「ESG投資」について、どのようなイメージをお持ちでしょうか? ESGとはEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の頭文字を合わせた略語です。ESG投資とは財務諸表から得られる定量的なデータだけでなく、企業による環境保護、人権、多様性、ガバナンスの強化などへの取り組みを重視した投資です。

ESG投資はもともと、気候変動問題への関心が高かった欧州で先行しましたが、米国でも温暖化対策に積極的なバイデン政権のもとで残高が伸びました。しかし、ここ1、2年は「逆風」が吹いています。

要因の1つ目は、ESGの定義にかかわる問題、「グリーンウォッシュ(見せかけだけの環境対応)」です。投信などファンド名に「ESG」が付くものの、実際の銘柄選択においてESG要素に明確な判断基準が設定されていない、いわば「名ばかりの」ESGファンドが横行しているとの批判が高まりました。日本でも金融庁が2023年3月にESGファンドの監督指針を適用し、「(銘柄選択で)ESGが決定的に重要な要素となっていること」が要件となりました。見せかけファンドが淘汰される一方、要件の厳格化で新たなファンドを出しづらくなった面もあり、残高の減少につながりました。

2つ目は、運用成績の問題です。2022年はウクライナ戦争の勃発で原油価格が高騰しましたが、化石燃料を敬遠し、環境関連銘柄に軸足を置いていたESGファンドの多くは相対的なパフォーマンスが劣後しました。

また、3つ目として昨今のESG投資の「政治問題化」が挙げられます。ウクライナ戦争を契機に「脱炭素」と「エネルギー安全保障」の両立という難問が浮上したことに加え、米国では共和党・保守層が反ESGの機運を強めています。2023年5月にはフロリダ州で、ESG要素を投資に組み込まないことを求める「反ESG法」が成立しました。直近でも、米下院の司法委員会が6月11日、大手の金融機関や投資家が気候変動対策等で結託することは反トラスト法(独禁法)に抵触するとの報告書を提出しました。企業との取引・交渉、株主議決権行使など通じ、企業に過度な脱炭素化を強要した結果、石油・航空産業や農業に打撃を与え、インフレを加速させ、米国の経済、消費者の利益を損ねているとの主張です。

さて、今後のESG投資の行方はどうなるのでしょうか?米国における化石燃料使用と脱炭素(E)の論点はもはや「政治的な分断」の象徴と化しているため、欧州など他の地域とは切り離して考えたほうが良さそうです。また、企業の持続性(サステナビリティ)の観点では、資源循環や自然資本の維持・向上(E)のみならず、社会的な責任(S)、ガバナンス(G)を重視する流れは中・長期的に変わりそうにありません。運用現場においても、ESGファンドだけでなく、ESG要素の考慮は銘柄選択の場面であまねく行われているとの話をよく耳にします。また、機関投資家においても、当初のようにESG評価に基づいて企業の方針に一律に反対するだけでなく、建設的な対話を通じて企業に対し実効性のあるESG対応を求めるといった動きが広まっている模様です。

金融庁は今年1月、ESG投信やグリーンボンド(環境債)の普及に向けて、運用会社や企業、投資家が課題などを話し合う協議会を立ち上げました。金融庁はこうした分野への個人の投資が進んでいない点を問題視するだけではなく、日本が低炭素社会に移行するには企業へのトランジションファイナンスが必要と考えていると思われます。ESG投資は一時のブームが去ったように見えるかもしれませんが、そのコンセプトからも個人投資家の長期・積み立ての対象に適しており、今後はより魅力的な商品の提供が進むものと期待されます。

脱炭素化の実現へ向け、低環境負荷型に移行(トランジション)する取り組みを行う企業に対し、資金を供給する金融手法(ファイナンス)

<作成:三井住友トラスト・アセットマネジメント>

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