第4回「米国は9月に利下げへ、日銀はどう動く?」
2019/09/18

「景気拡大を維持するために、われわれは引き続き適切に行動する」――。
パウエルFRB議長は9月6日にこう発言し、9月17~18日のFOMCでの追加利下げを示唆したと受け止められました。
パウエル議長は、同日の発言のなかで、米国経済が緩やかに成長するというのが最も高い見通しとしながらも、世界的な景気減速、貿易政策をめぐる不確実性、持続的な低いインフレ率などをリスクに挙げ、これらを注視していくと表明しました。そのため、9月のFOMCで0.25%の利下げが実施されるとの見方が強まっているわけですが、「大胆な金融緩和」を実行中の日本銀行(日銀)も、FOMCの直後に金融政策決定会合を開催するので、その対応が注目されています。
9月に米追加利下げの可能性は高いが、その後に日銀はどう動くのでしょうか?
その前に、米国の金融政策に関する基礎用語を説明しておきます。
- FRB
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連邦準備制度理事会(Board of Governors of the Federal Reserve System)。FRBは12の連邦準備銀行(地区連銀)とともに連邦準備制度を構成し、この制度全体が中央銀行である。日本では、日本銀行がそれ単独で中央銀行であるのと比べると、米国の中央銀行は少し複雑なしくみになっている。
- FOMC
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連邦公開市場委員会(Federal Open Market Committee)。政策金利などの金融政策を決定する。FRBの理事7名と地区連銀の総裁5名で構成される。日本でいうと日銀金融政策決定会合に相当する。
- FF金利
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フェッドファンドレート。銀行間で主に翌日物の資金を取引する市場で成立する金利。この金利の誘導水準が政策金利として調整される。現在は2.00~2.25%のレンジが誘導水準となっている。
米国では7月末に0.25%の利下げが実施されましたが、金融市場参加者は緩やかな景気拡大を維持するには足りないと見ている人が多いようで、将来のFF金利を予想して取引するFF金利先物市場では、2021年までに少なくとも4回の利下げが織り込まれています。
図1は、FOMCメンバーのFF金利見通しとFF金利先物の織り込みを示したものです。
FOMCメンバーの各年末時点の見通しを青丸で示し、横並びの丸の数はその水準を予想するメンバーの数を表します。ちなみに、このメンバー予想は6月時点のもので、9月18日に新しい予想が公表されます。
FF金利先物の織り込みは折れ線グラフで表示されています。1回の利下げ幅を0.25%ポイントとすると、9月9日時点のFF金利先物には、4回の利下げ(グラフ中の丸番号)が完全に織り込まれているほか、5回目の利下げが50%程度織り込まれています。
なお、7月31日に利下げを実施した直後のFF金利先物の織り込み状況も図1に表示してあります。前回利下げ後から、利下げ織り込み回数が約2回分増えていることがわかります。

(出所:FRB・Bloombergのデータより作成)
この市場参加者の利下げ織り込みが、9月18日のFOMCを受けてどのように変化するかが、金融市場、とりわけ為替市場に大きく影響するでしょう。利下げを実施しても、FF金利先物の利下げ織り込みがこれ以上進行しなければ、ドル円レートはあまり大きく反応しないと考えられます。しかし、FOMCメンバーのFF金利見通しが一段と引き下げられ、FF金利先物の織り込みも一段と進むようだと、円高に弾みがつく可能性が高まります。
FOMCの結果は日本時間の9月19日午前3時に公表されますが、その後の19日お昼ごろ(時間は未定)には日銀金融政策決定会合の結果が公表されます。日銀決定会合は9月18~19日の日程で開催されるため、日銀はFOMCの結果を確認してから、物価目標の達成へ向けて必要な対応をとることができます。日銀の金融緩和余地は小さいと言われていますが、長期間の緩和を約束するフォワード・ガイダンスを強化することは可能です。仮にFOMCを受けて円高に弾みがついたとしても、日銀の対応次第で円高圧力は後退する可能性があるため、9月のFOMCは日銀決定会合とセットで見ていくべきでしょう。
日銀金融政策決定会合とFOMCは双方とも、各回2日間の日程で、年8回開催されます。図2にあるように、今後のスケジュールは2020年の分まで公表されており、両者は割と近いタイミングで開催されます。

(出所:日銀・FRBのウェブサイトの情報より作成)
これらは金融市場への影響の大きいイベントですので、その前後は金融市場が不安定になる場合があります。長期投資を始める時は、このように大きく波打つようなタイミングは避けて、静かな流れへそっと漕ぎ出すようにスタートするほうが、心理的なストレスが少ないのではないかと考えます。筆者も最近、長期投資として外貨建保険を始めましたが、投資タイミングには金融政策会合の影響が少ないと思われる8月半ばを選びました。
もちろん、金融市場はその他様々な要因で動くので、金融政策会合だけを避ければよいというものではありませんが、会合スケジュールは日銀・FRBのウェブサイトに掲載されますので、参考にされてはいかがでしょうか。
(三井住友信託銀行マーケット企画部 瀬良礼子)
執筆者紹介

瀬良 礼子(せら あやこ)
三井住友信託銀行マーケット・ストラテジスト
1990年に京都大学法学部卒業後、三井住友信託銀行に入社。公的資金運用部にて約6年間、受託資産の債券運用・株式運用・資産配分業務に携わった後、総合資金部で自己勘定の運用企画を担当。以後、現在にいたるまで、為替・金利を中心にマーケット分析に従事。
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