遺言執行者とは?役割や仕組み・流れについて解説

遺言書では、多くの場合、遺言執行者を指定します。しかし、一般の方が遺言執行者に指定されたとしても相続の手続きに慣れていないケースが多いため、戸惑ってしまうでしょう。相続の手続きは、複雑で専門的な知識を必要とすることも多くあります。また、取引している金融機関が多いと、相続手続きだけでかなりの労力がかかります。本コラムでは、遺言執行者について解説、遺言信託の仕組みや流れもご紹介します。
遺言執行者とは何をする人?
多くの場合、遺言執行者は遺言書で指定します。遺言執行者の役割について見ていきましょう。
遺言執行者の役割とは?
遺言執行者の役割は、遺言をスムーズに執行することです。遺言執行者には、相続財産の管理や遺言の執行に必要なすべての行為をする権利と義務があります。相続人は、遺言執行者が遺言を執行することを妨げることができません。
遺言執行者に指定されたとしても、承諾するかどうかは自分で決めることができます。しかし、遺言執行者になることを承諾した場合、その責任は重大です。責任を持って相続財産を管理し、遺言書の内容を執行しなければなりません。
また、遺言執行者には、任務開始時に遺言の内容を相続人に通知したり、相続財産の目録を作成して相続人に交付したりするなどの義務もあります。
遺言に遺言執行者が選任されていないときは?
遺言執行者は、必ず遺言書で選任しなければならないわけではありません。なかには、遺言執行者が選任されていないケースもあります。遺言執行者が指定されていなかったり、指定された遺言執行者がすでに亡くなっていたりするときには、家庭裁判所で遺言執行者を選任してもらうことができることも知っておきましょう。
相続人や遺贈を受けた者、遺言者の債権者などの利害関係人は、以下の書類を家庭裁判所へ提出し、遺言執行者選任の申し立てをすることが可能です。家事審判申立書には、希望する執行者を記載することもできます。
- 申し立てに必要な書類
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- 家事審判申立書
- 遺言者の死亡の事実がわかる戸籍謄本や、除籍謄本、改製原戸籍、全部事項証明書など(遺言書の検認から5年間は不要)
- 遺言執行者候補者の住民票、または戸籍の附票
- 遺言書の写し、または遺言書の検認調書謄本の写し(遺言書の検認後5年間は不要)
- 戸籍謄本など利害関係があることを証明する書類
遺言信託なら遺言の執行まで安心して任せられる
遺言書の種類や特徴を理解し、遺言信託の仕組みと流れについても解説します。
遺言書の種類と特徴
遺言書には、以下の3つの種類があります。
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
ここでは、それぞれの特徴を見ていきましょう。
- 1.自筆証書遺言
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自筆証書遺言は、本人が遺言書の本文と日付を自筆で記載し、氏名を自署し押印する形式の遺言書です。15歳以上であれば、自分の意思で自由に作成でき、費用もかかりません。しかし、遺言者が自分で管理・保存する必要があり、紛失や偽造のリスクがあるため、注意が必要です。
財産目録は、自筆でなくてもパソコンなどで作成できますが、遺言書の本文や日付、氏名は自筆で記載する必要があります。法律上の要件を満たさない場合は、無効となるおそれがあるため、慎重に作成しなければなりません。
なお、自筆証書遺言書保管制度を利用すれば、法務局で自筆証書遺言を有料(3,900円(非課税))で預かってもらうことも可能です。
また遺言者が亡くなった後、遺言書を保管している者や遺言書を発見した相続人は、家庭裁判所に遺言書を提出して検認を受ける必要があります。検認とは、遺言書の有効性を証明する手続きではなく、裁判所が遺言書の内容を確認し、遺言書に偽造や変造がないことを確認する手続きです。
遺言書を裁判所に提出すると、裁判所は相続人に検認の日を通知します。封印された遺言書は、家庭裁判所で相続人立ち会いのもと開封する流れです。なお、公正証書遺言や法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用した自筆証書遺言は検認の対象外となることも覚えておきましょう。
- 2.公正証書遺言
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公正証書遺言は、法律の専門家である公証人が2人以上の証人立ち会いのもとで作成する形式の遺言書です。公証人のアドバイスのもと作成し、原本を公証人が保管するため、最も信頼性の高い遺言書といえるでしょう。しかし、作成には財産価額に応じた手数料が必要になります。
自筆証書遺言と異なり、公証人が本人の意向を聞き取りながら作成するため、病気やケガにより字が書けなくとも作成可能です。
- 3.秘密証書遺言
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秘密証書遺言は、公証人と2人以上の証人立ち会いのもと、署名押印した遺言書を封筒に封入する形式の遺言書です。遺言書の内容は、誰にも見る必要はありません。また、氏名が自筆であれば、それ以外はパソコンなどで作成できます。
しかし、公証人と証人は遺言書があることだけを証明するのみです。遺言書の作成手続きが済むと自分で持ち帰って保管することとなり、紛失や盗難のリスクがあります。また、法律上の要件を満たさないと無効となるおそれがあるため、作成には注意しましょう。
秘密証書遺言は自筆証書遺言と同様に、検認の手続きが必要です。遺言者が亡くなった後に遺言書を発見した場合は検認の手続きを行ってください。
遺言信託とは?その仕組みと流れを解説
遺言書の作成が不安な方や、遺言執行者に誰を指定すればよいかわからない方は、信託銀行が提供する遺言信託を利用するのがおすすめです。遺言信託とは、専門的なアドバイスを受けて遺言書を作成し、遺言書の保管から執行まで責任を持って手続きするサービスの総称です。
遺言信託のサービスは、主に「遺言書の作成・保管」「遺言の執行」の2つに分かれます。遺言書作成後も、内容の見直しなどのアフターフォローを受けることも可能です。一般的な遺言信託の仕組みと流れは、以下の通りです。ただし、順番が前後することがあります。
- 1.事前相談
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遺言書作成を検討している方の財産状況や家族構成、本人の意向などに沿って、生前贈与、遺産承継対策全般のアドバイスを行います。
- 2.遺言書の作成
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事前相談を踏まえて、公正証書遺言を公証人役場で作成します。公正証書作成の際の証人を依頼することも可能です。
- 3.遺言信託の申し込みと契約
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「遺言書保管」や「遺言書執行」の契約後、公正証書遺言の正本を信託銀行で保管。遺言書の見直しや執行に関することなど、必要に応じてアフターフォローも受けられます。
- 4.相続開始の通知
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相続が開始したら、あらかじめ指定された相続人から信託銀行が通知を受けて、執行業務を開始します。「遺言書保管」の契約の場合は、相続人の代表者に遺言書を渡して業務が終了します。
- 5.遺言書の開示と遺言執行者の就任
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相続人や受遺者へ遺言内容の開示を行い、相続人や受遺者と相談して金融機関が遺言執行者に就任します。
- 6.遺産調査と財産目録の作成
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遺産を調査し、判明した遺産の財産目録を作成します。相続人が預かっている通帳や、不動産の登記済証(登記識別情報)などの財産を信託銀行が預かります。
- 7.所得税の準確定申告や相続税の申告などのアドバイス
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亡くなられた方の準確定申告(相続開始後4ヵ月以内)、相続税の申告と納付(10ヵ月以内)のアドバイスを行います。
- 8.遺産分割の実施と完了後の報告
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遺言書にもとづき相続財産を分割(預貯金や金融商品の換金や不動産の名義変更など)し、すべての手続きが完了したら、その結果を相続人や受遺者に報告します。
遺言執行者に指定されて困ったら信託銀行へ相談
相続の手続きには、専門的な知識が必要となることが多く、一般の方が遺言執行者に指定されても戸惑ってしまうかもしれません。亡くなった方の戸籍謄本(生まれてから亡くなるまで)を集めて相続人を確定するだけでも、本籍が変更されていると時間と手間がかかります。
不動産を所有している場合は、法務局での不動産の名義変更の手続き、亡くなられた方が複数の金融機関と取引していれば取引金融機関の調査、金融資産や預金の相続手続きなど、遺言執行者の業務はさまざまです。
執行手続きを専門家に相談すれば、執行者の手続きや心理的負担が軽減されます。遺言執行者に指定されて困った場合は、信託銀行に相談するのがおすすめです。信託銀行に相談すれば、経験豊富で専門的な相続に関するさまざまなアドバイスを受けることができるでしょう。
- ご参考
遺言信託は、当社所定の手数料を申し受けます。
※遺言信託に関する手数料はこちらをお読みください。
執筆者紹介
加治 直樹(かじ なおき)
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、社会保険労務士
銀行にて20年以上勤務したのち、かじ社会保険労務士事務所として独立。銀行員時代は、不動産融資、資産運用、年金相談等幅広く業務を経験。現在は、労働基準監督署で企業や個人の労務相談を受ける傍ら、金融・保険・住宅ローン等をテーマにしたセミナーを開催している。
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