2019/12/26

近年、科学技術への応用など世界から「おりがみ」に注目が集まっていることはご存じですか?また脳科学的にも、認知症予防に効果が期待できるいわゆる「脳トレ」のひとつとして、おりがみが取り上げられています。

そこで今回は、「東京おりがみミュージアム」を訪ね、日本折紙協会が発行する『月刊おりがみ』編集長 青木伸雄さんに取材してきました。

ところで、日本折紙協会はいつ頃できたのでしょうか?

「1969年に創設された日本折紙作家協会というおりがみ作家さんの集まりが前身で、発展的に解消後あらためて1973年に設立されました。ながらく千代田区五番町のマンションの一室だったんですが、2010年12月にここに移転してきまして、店舗型のミュージアムも併設しました。『東京おりがみミュージアム』では、おりがみや書籍の販売とともに、作品の展示やビルの2階では現在月に11講座のおりがみ教室も行っています」

「東京おりがみミュージアム」の店内。一枚の紙から折られているとは信じられないような作品や、楽しい演出・構成の作品が数々展示されていて、自分でもチャレンジしてみたくなる。

いまや折紙というと世界的に「Origami」で通じるぐらい、話題になることが多く、2014年に東京で開催された「第6回折紙科学・数学・教育国際学会」には世界30ヵ国から約300人が参加したそう。

「もともとおりがみは箱とか実用品というのかな、物を包むことなどから始まりました。ただ四角く包むだけじゃ面白くなくて、留めの工夫とか折り目がきれいだとか折った時に何かの形に見えるとか、いわゆる礼法から遊びに広まってきたわけですが、この学会はおりがみの学術的研究をテーマにした会合で、数年おきに実施されています」

2014年に300人規模で集まったというのは、近年の科学や数学分野からの注目もあってのこと。

「例えば人工衛星の太陽電池パネルを折りたたんで小さくするとか、折りたたむことで何かの問題を解決するというのがすごく興味深いところですよね。おりがみの開閉機能は、これからも工業製品にどんどん活用されるんじゃないでしょうか。もともと、タンスに衣服をしまうとか、折りたたむことは日本人の感性というか生活習慣にすっかり根付いています。そして、何度も折りたたんでも破れない丈夫な和紙もあった。おりがみが日本でこれだけ広まった、大きな要因ですね」

日本には「折り目正しい」や「折々」という表現があり、折るという言葉に、壊すというようなネガティブな意味だけでなく、多くのポジティブなニュアンスを含めます。

「今でも和紙を神事で使いますが、贈り物を包んだり、書くだけじゃない用途に日本人は紙を使いだした。おりがみは子どもの遊びではなく、大人のたしなみとしてまず発展したんです。おりがみ遊びにまで広がるのは、江戸時代以降とされています」

そして、おりがみが子どもの遊びだというイメージが定着したのは明治以降のことなのだとか。ドイツから、幼児教育学者フレーベルの教育論が輸入され、そのなかに「フレーベルの模様折り」というおりがみと似たものがあったそう。

「日本に幼稚園が入ってきたと同時に、そのフレーベルの模様折りも入ってきて、そのころから片面に色がついていて裏が白いという色紙(いろがみ)のおりがみが広まったんです。ですが、それまでは決して子どもの遊びではなくて、大人が和紙でたしなんだものだったんです」

そういう意味では、近年の「Origami」への世界的な注目は、原点回帰と言えるのかも?

「そうですね。でも、認知症対策に介護施設などでレクリエーションに取り入れる際に、そこでちょっと問題になるのが、高齢者の方が『おりがみなんて子どもの遊びをさせるのか』と怒ってしまうということもあるみたいなんです。もともと大人のたしなみなんですよということを、もっともっと啓蒙していかないと」

2016年には日本折紙協会の監修で、「ボケない!老けない!シニアのための絶対脳力を120%ひきだす折紙ドリル」(主婦の友社)という書籍も発刊されています。脳トレとしてのおりがみの可能性は?

「脳と手ってすごく直結していて、頭で考えれば何でも自由なんですけども、それを実現することっていうのはやっぱり手足を使うしかない。何か新しい形を作る、料理でも音楽を奏でるでも何でもいいですけど、頭で考えたことを実現するっていうのは主に手なんですね。ですから、脳への刺激という意味では、おりがみはすごく直結しているんだと思います」

きっちりと手本どおりにていねいに折れば、誰でも同じものが折れるという再現性の高さは、ほかの創作活動にはないおりがみの特徴。

「造形的なアートっていう面では、再現性が高いほど良い作品とされるおりがみは、本当に稀なもので特殊ですよね。一時期、おりがみは模倣教育と言われて冷遇された時代があるんですが、それは誤解です。同じ条件で同じ結果が得られるというのは実験と同じ。物事を順序だてて進めれば結果は必ずついてくることを学べる、手軽なモデルなんです」

ていねいにやれば必ず達成感を得られ、成功体験を感じられ、そして今や世界中の大人たちを夢中にさせているおりがみ。みなさんもあらためて、おりがみの魅力を見直してみませんか?

今回も最後に、手軽に挑戦できる青木編集長おすすめの2作品の折り方をご紹介します。ぜひトライしてみてください。

東京おりがみミュージアム

03-3625-1161

東京都墨田区本所1-31-5

9:30~17:30

ミュージアム、売店は昼休みの時間帯も営業しています

土・日曜を除く祝休(祝が日曜の場合は翌月曜休)、年末年始休

https://www.origami-noa.jp新規ウィンドウで開く

おりがみをデザインした人気のオリジナル商品「折紙干支(十二支)PINS」600円(税別)。折り方ガイド付き。

取材・文/三木匡(クエストルーム) 撮影/武井里香

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