秋葉原補聴器「リスニングラボ」を取材しました。 認知症予防に効果あり! 劇的に進化する補聴器最前線
2020/02/27
2017年、『国際アルツハイマー病協会会議』でのあるレポートが、認知症と難聴の関係で注目を集めました。イギリスの医学雑誌「ランセット」の国際委員会が発表したもので、そのレポートでは『認知症症例の約35%が9つの危険因子に起因する』とされ、なかでも中年期からの難聴をリスクが高い危険因子と指定したのです(Livingston G, et al. Lancet. 2017 Jul 19.)。
実は日本でも、2015年に厚生労働省が公表した「新オレンジプラン」(認知症施策推進総合戦略~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~)のなかで、「難聴が認知症の危険因子のひとつ」と指摘していました。難聴を予防すれば、認知症の進行を遅らせられるのではと期待されているのです。
そこで、今回は秋葉原のイヤホン専門店「e☆イヤホン」に併設されている秋葉原補聴器「リスニングラボ」に取材。若者を中心に、音楽好きが出入りするショップに併設されているだけあって、店名からしておよそこれまでの補聴器のイメージとは違った印象ですが、店内もビルの地下1階とは思えないリビングのようなくつろげる空間です。親子2代で補聴器店を営む代表の野田圭男さんは、「補聴器のネガティブなイメージを変えたかった」と言います。
「特に若い子が補聴器をするのは、抵抗があったと思います。それを見せられるようなデザインの補聴器など、もっとポジティブに補聴器と向き合えるようにできないかなというところから、あえて店名も『リスニングラボ』と横文字にしたんです」(野田さん)
2015年9月にオープンしたここ東京店が1号店で、現在は大阪にも梅田店・本町店の2店舗を構えます。梅田店も「e☆イヤホン」店内にありますが、補聴器専門スタッフの技能や設備を活用し、一人ひとりにあったインプレッション(耳型)を採取してオーダーするカスタムIEM(イン・イヤー・モニター)と呼ばれるこだわりのイヤホン製作部門と連携します。秋葉原店の店長、清水真人さんも実はもともと「e☆イヤホン」でカスタムIEM部門に所属していました。
「もともと私も音楽をやっていたんですが、よくアーティストの方たちがステージでカスタムIEMを使用していますよね。でも、将来的に補聴器の方が、より音楽をやっている人たちに寄りそえるのではないかと思い、もっと深いところまで取り組んでみようと2016年から『リスニングラボ』に移ったんです」(清水さん)
野田さんと清水さんは、お二人とも財団法人テクノエイド協会が認定する「認定補聴器技能者」の資格を取得しています。業界の自主認定制度ですが、取得には4年半ほどが必要で実務経験を伴う知識や技能が要求されます。
「業界では、100万円を超えるような補聴器を買ったけれど、全然使えないというようなことも起こっていました。お一人お一人、聞こえる音の範囲や生活環境も違いますから、詳しく調べて間違えた補聴器を渡さないようにする必要があります。それは価格なのか、性能なのか、見た目なのか…」(野田さん)
補聴器とうたっていても、実際には集音器に近いような音質調整のできない簡易的なものもあるのだそう。
「補聴器とは本来、厚労省に申請を出して認められた機器を指します。難聴者に効果があるよう、補正する周波数帯を調整できる機能などが求められます」(清水さん)
また、長期にわたって利用する補聴器は、つくったあとのアフターケアも必須。3ヵ月から半年に一度程度、メンテナンスを続ける必要があります。
「認知症は引きこもりによっても進行してしまいますので、補聴器のメンテナンスで定期的に外出して会話するというのも、予防の一つになるのかなと思います」(野田さん)
なお、新オレンジプランを受けて、2018年4月からは条件を満たせば高額な補聴器の購入に医療費控除が受けられるようにもなりました。補聴器相談医という専門医を受診して「補聴器適合に関する診療情報提供書(2018)」を作成、その書類を持参して補聴器を購入すれば、その年度の確定申告時に医療費控除が申請できます。
「ご家族に連れられてご来店されるお年寄りで、もう難聴がかなり進んでいて認知症予防としては手遅れということも結構あります。制度が整ったり、新オレンジプランが発表されたりしたことで、ご家族の方もご本人も、認知症にならないために補聴器に意識を向けてもらうことにつながるのではと期待しています。実際に、70代・80代の方で、ご自身で調べて来店くださる方も多くなりました」(野田さん)
「初めて来店された時は暗い表情でムスッとしていたシニアの方が、次に調整のためにいらした時にはすごく表情が明るく、気さくに話されるようになるということがよくあります。なかには、感激して泣きだす方もいらっしゃるんです。“こんなに変わるんだったら、もっと早く試せば良かった”と」(清水さん)
家庭や老人ホームなどで、会話のコミュニケーションが成立しないことで心を閉ざしてしまっていたシニアの方が、補聴器によって明るさを取り戻す、表情が変わるという事例を体感されているといいます。
「人の感覚器官で、最後まで残るのは聴覚だと言われています。意識不明になって倒れた方が、回復したあとに倒れている間に言われたことを覚えているということも、非常に多いそうです。だからこそ、聴力が弱ってしまうと生命力にも関わってくるのかなと感じます」(清水さん)
「実際にそんな経験をしたことがあります。お客様が集中治療室に入られて、ご家族の方から補聴器を着けてほしいとご希望がありました。心電図の警告音が鳴っているような状況だったのですが、着けてみたらご家族の呼びかけに反応されて。最後にコミュニケーションが取れてよかったと喜んでおられました」(野田さん)
一方で、補聴器自体の進化も目覚ましいのだそう。補聴器には、大別すると耳掛け型、耳穴型という2種類がありますが、主流は耳掛け型。
「市販のBluetoothイヤホンのように小型の充電タイプで、見た目的にもおしゃれになってきましたが、特に最近ではスマホ連携機能を重視するメーカーが多いです。スマホと接続して補聴器で電話に出たり、動画を見たり音楽を聞いたりできます」(清水さん)
「無線機器につないだテレビの音声を直接、補聴器に飛ばすこともできます。あと、すごいのはGPSと3Dセンサーを備えているAI補聴器というのがあります。もしもその補聴器を着けた方が転倒したら、AIがセンサーの情報から転倒を検出して、登録したご家族などにGPSの位置情報が連絡されるんです」(野田さん)
ほかにも、各社の音声アシスタント機能と連携したり、翻訳にまで対応する補聴器も登場。補聴するという身体能力を補うものから、もはや身体能力を拡張する存在になってきています。
「携帯電話の5G通信が普及すれば、どんどん利便性も進化していくと思います。これからは、ウエアラブルではなくてヒアラブルになると言われています。ウエアラブルだと目で見て確認して手で操作しないといけないですが、ヒアラブルだと音声認識だけで済んでしまう。補聴器の方が、一般の世界よりも先に進化していっていると感じますね」(野田さん)
こういった多様な通信機能は、耳の後ろに本体がある耳掛け型だからこそ。しかし、小さな耳穴型にもついに通信機能を持つものが登場し、耳穴型ならではの拡張性を見せ始めているのだとか。
「最新のものだと本体がチタン製で、3Dプリンターを用いて個人の耳型ぴったりにオーダーメイドできるようになっています。もうぱっと見では、補聴器を使っていることはわからないです。それでいて65~90時間はバッテリーがもちます。起きている間と考えると、5日間くらいですね」(清水さん)
「音楽を聞いたりしなければ、補聴器だけの機能ならかなり省電力で動くんです。さらに、耳の中にあるので、心拍数と脈拍、そして体温も測れるようになって、万歩計も備えていたりしますね」(野田さん)
スマートウォッチなどのウエアラブル機器でも、ヘルスケアデータの管理はひとつのトピックになっていますが、利便性やヘルスケアも含めた見守り機能まで、ヒアラブル機器である補聴器でもすでに実現されています。
「テクノロジーを否定せず、高齢者でも使いやすくより便利に進化していければと思っています。電話やテレビに接続する操作も本当に簡単ですし、カラフルな補聴器、逆に目立たない補聴器と、いろんなご提案ができます。難聴になって認知症へと進行してしまう前に、ぜひ補聴器を試して明るい生活を送っていただけたら、それが一番うれしいですね」(野田さん)
先の「ランセット」のレポートでの認知症の危険因子は、予防できる可能性があるリスク要因として報告されているものでもあります。購入をサポートする制度と環境、補聴器自体の機能やイメージがまさに劇的に改善されていっている今、いつまでも明るく笑顔で日々を過ごすために、試してみる価値はありそうです。
秋葉原補聴器「リスニングラボ東京店」
東京都千代田区外神田4-6-7
カンダエイトビルB1F
フリーダイヤル0800-777-3341 ・ FAX03-5298-5572
11:00~19:00(予約制)
月・火定休(祝日の場合は営業し祝翌日休)
「リスニングラボ大阪梅田EST店」
「リスニングラボ大阪本町店」
取材・文/三木匡(クエストルーム) 撮影/柴田ひろあき
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