2020/01/31

日本では、交通事故死亡者数の4倍も、住宅での「ヒートショック」で亡くなっていることをご存じでしょうか?交通事故年間死亡者数が4,663人※1に対し、ヒートショックによる年間死亡者数は17,000人※2と推定されています。

ヒートショックは、冬場に温かいリビングから風呂場やトイレに入った際に発生しやすく、急激な温度差により血圧が大きく変化して心筋梗塞や脳卒中を引き起こします。

こういったヒートショックによる死亡事故は、約9割※3を65歳以上の高齢者が占めています。

一方で、日本政府は「2020年までに標準的な新築住宅をZEH化する」という目標を掲げ、さまざまな補助金も用意されています。

「ZEH」(ゼッチ)とは「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス」のこと。

高断熱で省エネ性能が高く、太陽光発電といった創エネ機能をもった、正味のエネルギー消費量をゼロにする住宅のことを指すものです。

主に、経済性やCO2排出量の抑制という環境問題対策、災害時の備えにもなるものとして捉えられていますが、実は、ZEHの高い断熱性能は、住む人の健康にとっても大きな効果をもたらしてくれます。

室温の高い高齢者施設の入居者は、室温の低い施設の入居者に比べて「要介護度の進行」について2倍の「改善または維持」という調査結果※4が発表されていたり、断熱性の高い住宅に転居したあとに、アトピー性皮膚炎については59%の方が、気管支喘息については70%の方が改善を感じているというデータ※5もあります。

今回は、新年早々に富士山のふもとの街へ。旭化成ホームズが静岡市の社宅跡地を整備して、2017年10月から販売する大型分譲地「ヘーベルガーデン新富士『あしたの杜(もり)』」で、その名も「ロングライフZEH」と名付けられたZEH住宅を取材。同社の住宅総合技術研究所 主席研究員・柏原誠一さんにお話しを伺いました。

『あしたの杜』内のヘーベルハウスにて。家庭で使うエネルギーを見える化する「HEMS」(ホーム エネルギー マネジメント システム)はタブレット端末を採用。「よくある壁付けだと、結局あまり見なくなるんです。これはお風呂でテレビやインターネットも楽しめますよ」(柏原さん)

「当社では業界に先駆け1998年より、『ロングライフ住宅』というビジョンを掲げてきました。

2019年11月には建物の定期点検を60年間無償にする取り組みもスタートさせました。

ZEHを実現する上で大切な断熱性能についても、新築の時に高い性能を実現するだけでなく、その性能が長きにわたって続くか?という視点を重視して開発に取り組んでいます」

ZEHの省エネ性能は、断熱性能が高く、冷暖房効率が優れていることが大きなポイント。補助金を受けるためには、「UA(ユーエー)値」(外皮平均熱貫流率)という外壁・屋根・床の断熱性能と、「ηA(イータエー)値」(平均日射熱取得率)という室内に入り込む日射量の数値などに基準があります。

しかし、見えないところに施工される断熱材は、性能が劣化しても交換が容易ではありません。最近では、初期性能値はもちろん長期性能を評価する機運が高まっているのだとか。

「また、ヒートショックはもちろんですが、近年では家の中での暑さ対策も必須となってきています。

猛暑化傾向が年々増していますが、熱中症はその約40%が住居で発生しています(消防庁「平成30年(5月から9月)の熱中症による緊急搬送状況」)。

ヘーベルハウスでは、世界最高レベルの断熱性能を実現した旭化成独自の断熱材『ネオマフォーム』を採用しています。さらに、窓ガラスには、特殊金属膜をコーティングし、ガラスの間に熱の伝わりを約30%抑えるアルゴンガスを入れたものを標準仕様とすることで冷暖房効率をアップしています。

加えて、当社では独自開発した住環境シミュレーション『ARIOS』(アリオス)により、室内の風通しや部屋ごとの温度差を邸別にシミュレーションできるシステムも用意し、いつでも健やかに過ごせる住環境の提案を目指しています」

窓の仕様の違いによる断熱性能の差をサーモグラフィーを使って比較検証。「室温は同じでも、窓のそばの温度が全然違ってきます。空気だけ温めても、窓や壁が冷えたアンバランスな状態では快適には過ごせません」(柏原さん)。
健康な住環境のための工夫として、睡眠の質を向上させるというLED照明のコントロールも提案。自然の生体リズムに合わせ、5つのシーンを1台のコントローラーおよびスマートスピーカーで簡単に変更できる。(画像提供/旭化成ホームズ)

高断熱・高気密の住宅は、一方で熱がどんどん家にたまってオーバーヒートしやすいという弱点もあるのだそう。

旭化成ホームズでは、シミュレーションシステムにより日射熱により暑くなりすぎる可能性のある部屋を確認することもできる。窓の位置や通風、ひさしをつけるといった工夫で、一年を通して快適な住環境の実現を目指しているのだそう。

「ZEHにおいて、夏場については冷房効率がいいという程度で、あまりオーバーヒート(窓から室内に入った熱が逃げ場を失い室温が高くなる現象)のことは問われていません。せっかく四季が楽しめる日本ですから、自然と上手に付き合っていくという視点が必要になってきます。

このZEH住宅には吹き抜けを採用しています。サーモマイルドという温水・冷水を利用する放射パネルも併用しますが、この吹き抜けによってエアコンはリビングの1台だけで家中の暖房をまかなうことができます。

一方で、夏場は風を取り込むことと、吹き抜けを通じて家中を風が抜けるので、エアコンを切っても涼しく過ごすことができる設計になっています」

吹き抜けにより上下階に風が通り、1台のエアコンで効率的な空調を実現。1階、2階それぞれの中央部分に見えているのがサーモマイルドという放射パネルで、この中を温水・冷水が流れる。
外壁には、あえて風を受ける「袖壁」(点線で囲った部分)を設置することで大幅に室内への風の量が向上。袖壁がない場合と比較して1.5倍以上の風を引き込める。
洗面・浴室や洗濯・物干しは2階に。寝室、子ども部屋も2階にあり、脱ぐ・洗う・干す・たたむ・しまうはワンフロアで完結。また、狭小でも1階LDKを広くできる都市型の間取りとなっている。

ちなみに、最近の気密性の高い住宅では、ハウスダストや化学物質などが室内にこもる懸念も。

そこで夏場の通風による換気はもちろん、冬場であっても微粒子用フィルターを搭載した換気システムで外気を取り入れ、汚れた室内の空気を24時間排出し続け効率的に空気をきれいな状態に保つことも、住環境の健やかさにつながるものとして旭化成ホームズでは注力されている。

「室内の空気についてはさらに、天井に化学物質を吸着分解する建材を採用して、その表面に通気性や透湿性に優れているコットン由来の自然素材の壁紙を貼るエアクオリティ内装仕様も用意しています。こういった取り組みにより、シックハウス症候群につながるようなホルムアルデヒドなど、住宅性能表示制度で定められた5つの化学物質について、厚生労働省の指針値の1/2以下にすることを目指しています。実際に、この建物で測定してみたら1/4以下くらいに抑制できていました」

国土交通省では、2019年に「高齢期の健康で快適なくらしのための住まいの改修ガイドライン」を初めて策定、リフォーム、建て替え、住替えを訴求していますが、「シニアの方が健康住宅に建て替え、住み替えという具体例はまだまだ」と柏原さん。

「人生100年時代」を迎えた超長寿社会の日本。いつまでも生き生きと健やかなロングライフを実現するために、心身とともに“住まいと健康”にも目を配ってみませんか?

  • ※1東京都健康長寿医療センター研究調査(2011年)
  • ※2“犯罪被害者等施策に関する基礎資料”. 犯罪被害者白書、平成27年度版:交通事故発生状況の推移(平成22~26年). 警視庁.
  • ※3消費者庁「冬季に多発する高齢者の入浴中の事故にご注意ください!」(2017年1月25日)
  • ※4林 侑江・伊香賀 俊治・星 旦二・安藤 真太朗「多重ロジスティック回帰分析に基づく特別養護老人ホーム入居者の要介護度の変化と室内温熱環境の関連」(『空気調和・衛生工学会大会学術講演論文集(2016.9.14~16 鹿児島)第6巻』201~204ページ)
  • ※5伊香賀 俊治・江口 里佳・村上 周三・岩前 篤・星 旦二 他「健康維持がもたらす間接的便益(NEB)を考慮した住宅断熱の投資評価」(『日本建築学会環境系論文集』vol.76 NO666、2011.8)

ヘーベルガーデン新富士 あしたの杜

静岡市富士市中丸99-55

0120-255-122(インフォメーションセンター)

10:00~17:00

火・水曜定休

https://www.asahi-kasei.co.jp/hebel/area/shizuoka/ashitanomori/index.html/新規ウィンドウで開く

全棟でZEH基準を上回る街づくりを実施する、全99区画の大型分譲地『あしたの杜』。地域の防災拠点となる集会所の設置ほか、富士市と地域包括協定を結び産官民で取り組む防災機能は、「ジャパン・レジリエンス・アワード(強靭化大賞)2019」優秀賞を受賞した。

取材・文/三木匡(クエストルーム) 撮影/武井里香

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