2019/10/28

運動機能の低下や障害により自立度が低下し、要支援あるいは要介護になる危険がある状態を『ロコモティブシンドローム』(以下ロコモ)と言います。早稲田大学 スポーツ科学学術院 岡浩一朗教授によると、メタボリックシンドローム(以下メタボ)の成功を受けて、日本発で提唱されたものなのだとか。「2007年ごろに出てきた言葉なんです。当時、日本はメタボ対策が成功していて、私が留学していたこの分野のトップであるオーストラリアのベイカー心臓病糖尿病研究所の先生も、“日本では国民みんながメタボに関するリテラシーが高くてすごいね”と驚いていました。それでメタボに習って、介護の分野で問題視されていた運動器の機能が低下した状態を、『ロコモ』と呼ぶことにしたんです。こちらはまだ、海外にまでは十分に広がっていないですが」

国内では、2006年は介護保険制度の改正タイミングだったこともあり、介護予防の一環としてロコモ対策により大きな注目が集まるようになりました。「ロコモ状態では、ちょっとした段差でもつまずいて転倒して骨折をしてしまうなど、あっというまに要介護になってしまうリスクが高まります。そこで、東京都老人総合研究所(現 東京都健康長寿医療センター研究所)の先生方が中心になって、2013年に発行された『ジェロントロジー入門』というテキストに私も協力させていただいて。以前は『お達者健診』と呼んでいたものを、『ロコモ』の自己診断方法と予防トレーニングとしてテキストに紹介したのです」

2013年発行の『ジェロントロジー入門』を手に。「現在は、公益社団法人 日本整形外科学会からも『ロコモ度テスト』が公表されています」と岡先生。

ジェロントロジーとは老年学と呼ばれるもの。この分野の一番の問題点は、自分が老化していることを認識したくないことにあると、岡先生は言います。「老化は徐々に進んでいくということもあるんですが、わかっていても現実を突きつけられたくないんですよね。どこかで、私だけは大丈夫、私の問題じゃないとみなさん思っているんです。でも、運動器の機能低下を放置していると、何かの拍子に骨折したりして要介護になってしまう。そうして体を動かせなくなると、急激に認知機能も低下してしまうということがよく起こっています」

30歳を過ぎれば誰にでも老化は訪れます。いつまでもいきいきと自立して過ごすために、まずは自身のロコモリスクを自己認識することから始めましょう。ロコモリスクは下記のとおりご自身で簡単に、運動機能チェックとバランス能力テストで確認することができます。

運動機能チェック

一つでも該当すればロコモの可能性があります

  • 片足立ちで靴下がはけない
  • 階段を上るのに手すりが必要
  • 15分くらい続けて歩けない
  • 家の中でつまずいたり滑ったりする
  • 横断歩道を青信号で渡りきれない

バランス能力テスト

つかまれるもののそばで両手を腰にあて、片足を床から5cmほど上げ、立っていられる時間を計ります。10秒以上立つことができれば大丈夫です。

気軽に取り組めるトレーニングでロコモ予防しよう

上記の運動機能チェックやバランス能力テストの結果不安があっても、いきなり高い強度のトレーニングは難しいもの。そこで岡先生は、日常のなかで“座りすぎない”という低強度のアクティビティの重要性を提唱しています。「例えば、ジムに通ったりなどでWHOが推奨する身体活動量を実施できていたとしても、座位時間が1日4時間未満の成人と比べると、8時間以上の場合は死亡リスクがかなり高まることが知られてきています」

取材に訪れた岡先生の研究所では、スタンディングデスクを導入するなどゼミに所属する大学院生のみなさんが立って作業ができる環境を導入されています。「現代の生活は、どんどん動かなくてもいいように、立たなくてもいいようにという環境を整えていっています。スマートスピーカーはその最たるものですね。文明の利器に触れることの利点もありますし否定するわけではないのですが、もう少し長期的に物事を見たときに、そのような暮らしがいい生活だという認識とは真逆の社会改革をしていくことが、老後もいきいきと自立することにつながる可能性があると思うんです。日常で座りすぎにならないためのハード・ソフト両面での環境づくり、『ロコモ』診断・予防のような取り組みでのリテラシーの向上、またそのような意識でさまざまな分野で活躍してくれる人材を育成することが私のテーマです」

北欧デザインの腰痛対策椅子「バランス シナジー」について解説する岡先生。岡浩一朗研究室には、スタンディングデスクやマット、バランスボールを利用するチェア、高さ調整ができる机上デスクなどを導入。

岡先生は2014年より、40歳以上の早稲田大学卒業生を対象に、登録制で20年間の長期にわたる追跡調査を行う「WASEDA’S Health Study」(WHS)という取り組みも進めています(公益財団法人パブリックヘルスリサーチセンターとの共同プロジェクト)。現在、約5,500名の卒業生の方に、インターネットを通じた調査や活動量計による生活状況の測定と、そのうち約2,000名の方には大学で最新のMRIなども駆使した各種健康・体力測定を行っています。「今、世界中で、何十万という対象者での追跡調査が行われていますが、それらは自己申告によるアンケート調査のような形式が大半です。私たちはさらに突っ込んで、メカニズムの解明にまで迫るような研究に取り組んでいけたらと思います」超高齢化社会という側面でも先進国として知られる日本。岡先生の研究を始めとした日本の取り組みに、世界から熱視線が注がれています。

最後に、上述の岡先生監修による『ロコモ』予防トレーニングをご紹介します。座りすぎを防ぐ意味でも、日常生活のちょっとしたすきま時間に、ご自身の体調や体力にあわせて取り組んでみてください。

無理なくできる筋力向上トレーニング

ひざ伸ばし体操(右10回、左10回で1セットとする)

ひざの可動性を保ちます(対象:太もも 大腿四頭筋)

  • いすに座り、背中を伸ばす

    • 背もたれに背中をつけてもよい
  • ひざを伸ばしたまま右足をゆっくり上と持ち上げ、ゆっくり下げる

    • ひざを無理に伸ばしすぎないように
  • 左足も同様に

つま先立ち(10回で1セットとする)

歩行速度の低下を防ぎます(対象:ふくらはぎ 下腿三頭筋)

  • 両足を肩幅程度に開き、いすやテーブルをつかんでまっすぐに立つ
  • 1・2・3・4で両足のかかとを上げ、1・2・3・4で下ろす

    • いすは重いものを使いましょう

足の後ろ上げ(右10回、左10回で1セットとする)

立ち上がりや、歩行を楽に保ちます(対象:お尻の筋肉 大殿筋)

  • いすから30~40cm離れて立ち、上体を前に傾けながら、いすの背もたれを持つ
  • ひざを伸ばしたまま、片方の足を真後ろに上げていく

    • 背中が反らないように

転倒予防トレーニング

足の曲げ伸ばし

  • 両足をそろえて、ひざを伸ばして座る
  • 両手は後ろにつき、上体を支える
  • 背中を伸ばす
  • 両足首をしっかりと手前に曲げ、5秒間静止してから、外側にしっかり伸ばす
  • これを5~10回繰り返す

    • 足首を手前に反らすときには、かかとを持ち上げる気持ちで行うと効果的

四つんばい片足上げ

  • 両ひざと両手を床につけた四つんばいの姿勢から、片足ずつ、ひざを伸ばしながら持ち上げる
  • 上げた状態で3~5秒静止したら、ゆっくり元に戻す
  • 左右の足を交互に、5~10回行う

あおむけ片足上げ

  • ひざを立てて、あおむけに寝る
  • 片足ずつ、ひざを伸ばしながらゆっくり持ち上げる
  • 上げたまま5秒間止め、元に戻す
  • 片足ずつ5~10回行う

バランス強化体操(横歩幅の調整)

  • 両足を肩幅に開き、自然に立つ
  • 歩幅を開いたり、閉じたりしながら横に開く
  • この横歩きを往復3回行う

    • たたみのふちやフローリングの木目に沿って歩きましょう

出典:生活・福祉環境づくり21・日本応用老年学会編著『ジェロントロジー入門「生(いき)・活(いき)」知識検定試験 公式テキスト』2013年 社会保険出版社 p62,207,210 ※禁無断転載

(監修:早稲田大学スポーツ科学学術院教授 岡 浩一朗)

早稲田大学スポーツ科学学術院

岡浩一朗 教授

1999年、早稲田大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了、博士(人間科学)。早稲田大学人間科学部助手、日本学術振興会特別研究員(PD)、東京都老人総合研究所 介護予防緊急対策室主任などを経て、2006年4月より早稲田大学スポーツ科学学術院准教授、12年4月より現職。専門は健康行動科学、行動疫学。著書に『長生きしたければ座りすぎをやめなさい』(ダイヤモンド社)、『「座りすぎ」が寿命を縮める』(大修館書店)。

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取材・文/三木匡(クエストルーム) 撮影/柴田ひろあき イラスト/福井彩乃

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