第34回 住まい高額化時代における住み替えの選択は?
2024/08/22

現在、資材価格や人件費の高騰、歴史的な低金利環境などを背景に、全国的に住宅価格が上昇していますが(国土交通省「不動産価格指数(住宅価格)」より)、高額化してきている「住まいの状況」に対して、どのような「住み替えの選択」がなされているのでしょうか。
今回ミライ研では、現在の住居形態が賃貸と持ち家の方を対象に、過去3年以内に住み替えたか(実態面)と、今後3年以内に住み替えたいのか(意識面)、そしてその理由について尋ね、過去・現在・未来の時系列における住み替えの選択を調査しています。
昨今では、購入後の価格上昇を期待して住み替えを前提に自宅を購入する戦略などにも注目が集まっていますが、世間全体での実態や意識がどうなっているのか見てみましょう。
20代では2人に1人が過去3年以内に住み替えている
過去3年以内に「住み替えを行った」割合を各年代で見ると、18歳-29歳(以降20代と表記)では就職や転勤などを背景に全体の半数以上(51.7%)、およそ2人に1人が3年以内に住み替えを行っていることがわかりました(図表1)。また、一般的にライフイベントが多く訪れるといわれる30代で約4割、40代で約3割の方が過去3年以内に住み替えを行っています。一方で、50代・60代はともに住み替えを行ったのは約1.5割と、住み替え比率が減少していることが確認できました。

*回答者:現在「賃貸」、「持ち家(自己所有)」の居住者
(出所)特に出所を示していない場合、三井住友トラスト・資産のミライ研究所「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2024年)よりミライ研作成
住み替えをした方を対象に、住居形態の変化も調査しました(図表2)。結果をみると、20代では住み替えた方の9割近く(85.8%)が賃貸への住み替えを選択していますが、年代が上がるにつれて持ち家への住み替え率が大きく上がっていることがわかりました。

*回答者:現在「賃貸」、「持ち家(自己所有)」の居住者
*5.0%未満はグラフ内表記省略20代・30代の住み替え理由は?
全体の中でも住み替え比率の高い、20代・30代における住み替え理由はどういったものか、注目して見ていきたいと思います。
賃貸への住み替え理由としては、20代・30代ともに、家族構成の変化や勤務先への通勤といった、実際のライフスタイルに合わせた住み替え理由が上位を占める結果となりました。
一方で、持ち家への住み替え理由は、20代・30代ともに第1位は「家族構成の変化」ですが、20代の第2位、第3位では「住居費が高かったため」・「住宅ローン金利が低かったため」といった理由になりました。この結果から、早期に住宅購入の選択を取られる方は、ライフスタイルに合わせた住み替えだけでなく、マネープランを軸に持ち家へ住み替えを検討されていることが確認できました。

*教育環境:通学面、受験面
*勤務先への通勤:就職・転職・異動
*住居費:賃貸→家賃・共益費 持ち家→住宅ローン返済費・管理費・修繕積立金など
(ご参考)今後3年以内の住み替え意識は?
今後3年以内の時間軸における「住み替え」に関する意識についても尋ねています。こちらも過去の住み替え実態同様、20代が約半数(46.9%)と最も住み替え意向が高く、年代が上がるにつれてその割合が低くなっていることがわかります(図表4)。

*回答者:現在「賃貸」、「持ち家(自己所有)」の居住者
また、今後3年以内に住み替えを予定している方の住居形態の変化(予定)については、20代・30代で「賃貸から持ち家」へ住み替えを予定している割合が他年代と比較しても高くなっており、「持ち家→別の持ち家」へ住み替えを予定している層も含めると、今後3年間のうちに、新たに住宅取得を検討されている方も相応にいることがわかりました。
50代・60代では、既に持ち家に居住されている方で、別の持ち家へ住み替えを予定していると回答した方の割合が、他年代よりも顕著に高い結果となりました。

*回答者:現在「賃貸」、「持ち家(自己所有)」の居住者
*5.0%未満はグラフ内表記省略
住宅価格が過去最高を更新している中で、賃貸・持ち家問わず、住まいにかかるコストは全体的に高額化の傾向にあります。そのような環境下では結果的に「住まい」の資産価格が上昇し、そのメリットを享受するケースも見受けられますが、本調査の結果からは、各年代における「目の前にあるライフイベント」にどう対応していくかという「リアルな目線」から、自身にとっての住居形態に向き合っていることがうかがえました。
何を重視し、何を優先するかは各人の判断に委ねられる部分ですが、人生100年時代における「我が家に合った住まいのありかた」の吟味・検討については、今後も重要であると考えられます。
<※全年代の住み替え理由については、レポート「令和の住み替え事情 ー住まいの高額化時代における選択は?ー」をご覧ください。>

「三井住友トラスト・資産のミライ研究所」は、人生100年時代に適応した資産形成や資産活用に関する調査・研究を中立的な立場で発信することを目的として、2019年に三井住友信託銀行内に設置した組織です。人生100年時代を安心して明るく過ごすために、資産形成・資産活用に関する情報をホームページや書籍を通してお届けしています。
執筆者紹介

桝本 希(ますもと のぞみ)
三井住友トラスト・資産のミライ研究所 研究員
2015年に三井住友信託銀行入社。奈良西大寺支店にて個人のお客さまの資産運用・資産承継に係るコンサルティング業務に従事。2019年よりIT業務推進部にてマーケット事業で利用するシステムの開発・保守業務を担当し、2022年より現職。現職では幅広い世代に対して資産形成、資産活用に関する調査研究並びにホームページやYouTubeを通して情報発信を行っている。