介護費用はどのくらいかかる?自己負担を抑える方法と対策について
年齢を重ねるごとに昔より身体が動かしにくくなったり、不調が増えたりするものです。
そうなると老後生活に向けて「家族の介護にどのくらいの費用を備えておけば良いのだろう」「自分が要介護状態になったとき、家族や子どもたちに負担をかけないためには?」と悩む方も多いのではないでしょうか。
この記事では、介護費用の平均額や内訳を分かりやすく解説し、自己負担額をできるだけ抑えるための制度や対策について紹介します。
介護費用の平均は1人当たり約542万円!
超高齢化社会を迎えた日本では、介護を必要とする「要介護(要支援)認定者」の人数が、年々増加し続けています。
厚生労働省の「厚生労働白書(令和5年度厚生労働行政年次報告)」によると、2000年に介護保険制度がスタートして以降、その人数は2.7倍にまで拡大し、介護費用の備えは多くの家庭にとって現実的な課題となりました。
公益財団法人生命保険文化センターの「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査」によると、介護にかかる平均的な自己負担額の総額は1人あたり約542万円です。
その内訳は、以下のとおりです。
(A)介護の一時的な費用:47万2,000円
(B)月々の介護費用:9万円×55カ月(介護の平均的な期間)=495万円
(A)+(B)=542万2,000円
ただし、これはあくまで平均的な額であり、介護の内容や期間によって実際の負担は大きく異なります。
まずは、介護費用の内訳について、詳しく見ていきましょう。
介護にかかる一時的な費用は47.2万円
介護の一時的な費用とは、介護が始まったタイミングで発生するまとまった支出を指します。
公益財団法人生命保険文化センター「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査」によると、介護にかかる一時的な費用の平均額は、47.2万円です。
この費用に含まれる主な項目は、以下のとおりです。
- 自宅をバリアフリー化するリフォーム(段差解消・手すり設置・車いす対応改修など)
- 介護ベッドや車いす、福祉用具の購入費用
また、50万円以上の一時的な介護費用を支出している世帯が約20%いることも分かっています。
リフォームの範囲によっては一時的な介護費用が100万円を超えるケースもあり、予想以上に負担が大きくなることもあるでしょう。
いざというときに慌てないよう、余裕をもって準備しておくことが大切です。
介護にかかる月々の費用は9万円
同調査によると、継続的に発生する月々の介護費用の平均額は9万円です。
介護形態別に分けると以下のような差があります。
在宅介護:平均 約5.3万円/月
施設介護:平均 約13.8万円/月
出典:公益財団法人生命保険文化センター「介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?」
また、月々の支出が15万円以上と回答した方も19.3%にのぼります。
自宅介護か施設介護かを検討する際は、このような費用の違いも把握しておきましょう。
介護にかかる平均的な期間は4年7カ月
同調査では、介護が必要になってから終了(あるいは現時点での継続)までにかかる平均期間を55カ月(4年7カ月)と公表しています。
ただし、この調査は「過去3年間に介護経験のある人」を対象にしたもので、現在介護中の方も含まれています。
介護が終了した人だけを対象にした場合、平均期間はさらに長くなる可能性もあるでしょう。
「4年以上介護を続けた」という回答が全体の42.7%に達していることから、長期化する可能性が高いことがうかがえます。
介護保険で自己負担は抑えられる?
介護保険とは、介護にかかる費用の自己負担を大幅に軽減できる公的制度です。
続いては、介護保険の基本的な仕組みや利用限度額、介護費用として活用できる公的な補助金制度について説明します。
介護保険サービス利用料は1〜3割負担
介護保険サービスを利用できるのは、以下のいずれかに該当する方です。
- 65歳以上(第1号被保険者)で「要支援」または「要介護」の認定を受けた方
- 40〜64歳(第2号被保険者)で、老化に起因する特定疾病により「要支援/要介護」状態になった方
出典:厚生労働省「介護保険制度の概要」
上記に該当する方が、介護サービスを受ける際の費用の自己負担割合は原則1割です。ただし、所得が一定以上ある世帯の場合、2割または3割負担となるケースもあります。
また、自治体によっては所得の低い世帯や、1カ月の介護サービス利用料が高額になった方に対して、負担軽減措置が設けられています。
自己負担額がさらに抑えられる可能性があるため、詳細はお住まいの市区町村ホームページなどで確認してください。
なお、「居宅サービス(訪問介護・デイサービスなど)」の1カ月あたりの利用限度額(支給限度基準額)は要介護度ごとに設定されています。
| 要支援1 | 50,320円 |
|---|---|
| 要支援2 | 105,310円 |
| 要介護1 | 167,650円 |
| 要介護2 | 197,050円 |
| 要介護3 | 270,480円 |
| 要介護4 | 309,380円 |
| 要介護5 | 362,170円 |
出典:厚生労働省「居宅サービスの1ヶ月あたりの利用限度額」
限度額の範囲内でサービスを利用した場合は、1〜3割が自己負担となります。
限度額を超えてサービスを利用した場合は、超えた分が全額自己負担となるため、注意が必要です。
介護費用の補助金制度を活用
介護費用の負担を抑えるもう1つのポイントが、補助金制度です。
国や自治体では、所得や世帯の状況に応じて活用できる補助制度を設けています。
代表的なものには、「高額介護(居宅支援)サービス費」と「高額介護合算療養費制度」があります。
| 名称 | 概要 |
|---|---|
| 高額介護(居宅支援)サービス費 | 介護サービスの自己負担額が高額になった場合に、上限を超えた分が払い戻しされる制度。 上限額は所得や課税状況により異なり、1カ月単位で設定される。 |
| 高額介護合算療養費制度 | 医療費と介護サービスの自己負担額を合算し、一定額を超えた場合に超過分が払い戻しされる制度。 上限額は毎年8月〜翌年7月末までの1年単位で設定される。 |
いずれも、自己負担の上限額を超える部分をカバーしてくれる補助金制度です。
ただし、払い戻しの対象になる金額は、世帯の人数や年齢、所得によって異なります。
例えば、「高額介護(居宅支援)サービス費」の上限額は、所得区分によって以下のように定められています。
| 所得区分 | 上限額(月額) |
|---|---|
| 年収約1,160万円以上の世帯 | 140,100円(世帯) |
| 年収770〜1,160万円未満の世帯 | 93,000円(世帯) |
| 年収770万円未満の一般的な世帯 | 44,400円(世帯) |
| 住民税非課税世帯 (前年所得等が80万円以下など) |
24,600円(世帯) または15,000円(個人) |
| 生活保護を受給している方等 | 15,000円(世帯) |
出典:厚生労働省「令和3年8月利用分から高額介護サービス費の負担限度額が見直されます」
払い戻しの対象となるのは、介護サービスに対する自己負担分のみであり、施設の食費・居住費・福祉用具購入費・住宅改修費などは対象外です。
また、これらの補助金制度は自動的に適用されるわけではなく、原則として申請が必要です。
申請を行わなければ払い戻しを受けられない場合があるため、サービス利用後は早めにお住まいの自治体の手続き方法を確認しておきましょう。
介護保険でカバーできない費用はどうする?
介護保険を利用すれば、1〜3割の自己負担で介護サービスを受けられます。
加えて高額介護サービス費などの補助制度も整備されているため、「公的制度だけで十分に備えられるのでは?」と感じる方もいるでしょう。
しかし、冒頭で紹介したとおり、実際に1人あたりの平均介護費用は約542万円に上るという調査結果があります。これは、介護保険を適用した上で実際に支払った自己負担額の平均です。
介護には、介護サービスそのもの以外にも、通院や入退院に伴う交通費、紙おむつや日用品などの消耗品費、介護に通う家族のガソリン代や外食費といった保険外の支出が多く発生します。
さらに、介護施設に入居する場合は居住費や食費、光熱費などが別途かかり、在宅介護の場合でも住宅改修費や介護用品の購入などに費用がかかります。
そのため、介護費用を準備する際は、介護保険でカバーされる分だけでなく、カバーされない支出を含めて計画を立てることが重要です。
介護が長期化した場合、年金や貯蓄だけでは生活費と両立できなくなることもあるため、将来に備えて早めに準備を始めましょう。
ここからは、介護保険でカバーできない費用をどのように捻出すれば良いのか、具体的な対策を4つ紹介します。
民間の介護保険に加入する
公的介護保険でカバーできない部分は、民間の介護保険に加入して補う方法があります。
民間の介護保険は、使途に制限がないため公的保険では賄えない自己負担分や生活関連費をカバーすることができます。
また、民間の介護保険では、契約者自身が介護状態で保険金を受け取るのが難しい場合でも、家族が代理請求できる仕組みがあるため、柔軟な対応が可能です。
無駄な支出を抑えて貯蓄に回す
将来かかる介護費用の負担に備えるには、日常生活の中で無理なく貯蓄を増やすことも大切です。まずは家計を見直し、無駄な支出を減らすところから始めましょう。
キャッシュレス決済を活用して支出を「見える化」する方法も効果的です。毎月の支出傾向を把握できれば、削減すべき項目が明確になるでしょう。
老後のために積立投資を始める
老後に備えて、早い段階から資産形成を始めることは、とても有効な手段です。
月々少額ずつでも積立投資を行うことで、長期間にわたる複利効果を活かした備えが可能になります。
早めのスタートが大きな差を生むため、将来の介護費用を頭に入れた資産づくりを、今から意識しておくことをおすすめします。
退職金運用でお金を増やす
退職金の一部を運用に回し、老後の生活費や介護費用に備える方も増えています。
退職金の一部を運用に回し、残りを流動性の高い資金として確保することで、万が一の介護費用にも柔軟に対応できるバランスの良い備えができるでしょう。
少額で早いうちからコツコツ始めることと、一括で受け取るタイミングが来る場合は資産全体を考えることがポイントです。
詳しくは以下の記事で解説しています。
介護費用は計画的な準備が必要!家族で話し合って考えよう
高齢化が進む日本において、介護費用は誰にとっても無関係ではない支出です。
公的な介護保険制度によって、サービス利用時の自己負担は1〜3割に抑えられますが、実際には保険が適用されない費用や、家族の生活費・交通費などもかかります。
将来の介護費用に備えるには、ご家族で話し合いながら、早めに準備を進めておくことが大切です。
「誰が介護を担うのか」「自宅で介護を続けるか、それとも施設を利用するか」「親の年金や貯蓄、保険をどう活用するか」などを具体的に話し合い、家族全員が共通認識を持っておくと安心です。
また、民間の介護保険や積立投資など、今できることを少しずつでも始めてみてはいかがでしょうか。
三井住友信託銀行では、介護費用の備えを含めたライフプランのご相談を承っています。
介護保険の仕組みを踏まえた上で、貯蓄や運用、保険など幅広い選択肢から、お客さまのお悩みに合わせて最適なプランをご提案いたします。
ご家族が安心して老後を迎えられるよう、ぜひお気軽にご相談ください。
※この記事は2025年10月末時点の情報に基づいています
監修者紹介
監修者 金子 賢司
資格 CFP®資格
プロフィール
東証一部上場企業(現在は東証スタンダード)で10年間サラリーマンを務める中、業務中の交通事故をきっかけに企業の福利厚生に興味を持ち、社会保障の勉強を始める。以降ファイナンシャル・プランナーとして活動し、個人・法人のお金に関する相談、北海道のテレビ番組のコメンテーター、年間約100件のセミナー講師なども務める。趣味はフィットネス。健康とお金、豊かなライフスタイルを実践・発信している。
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