は95万3,800円のため、1割負担では年間約9万5,000円となり、3万円ほど高くなります。

高齢になると、定期的な受診や複数の医療機関を利用する機会が増えたり、常時服用する薬が増えたりするケースも多く、医療費の負担が積み重なる傾向にあります。

医療費が増えているという実感がなくても、年単位で見ると支出が増加していることがあるため、注意が必要です。

1人当たりの自己負担額は「月々5,800~7,500円」

厚生労働省が発表した「医療保険に関する基礎資料~令和4年度の医療費等の状況~PDF」によると、1人当たりの医療費の自己負担額は以下のとおりです。

年齢 医療費の年間自己負担額 医療費の月額自己負担額
65~69歳 89,070円 7,422円
70~74歳 73,241円 6,103円
75~79歳 70,343円 5,861円
80~84歳 79,283円 6,606円
85~89歳 86,503円 7,208円
90~94歳 89,647円 7,470円
95~99歳 89,396円 7,449円
100歳~ 82,969円 6,914円

このデータから、「月々5,800~7,500円なら、思ったより負担は軽い」と感じる方も多いかもしれません。

しかし、これはあくまでも全国平均の数値であり、自己負担の割合は、年齢や所得、加入している保険制度(国民健康保険、健康保険、後期高齢者医療制度など)によっても変わってきます。

特に高齢期は、突発的な病気やケガによる入院治療や、介護が必要になる可能性もあり、医療費以外の支出も増えやすくなります。

医療費以外にかかる入院費・介護費用

公益財団法人生命保険文化センターの調査新規ウィンドウで開くによると、入院費用の1日あたりの平均は約2万1,000円、入院費用総額の平均は約20万円です。

この金額には治療費のほか、個室や少人数部屋を利用する際の差額ベッド代なども含まれており、入院期間が長引けばその分だけ費用も膨らみます。

また、同センターが実施した「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査PDF」によると、介護にかかる自己負担の平均額は月約9万円(年間約108万円)と報告されています。

特に、特別養護老人ホームや有料老人ホームなど、居住施設型サービスを利用する場合は、月10万円を超える負担となるケースも少なくありません。

他にも、介護に付き添う家族の交通費や生活支援サービスの利用料など、想定外の出費がかかるケースもあります。

老後にかかる医療費・入院費・介護費用に備える方法

高齢者をサポートする職員の画像

老後の医療費や介護費用は、誰にでも発生し得る支出です。そのため、早い段階から備えておくことで、将来の家計負担を大きく軽減できる可能性があります。

続いては、老後の医療費・入院費・介護費用に備えるための具体的な方法を紹介します。

30代・40代のうちから少しずつ準備を始めるのが理想ですが、50代以降であっても今からできる対策はあります。

無理なく続けられる備えを、一つずつ実践していくことが大切です。

民間保険に加入する

医療費や介護費用に備える手段の一つが、民間保険の活用です。

公的医療保険や介護保険ではカバーしきれない自己負担分を補うことができ、加入したその日から万が一の備えになります。

民間保険の主な種類は以下の3つです。

民間保険の種類
種類 概要
医療保険
  • 病気やケガで入院・手術をした際に自己負担分を補える
  • 入院給付金や手術給付金が支払われるタイプが多い
介護保険
  • 介護にかかる費用(自己負担分、介護保険の対象外となる部分)を補える
  • 要介護認定を受けると一時金や年金が受け取れるタイプが多い
個人年金保険
  • 国民年金、厚生年金に加えて加入できる第3の年金

保険会社によってプランが異なり、ご自身の目的に合わせて選べるため、「必要な分だけ備えたい」という方にもおすすめです。

また、支払った保険料のうちの一定額は、生命保険料控除の対象となります。

生命保険料控除とは、支払った生命保険料に応じて一定の金額がその年の所得から差し引かれることで、所得税や住民税の負担が軽減される制度です。

ただし民間保険は、加入時の健康状態によっては契約が難しい場合や、年齢を重ねるほど保険料が高額になるケースもあります。

そのため、加入を検討する際は早い段階から複数の保険商品を比較し、どの費用をどの程度カバーしたいのかを明確にした上で選ぶことが重要です。

貯蓄と積立投資で老後資金を形成する

老後にかかる医療費や入院費、介護費用に備えるには、早い段階から計画的に資金を確保することが重要です。

まずは、日常の出費を見直し、無理のない範囲で貯める仕組みを作ることから始めましょう。

また、貯蓄を自動化する仕組みを作ることもポイントです。

毎月定額で積み立てることのできる貯蓄型商品や、少額から始められる積立投資などを活用すれば、意識せずに資金を蓄えられます。

余裕資金の一部を運用に回す

ある程度の貯蓄ができ、生活資金や緊急時の予備資金が確保できたら、次は「余裕資金」の一部を運用に回すことを検討しましょう。

毎月の積立投資を継続するのはもちろん、退職金の一部やまとまった資金を分散投資することで、老後の医療費や介護費用に備える原資をさらに増やすことが可能です。

近年では、定期預金よりも大きいリターンを期待できる退職金の運用方法として、「バランス型の投資信託」や「ファンドラップ」など、リスクを抑える効果のある運用商品をおすすめする金融機関も増えています。

これらの商品は、複数の投資先に分散投資をすることで、リスクを抑えられる点が特徴です。さらにリスクを抑えたい方は、値動きが小さく安定したリターンが得られる「個人向け国債」を利用する方法もあります。

老後の資産形成は、一度に大きく増やすよりも「長く・分散して・堅実に育てる」姿勢が大切です。

無理のない範囲で貯蓄と運用を両立し、将来の医療・介護の不安を少しずつ軽減していきましょう。

具体的な方法や商品については、以下の記事で詳しく紹介しています。

老後の医療費に備えるには早めの準備が大事!できることから始めよう

机の上に木製の家族の人形、聴診器が置かれ、書類に書き込んでいる様子の画像

「人生100年時代」と言われるように、日本人の平均寿命は年々延び続けています。

老後にかかる医療費や入院費、介護費用は、誰にとっても避けて通れない支出です。

厚生労働省のデータによると、65歳以降の医療費自己負担額は月平均5,800〜7,500円です。

一見すると大きな金額ではないように思えますが、入院となると1回あたり平均約20万円、介護費用に至っては月約9万円(年間約108万円)が必要になるとの調査結果もあります。

長寿化が進むなかでは、このような支出が10年、20年と続く可能性もあるため、民間保険への加入や積立貯蓄を活用した長期分散投資など、自分のライフスタイルに合った方法で少しずつ備えを始めるのがおすすめです。

三井住友信託銀行では、年代やライフプランに合わせた老後資金準備のご相談を承っております。

店舗での面談はもちろん、オンラインでもご相談いただけますので、老後資金づくりの第一歩としてお気軽にご利用ください。

この記事は2025年10月末時点の情報に基づいています

監修者紹介

監修者 金子 賢司

資格 CFP®資格

金子賢司氏の写真

​​プロフィール
​​東証一部上場企業(現在は東証スタンダード)で10年間サラリーマンを務める中、業務中の交通事故をきっかけに企業の福利厚生に興味を持ち、社会保障の勉強を始める。以降ファイナンシャル・プランナーとして活動し、個人・法人のお金に関する相談、北海道のテレビ番組のコメンテーター、年間約100件のセミナー講師なども務める。趣味はフィットネス。健康とお金、豊かなライフスタイルを実践・発信している。​

個人向け国債に関する注意事項はこちらをご覧ください。

その他本コラムに登場する金融商品の注意事項は、「退職金特別プラン・ご退職予定者向け特別プラン」のページ下部に掲載している注意事項をご覧ください。

ページ最上部へ戻る