法改正で2015年から基礎控除額が引き下げられたことに伴い、一般的な給与所得者世帯でも相続税がかかるケースが増えています。民法では、相続人となる順位が決まっているため、誰でも亡くなった方の財産を自由に相続できるわけではありません。なかには、財産を子どもや家族にどのように残せばよいか悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

亡くなった方(被相続人)の財産をその子どもや親族など特定の方(相続人)が引き継ぐことを相続と呼びます。本稿では、民法に定める法定相続人とは何か、法定相続人の範囲とその順位について解説しつつ、相続におけるさまざまな対応方法や遺言書作成のメリットも紹介します。

財産を残す3つの方法

財産を相続する方法には、「法定相続」「遺産分割協議」「遺言書」の3つがあります。

財産を相続する方法 内容
法定相続 民法に定められた法定相続人に法律通りの割合で財産を分与する方法
遺産分割協議書 法定相続人全員で誰がどれくらい相続するのかを決める方法
遺言書 亡くなった方が遺言書で財産を誰が相続するのかを決める方法

法定相続と遺産分割協議の場合、亡くなった方の「このように自分の財産を残してあげたい」という想いを込めることはできません。しかし、遺言書で相続する方法であれば、亡くなった方の意向を尊重した財産の残し方が可能です。遺言書の場合は、遺言書の記載内容に従って財産を引き継ぐことになります。

一方で、遺言書がない場合は、法定相続人同士で誰がどのように財産を引き継ぐのかを決めることが必要です。その際に、亡くなった方の財産がどれくらいあるのかわからなければ、遺産分割はできません。そのため、遺言書がない場合は、以下の流れで遺産分割の手続きを進めていきます。

相続の一般的な流れ

  • 1.
    遺言書がないかを確認する
    遺言書があれば遺言書の通りに財産を分けますが、相続人の全員が同意すれば、遺言書ではなく法定相続や遺産分割協議で分けることも可能です。
  • 2.
    財産を調べる
    亡くなった方の財産を調べて財産目録を作成します。財産には債務も含まれ、借入金だけではなく、借入金の保証人となっている場合の保証債務も相続することになるため、注意が必要です。亡くなった方の財産は、慎重に調べましょう。
  • 3.
    法定相続人を確定させる
    亡くなった方が生まれたときから亡くなったときまでの戸籍謄本などを入手して、法定相続人の範囲を確認し、法定相続人を確定させます。
  • 4.
    法定相続か分割協議により相続するかなどの分割割合を決める
    民法で定められた法定相続で分割するか、法定相続人で話し合って分割割合を決めるかなど、法定相続人全員で話し合いにより決めていきます。
  • 5.
    遺産分割協議書を作成する
    法定相続人全員で遺産分割協議を行わなければなりません。預金などを払い出す場合も法定相続人全員の同意が原則として必要となります。そのため、法定相続による場合でも後でトラブルにならないように遺産分割協議書を作成するのが一般的です。ただし、家庭裁判所の判断、もしくは判断を経ずに払い戻しできる場合もあります。こちらは一定の条件があるので注意が必要です。
  • 6.
    遺産を分割する手続きを行う
    遺産分協議書に沿って、亡くなった方の財産を分割する手続きをしていきます。例えば、預金や有価証券なら銀行や証券会社、不動産なら法務局での手続きが必要です。

法定相続とは?遺言書がない場合の民法に定める法定相続人について解説

法定相続は民法に定める相続人の範囲や順位などで決められた相続割合で、亡くなった方の財産を引き継ぐことです。ここでは、民法に定める相続人の順位や相続割合など、相続の基本事項を中心に解説します。

法定相続とは?民法に定める相続人の範囲と相続人の順位

民法には、相続人になれる人の範囲と相続人になる順位が定められており、民法で定められた「相続する権利がある人」を法定相続人と呼びます。亡くなった方の配偶者は、常に法定相続人となることが前提です。また、亡くなった方の血族には相続人となれる順位の定めがあり、配偶者がいない場合は上位の順位の相続人が遺産を引き継ぐことになります。

  • 1.
    配偶者
    亡くなった方の配偶者は、常に相続人となります。しかし、事実婚は含まれません。
  • 2.
    配偶者以外の順位
    相続順位 相続人
    第1順位(直系卑属)
    • 亡くなった方の子ども
    • 子どもが亡くなった方よりも前に亡くなっている場合は孫(代襲相続人)
    第2順位(直系尊属)
    • 亡くなった方に子どもや孫がいない場合は父母
    • 父母が亡くなった方よりも前に亡くなっている場合には祖父母
    第3順位(傍系血族)
    • 亡くなった方に子どもや孫などの直系卑属や父母・祖父母などの直系尊属がいない場合は兄弟姉妹
    • 兄弟姉妹が亡くなった方よりも前に亡くなっている場合は、おい・めい(代襲相続人)

亡くなった方が離婚していて前妻に子どもがいる場合は、前妻の子どもも第1順位の法定相続人となるため、注意が必要です。

法定相続分は相続人の範囲と人数で決まる

法定相続分とは、法定相続人が相続する割合を指し、相続割合は相続人の範囲と人数で決まります。子ども、直系尊属、兄弟姉妹などの同順位の者がそれぞれ複数いる場合は、その人数で均等に分けるのが原則です。法定相続分は、民法で定める遺産の取り分ですが、法定相続人全員の合意が得られれば、遺産分割協議書で相続する割合を自由に決めることができます。

そのため、必ず法定相続分で遺産を分けなければいけないわけではありません。法定相続分についてケースごとにその割合を見ていきましょう。

相続人が配偶者と子どもの場合

【配偶者:2分の1 子ども:全員で2分の1】
例えば、相続人が配偶者と子どもが3人の場合の法定相続分は、配偶者が2分の1、子どもがそれぞれに6分の1(2分の1×3分の1)です。

相続人が配偶者と直系尊属の場合

【配偶者:3分の2 直系尊属が全員で3分の1】
例えば、相続人が配偶者、亡くなった方の父と母の場合の法定相続分は、配偶者が3分の2、父と母がそれぞれに6分の1(3分の1×2分の1)です。

相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合

【配偶者:4分の3 兄弟姉妹が全員で4分の1】
例えば、相続人が配偶者と亡くなった方の兄と妹の場合の法定相続分は、配偶者が4分の3、兄と妹がそれぞれに8分の1(4分の1×2分の1)です。

相続人を調べる方法

相続が発生した際に遺言書がある場合は、遺言書の内容に従って財産を分割します。遺言書がない場合は、亡くなった方の財産確認後、まずは誰が相続人かを確定させなければなりません。相続人が誰かを調べるには、亡くなった日以降の戸籍謄本を取得しましょう。なお、離婚歴がある場合は、前妻との子どもも法定相続人となります。

そのため、法定相続人が誰であるかを確認するためには、亡くなった方が生まれたところまでさかのぼって戸籍謄本を入手しなければなりません。亡くなった日以降の戸籍謄本を入手したら、結婚や転居により本籍地が転籍していないかを調べます。

戸籍謄本には、本籍がどこから移転してきたのかが記載されているため、本籍が移転している場合、移転してきた前の本籍地の市区町村で戸籍謄本を取得しましょう。本籍地が何度も転籍されている場合は、一つ一つさかのぼって戸籍謄本を取得します。最終的には、亡くなった方が生まれたときから死亡時まで連続した戸籍謄本が必要です。

相続人であれば、郵送で戸籍謄本を入手することもできます。通常取得できる戸籍謄本ではなく改正原戸籍が必要となるケースもあるため、各市区町村へ相続の手続きで必要になることを説明し、請求方法、費用の支払い方法、必要書類などを問い合わせるようにしましょう。

相続に関するさまざまなケースと対応方法

相続が「争族」などと呼ばれるように、さまざまなケースが発生し、トラブルの原因となることも少なくありません。ここでは、相続の際に知っておきたい遺留分や相続放棄など相続に関するさまざまなケースや対応方法などを紹介します。

相続放棄とは?

相続放棄とは、相続が発生した際に資産や負債などの権利や義務の一切を引き継がない手続きです。相続により亡くなった方の財産を引き継ぐ場合、現預金や不動産、株式や債券といった金融資産だけではなく、借金や保証債務といった負債も引き継ぐことになります。プラスとなる財産よりも負債が多いケースでは、相続放棄も検討しなければなりません。

ただし、相続放棄したい場合は、相続権があることを知った日から3ヵ月以内に、亡くなった方の住所地を管轄する家庭裁判所へ相続放棄の申述が必要です。法定相続人が相続放棄すると、その相続人は初めから相続人ではなかったとみなされます。亡くなった方の債務がどのくらいあるかわからない場合には、相続で得た財産の限度で亡くなった方の債務を引き継ぐ「限定承認」と呼ばれる方法もあります。

限定承認も相続放棄と同様に相続権があることを知った日から3ヵ月以内に亡くなった方の住所地を管轄する家庭裁判所へ申述が必要となるため、慎重に判断しなければなりません。相続が発生したら、まずは遺言書の有無と資産や負債などの財産の状況をしっかりと調べてください。

遺留分とは?

遺留分とは、法定相続人に最低限保障される遺産の取り分です。遺留分が認められるのは、配偶者、子どもや孫などの直系卑属、父母や祖父母などの直系尊属で兄弟姉妹には認められていません。遺言書などで財産がまったく相続できない場合など、法定相続人が遺留分を侵害された場合に最低限の取り分を回復する権利を遺留分侵害額請求権と呼びます。

2019年7月の民法改正前までは、遺留分減殺(げんさい)請求権と呼ばれており、遺留分を請求された相続人は、相続財産の中から金銭だけではなく不動産や株式などで渡すこともできました。法改正後は、遺留分侵害額請求権へと変更され、金銭での支払いに一本化されています。

例えば、事業で使用している不動産や経営会社の株式を相続した場合、遺留分侵害額請求権を行使されると多額の現金による支払いが必要です。相続対策としては、相続税の支払いに加え、遺留分侵害額を請求されたときのための現金を確保しておく必要があることに注意しなければなりません。

遺留分の割合は、民法により次のように定められています。

  • 直系尊属のみが相続人の場合は相続財産の3分の1
  • それ以外の場合は相続財産の2分の1

例えば、配偶者と子ども1名が法定相続人となる場合は、それぞれの相続財産の割合は2分の1ずつです。法定相続分2分の1に遺留分の2分の1が乗じられるため、遺留分は4分の1となります。原則遺留分の割合は、相続財産の2分の1となりますが、相続人が父母など直系尊属だけの場合のみ相続財産の3分の1となるため注意が必要です。

法定相続人に未成年者がいる場合は?

未成年者が法定相続人となる場合は、代理人が必要です。未成年者の場合は、通常親が法定代理人となります。しかし、親も法定相続人となる場合は利害関係があるため、親は未成年者の子どもの代理人にはなれません。そのため、親と未成年の子どもがともに法定相続人となる場合、相続人全員で遺産分割協議を行ったとしても、子どもに不利益が生じる可能性があります。

このような利益相反行為に該当する場合は、家庭裁判所で特別代理人選任の申し立て行い、代理人を選任してもらわなければなりません。特別代理人は、未成年者に代わって遺産分割協議書などの記入・捺印をするなど、家庭裁判所の審判であらかじめ決められた行為の範囲内で代理権を行使します。

未成年者が結婚しているなどで、成人とみなされるケースは別ですが、法定相続人に未成年者がいる場合は注意しましょう。

法定相続人がすでに亡くなっている場合は?

亡くなった方(A)の子ども(B)が相続の開始より前に亡くなっている場合は、その者(B)の子ども(亡くなった方の孫)が代襲相続人となります。この場合、子ども(B)は第1順位の法定相続人となりますが、亡くなっているため財産を引き継ぐことができません。そのため、子ども(B)の子どもが代襲相続人となり、亡くなった方の財産を引き継ぐことになるのです。

代襲相続人も亡くなっている場合は、亡くなった方のひ孫がさらに代襲相続人となり、相続人としての権利を引き継ぎます。直系卑属は、孫やひ孫であっても第1順位の法定相続人となるため、第2順位や第3順位の法定相続人に相続の権利が移ることはありません。亡くなった方に子どもや孫などの直系卑属や父母・祖父母などの直系尊属がいない場合は、亡くなった方の兄弟姉妹が相続人となります。

亡くなった方よりも兄弟姉妹が先に亡くなっている場合の代襲相続人は、おい・めいです。ただし、傍系血族の場合は1代に限り代襲相続人が認められているため、代襲相続人となるおい・めいが亡くなっていたとしても、その子どもは代襲相続人とはなりません。また、相続放棄をした者は最初から相続人ではなかったとみなされます。

そのため、代襲相続として相続放棄をした者の子どもに相続権が移ることはありません。さらに、代襲相続は子どもや兄弟姉妹のみが対象となり、配偶者や直系尊属についても代襲相続の対象外となります。

遺言書作成のメリット

ここでは、遺言書を作成したほうがよいケースを紹介し、遺言書作成のメリットについて解説します。

こんなときには遺言書の作成を

遺言書を作成したほうがよいケースには、以下のようなものがあります。

  • 子どもがいないため、全財産を配偶者に引き継ぎたい
  • 身の回りの世話を普段してくれている子どもに財産を多く残したい
  • 子どもたちに相続手続きでわずらわせたくない
  • 事業の後継者となる長男に事業で利用している不動産を引き継がせたい
  • かわいがっているおい・めい、介護をしてくれた長男の配偶者にも財産を分けたい
  • 社会福祉施設に寄付(遺贈)したい

上記いずれの場合も、法定相続人にならない者や法定相続分を超えて財産を残したいなど、民法の法定相続の規定とは異なる亡くなった方の思い入れを尊重した財産の残し方が該当します。遺言書は、亡くなった方の意思を尊重した相続といえるでしょう。

遺言書作成のメリット

遺言書作成のメリットには、主に以下の3つがあります。

  • 1.
    亡くなった方の意向に沿った相続が可能
    遺言書を作成すれば、日ごろから感謝していて財産を残してあげたい人へ財産を残すことが可能です。事業の後継者となる子どもに事業用の資産を残すことも、日ごろから世話をしてくれた近くに住む子どもに財産を多く残すこともできます。
  • 2.
    相続人間のトラブルを回避できる

    遺言書がない場合は、相続人が法定相続もしくは遺産分割協議で遺産の分割をしていくことが必要です。そのため、相続人同士で反対意見があるとトラブルに発展するおそれがあります。法定相続でも子どもの権利は平等となり、日ごろから世話をしていた子どもの労に報いるような財産の残し方はできないため、相続人同士での争いになるケースは少なくありません。

    相続割合や金額で意見に食い違いがあると遺産分割はできません。しかし、遺言書があればスムーズに相続の手続きを進むことが期待できます。相続の手続きで子どもたちにわずらわしい思いをさせる可能性も低くなるでしょう。亡くなった方の意思を尊重した相続が可能となり、納得感も得られやすく、相続人間のトラブルの回避にもつながります。

  • 3.
    法定相続人以外の人にも財産が残せる
    遺言書を作成すれば、法定相続人以外の人にも財産を残すことが可能です。社会貢献活動団体や研究施設に寄付をしたり、日ごろから感謝している人へのお礼をしたりすることもできます。

想いを込めた遺言書を作成してその想いを実現するには

財産の評価や相続税額、財産の分割方法や遺言の執行者など、遺言書を作成するときに考えておくべきことは多岐にわたります。相続税の計算や、遺言書に備えるべき事項、書き方や内容、遺言執行者など、遺言書を作成する場合には、専門家に相談することも大切です。遺言書は、何度でも書き直しができるため、財産の状況に応じて内容を見直しすることもあるでしょう。

財産を大切な人に残すためにも、想いを込めた遺言書を作成してその想いを実現したいものです。例えば、遺言信託を活用すれば、亡くなった方の思いを確実に実現することができます。相続税や財産評価や、遺言書作成のアドバイスや法律相談、公正証書遺言の作成やアフタフォローから確実な遺言の執行まで、安心して専門家に任せられる遺言信託を選択肢の一つに加えてみてはいかがでしょうか。

執筆者紹介

加治 直樹(かじ なおき)

1級ファイナンシャル・プランニング技能士、社会保険労務士

銀行にて20年以上勤務したのち、かじ社会保険労務士事務所として独立。銀行員時代は、不動産融資、資産運用、年金相談等幅広く業務を経験。現在は、労働基準監督署で企業や個人の労務相談を受ける傍ら、金融・保険・住宅ローン等をテーマにしたセミナーを開催している。

相続・贈与に関するお悩みは
お近くの店舗・オンラインで無料でご相談いただけます。

三井住友信託銀行では、高い専門性と豊かな経験をもった財務コンサルタントなどの専門スタッフがじっくりお客さまのご相談を承ります。
店舗でのご相談はもちろん、オンライン相談も可能です。オンライン相談であれば遠隔地にお住まいの親御様やお子様もご一緒に相談いただけます。
まずはお気軽にお問い合わせください。

ページ最上部へ戻る