米国株式市場の行方は?

2023年の米国市場は主要な株価指数や業種ごとの騰落率の格差が目立ちました。上昇をけん引したのは大型ハイテク株であり、その原動力は「生成AI(人工知能)市場への成長期待」です。生成AIは学習した大量のデータを基に人間が行うような文章、画像の作成が可能です。米国のオープンAI社が2022年11月に公開したChatGPT(チャットGPT)は、話し言葉を使い質問や指示を入力するだけで自然な文章の回答を得られるため、全世界で利用者が急増しました。2023年1月、マイクロソフトが同社への「今後数年、数十億ドル」の追加投資を表明、2月には同AIを搭載した検索エンジンを発表すると、米国市場は生成AI相場の様相を強めました。さらに、生成AIブームを一段と加速させたのが、米国の半導体大手であるエヌビディアが5月に発表した四半期決算でした。同社のGPU(画像処理半導体)の需要が急増し、5-7月期の売上高見通しが市場予想を5割以上上回るなど、市場参加者に生成AI関連投資の急拡大を確信させました。
業種別の騰落率をみると「ハイテク3業種」、情報技術(エヌビディア、マイクロソフト、アップル)、コミュニケーション(メタ・プラットフォームズ、アルファベット)、一般消費財(テスラ、アマゾン・ドット・コム)の上げが突出しています。資本財など他の業種は年末にかけて長期金利の低下や景気減速懸念の後退で見直されましたが、10月時点では多くがマイナス圏で推移していました。株価指数の年間騰落率は、NYダウが+14%、S&P500が+24%、ナスダック総合が+42%とハイテク株の比率が大きいほど高くなりました。景気敏感株やヘルスケア株の比率が高いNYダウは10月末時点では年間でマイナスとなっていました。一方、エヌビディア株は年間で約3.4倍となり、主要な半導体関連30銘柄からなるSOX(フィラデルフィア半導体株指数)は+65%とナスダック総合指数を大幅に上回りました。
2024年の米国株式は、もみ合う展開で始まりました。昨年末にかけて、利下げ観測の高まりを背景に米国経済の軟着陸(景気後退を回避しつつ、インフレが沈静化)シナリオが大勢となりました。ただし、市場が年間で1.25~1.5%程度の利下げを織り込む一方、FRBの見通しは0.75%と乖離が大きいこと、足元の景気は底堅いものの、利上げの累積効果やコロナ禍での過剰貯蓄の払底など先行きの消費への懸念もあることなど、「軟着陸」が実現するか不透明感が残ります。景気指標の悪化、物価指標の反発、FRB高官の発言などから、同シナリオが揺らぐ場面もありそうです。
一方、年初からエヌビディア株の上昇が続くなど、生成AI市場の成長期待は続きそうです。しかし、足元、銘柄間や業態間では跛行色※が強まっています。昨年はハイテク株は「何でもかんでもAI関連」といった時期が一時的にありましたが、足元では、実際の業績にAI投資やAI導入が寄与するのか、選別の目が厳しくなっています。クラウド関連サービスなどAIによる付加価値により業績が伸びる企業の株価は底堅い一方、アップルやテスラは「AIの中核銘柄」とされつつも、スマホやEVの売上が伸び悩む中、株価は冴えない動きとなっています。また、エヌビディアはAI投資の拡大により同社の半導体需要の伸びが見込まれますが、同業のAMD(アドバンスト・マイクロ・デバイセズ)などの追い上げや他の大手ハイテク企業で半導体を「内製化」する動きもあり、同社の一人勝ちが続くのか、注目されます。
※「上昇している銘柄もあれば、下落している銘柄も目につき、全体としては、ちぐはぐな動きが目立つ相場の状況」を指す
懸念材料としては、生成AIによるサイバー犯罪やフェイク・ニュースの氾濫など、悪用への懸念は一段と高まっている点です。2024年は11月の米大統領選挙をはじめ、各国で国政選挙が続きます。EU(欧州連合)は昨年12月、AIの包括的な規制案に大筋合意したと発表しました。2026年ごろの適用開始を見込み、それまでは関連企業に自主ルールの順守を求める方針ですが、AIによる選挙介入などが顕著になれば、規制を前倒したり、強化したりする動きも出そうです。また、生成AIにはもう1つの問題、「AIの学習のために既存のメディアの記事を無断利用(『ただ乗り』)している」との批判があります。米紙ニューヨーク・タイムズは昨年12月、同社記事をAI学習に無断で利用したとしてオープンAIと同社に出資するマイクロソフトを米連邦地方裁判所に提訴しました。こうした問題は、株式市場ではまだ特段懸念されていませんが、行方を注視したほうが良さそうです。
(2022年12月末~2023年12月末)

(2023年1月3日~2023年12月29日、日次)
※2022年末=100

(出所)Bloombergのデータを基に三井住友トラスト・アセットマネジメント作成
<作成:三井住友トラスト・アセットマネジメント>