日本の公的年金の現況は?

厚生労働省は7月3日、公的年金制度の中長期的な見通しを示す「財政検証」の結果を公表しました。
財政検証は言わば同制度の「健康診断」であり、5年毎に実施され、制度の持続可能性を点検する一方、検証結果を受けて政府・与党が改善策を取りまとめることとなります。
日本の公的年金は、20歳から60歳未満の全ての国民が加入する「国民年金(基礎年金)」と、会社員などが加入する「厚生年金」があります。一時期には、学生や若年層の労働者による国民年金の「未納問題」が話題となりました。未払いの理由は、所得が少なくて保険料を払う余裕がないケースに加えて、少子高齢化が進む中、制度存続への不安やいわゆる「払い損」※への懸念があるようです。
※自分が払った保険料に見合うだけの給付を将来受けられないこと
日本の公的年金は「現役世代から集めた保険料をそのときの高齢者に年金として支給する」ものであり、「賦課方式」と呼ばれます。この仕組みは「世代間扶養」と説明されるのですが、「少子化によって払う人よりもらう人が多くなる」という受け止めが不安・懸念につながっているようです。しかし、公的年金の主たる財源は保険料収入だけではなく、国庫負担金や年金積立金があります。ちなみに2024年3月に公表された2022年度の収支は、収入総額54.6兆円(保険料収入:40.7兆円、国庫負担金:13.4兆円ほか)に対し、支出総額は53.7兆円(年金給付額:53.4兆円ほか)となり、0.9兆円のプラスです。積立金は年間の運用損益(時価ベース)が3.5兆円のプラスとなり、年度末時点で前年比+4.4兆円の250兆円余りとなっています。こうした具体的な数字を見ると、制度の破綻がそう簡単に起こりようがないことは明らかでしょう。一方、「払い損」の問題はどうでしょうか?保険料と給付のバランスで見れば、若い世代の負担が相対的に大きいことは否めませんが、平均的に長生きしたとすれば元本ベースで見た場合、給付総額が保険料総額を上回ると考えて良さそうです。逆に年金を未納した場合(将来、給付を受けられない)、国庫負担金は税金でまかなわれることから、それこそ税金の「払い損」と言えます。
将来、年金が何万円もらえるのか関心がありますが、物価や賃金の上昇などの影響もあり、名目金額では実際の年金の「価値」がわかりにくいものです。このため、年金の給付水準の高低を示す指標として、「所得代替率」が用いられます。所得代替率とは、給付開始時点(65歳)で年金額が現役世代男性の平均手取り収入の何%にあたるか、というものです。2024年度のモデルケース(夫と専業主婦)では、年金が合計で月額22.6万円、現役男性の手取り収入が月額37万円で、所得代替率は61.2%となっています。残念ながら、少子高齢化の進行を背景に当面は所得代替率の低下が続く見込みです。今般の「財政検証」では幅広い複数の経済前提によるシミュレーションが実施されましたが、中長期的に一定の経済成長が続くケースにおいても2037年度には所得代替率が57.6%まで低下する予想となっています。
公的年金に対して過度な不信感を持つことは早計ですが、公的年金だけで老後が安泰というわけにもいかないようです。やはり、老後の資産形成に適したDCの活用はもちろん、NISAなどの制度を通じた資産形成を考えていくことが必要と思われます。
<作成:三井住友トラスト・アセットマネジメント>