2015年に相続税の基礎控除額が引き下げられ、相続税がかかる人が増えたといわれています。相続税対策は、一朝一夕にしてできるものではありません。できるだけ早めの対策を講じることが大切です。ただ、相続税がかかるかどうかの目安とされている基礎控除額や遺産総額(課税価格)の算出には、税法上のルールがあります。

本コラムでは、基礎控除額や遺産総額(課税価格)を算出するときの基礎知識について説明します。

相続税は基礎控除額を超えるとかかる

相続税は、相続財産が基礎控除額を上回った部分にかかる税金です。ここでいう相続財産とは、「正味の遺産総額」のことで、被相続人(亡くなった人)が返済すべきだった負債や相続人が負担する葬式費用等は除きます。ただし、後述しますが相続で引き継いだ財産以外にも相続前に贈与を受けた財産も相続税の課税対象財産に含めなければいけないケースもあります。

正味の遺産総額は、相続税の課税価格ともいわれます。つまり、相続税の課税価格が基礎控除額を超えれば相続税がかかりますが、基礎控除額以下であれば相続税はかかりません。この場合には、相続税の申告をする必要もありません。

基礎控除の計算方法

相続税の基礎控除額は、次の計算式で求めることが可能です。

  • 相続税の基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)

例えば、法定相続人が1人であれば基礎控除額は3,600万円、2人であれば4,200万円というように、法定相続人が1人増えるごとに基礎控除額が600万円ずつ増えていきます。

法定相続人の数 基礎控除額
1人 3,600万円
2人 4,200万円
3人 4,800万円
4人 5,400万円
5人 6,000万円
6人 6,600万円
7人 7,200万円

基礎控除額を算出するときの法定相続人の数え方

基礎控除額を求めるときには、法定相続人の数え方に注意しましょう。なぜなら、相続税法では法定相続人の数の計算上、民法が定める相続人としてカウントされない場合があるからです。民法が定める相続人の範囲および順位は、次のようになっています。

相続順位 法定相続人
第1順位 配偶者、直系卑属(子どもまたは孫などの代襲者)
第2順位 配偶者、直系尊属(親まはた祖父母などの代襲者)
第3順位 配偶者、兄弟姉妹

被相続人の配偶者は、常に相続人となるのが特徴です。第1順位は配偶者および直系卑属、第2、第3順位に該当する親族は上位の人がいない場合に相続権を持つようになります。ちなみに、養子は子どもと同順位の第1順位の相続人です。同順位の人が複数人いる場合は、同順位の人数に制限はありません。

一方、相続税法では、法定相続人の数に含められる養子の数に制限があります。被相続人に実子がいる場合は、養子は1人まで、実子がいない場合は2人までです(※)。これは、例えば子どもの配偶者や孫などと養子縁組みをするなどして相続人の数を増やし、基礎控除額や非課税限度額(生命保険金、退職手当金)を大きくして相続税負担を回避するのを妨げるためです。

(※)養子には普通養子と特別養子があります。数の制限は普通養子の場合です。

また、民法では相続放棄をした人は最初から相続人でなかったものとされますが、相続税法では相続放棄をした人も法定相続人の数に含めて基礎控除額を計算します。

相続税を払っている人はどれくらい?

実際に、どれぐらいの人が相続税を払っているのでしょうか。国税庁が公表している「令和2年分 相続税の申告事績の概要」によると、2020年度における課税割合は8.8%です。これは、被相続人(死亡者)の約11.3人のうち1人に相続税がかかっている計算になります。ちなみに、相続税の基礎控除額が引き下げられる前年2014年の課税割合は4.4%でした。

2014年以前も4%台で推移していたことから、相続税の基礎控除が引き下げられてから相続税を払う人が倍増したことがうかがえます。なお、相続税の課税割合には地域差もあります。各国税局の資料によると、最も課税割合が高いのは東京国税局で13.8%、最も低いのは熊本国税局で4.0%でした。その差は、なんと9.8%も開いています。

以下の表は、各国税局の課税割合を高い順に並べたものです。

東京国税局
13.8%
名古屋国税局
11.4%
大阪国税局
9.0%
全国
8.8%
関東信越国税局
8.0%
金沢国税局
7.7%
広島国税局
7.2%
高松国税局
6.9%
沖縄国税事務所
6.7%
福岡国税局
5.5%
仙台国税局
4.5%
札幌国税局
4.4%
熊本国税局
4.0%

出所:国税庁および各国税局(国税事務所)発表の「令和2年分 相続税の申告事績の概要」をもとに筆者作表

前述したように、相続税は正味の遺産総額が基礎控除額を上回った場合にかかるわけですが、地域によってこんなにも課税割合が異なっているのです。全国平均よりも高い3地域は、いずれも大都市圏で、土地の評価額が高いことなどが遺産総額に反映しているとも考えられます。

つまり、基礎控除額だけを相続税課税の目安とするのではなく、正味の遺産総額がいくらになるかを見積もっておくことが大切です。

正味の遺産総額はどう求める?

「遺産」は、被相続人が死亡した時点で所有していた財産と考える人もいるかもしれません。しかし、相続税の計算上、相続開始前3年以内に贈与を受けた財産額や、相続時精算課税制度で生前贈与を受けた財産なども含めることが必要です。そのため、死亡した時点で所有していた財産だけとは限りません。

贈与を受けたかどうかは、相続人によっても異なるため、まず相続や遺贈、相続時精算課税にかかる贈与で財産を取得した人ごとに課税価格を求めます。各人の課税価格の求め方は、次の通りです。

プラスの相続財産
+ みなし相続財産(死亡保険金、死亡退職金など)
+ 死亡日以前3年間に贈与された財産
+ 相続時精算課税制度の生前贈与財産全部
- マイナスの相続財産(債務など)
- 葬式費用
= 各人の課税価格

各人の課税価格を算出できれば、全員分を合計します。これが正味の遺産総額です。なお、正味の遺産総額から基礎控除額を差し引いた額が相続税の対象となる「課税遺産総額」となります。以下からは、プラスの相続財産やみなし相続財産、マイナスの財産などについて一つ一つ見ていきましょう。

相続税の対象となる財産(プラスの相続財産)

相続税の対象となるプラスの相続財産は、被相続人が相続開始時に保有していた財産で、金銭に見積もることができるすべての財産です。例えば、以下のようなものを指します。

  • 土地や家屋
  • 立木
  • 事業(農業)用財産
  • 有価証券
  • 家庭用財産
  • 貴金属や宝石、書画骨とう
  • 預貯金、現金など

これを「本来の相続財産」ともいいます。また、被相続人の死亡によって支払われる死亡保険金や死亡退職金は、相続や遺贈によって取得したものとみなされる財産です。そのため、「みなし相続財産」として相続税の課税対象に加えます。

その他、相続開始前3年以内に被相続人からの贈与によって取得した財産、生前の被相続人から相続時精算課税にかかる贈与によって取得した財産(相続時精算課税適用財産)があります。

相続税がかからない財産(非課税財産)

相続や遺贈で取得したものでも、相続税がかからない財産もあります。これを非課税財産といい、具体的には次のものです。

墓地等

墓地や墓碑、仏壇、仏具などは非課税財産です。そのため、相続税の課税価格の計算に含める必要はありません。

生命保険金の一部

相続人が受け取った保険金のうち、次の算式によって計算した金額までの部分(非課税限度額)は相続税の課税価格の計算に含めません。

  • (500万円×法定相続人の数)×(その相続人が受け取った保険金額÷相続人全員が受け取った保険金額)

例えば、法定相続人が2人(妻と子ども1人)、被相続人が加入していた生命保険は妻を受取人とした保険金額3,000万円の契約および子どもを受取人とした保険金額1,000万円の契約だったとしましょう。この場合、妻の課税価格の計算上、非課税財産は750万円となります。そのため、みなし相続財産として妻の課税価格に加算するのは2,250万円(3,000万円-750万円)です。

死亡退職金の一部

被相続人が勤めていた会社などから支払われた死亡退職金等のうち、次の算式によって計算した金額までの部分(非課税限度額)は相続税の課税価格の計算に含めません。

  • (500万円×法定相続人の数)×(その相続人が受け取った死亡退職金等÷相続人全員が受け取った死亡退職金等)

計算方法は、生命保険金の場合と同様です。

相続財産から控除できるもの

次の2つは、課税価格を求める際に控除できます。

被相続人の債務

差し引くことができる債務は、ローンなど借入金の残高や未払金、被相続人が納めなければならなかった税金などの未納分などです。

葬式費用

被相続人の葬式に際して葬式費用を相続人が負担した場合、その費用は相続財産の価額から差し引くことができます。具体的には、お寺などへの支払いや葬儀社、タクシー会社などへの支払い、お通夜に要した費用等です。ただし、香典返しの費用や法要に要した費用などは差し引くことができません。

課税遺産総額の計算例

ここで、仮の例を挙げてみます。課税遺産総額がいくらになるか計算してみましょう。

相続人

妻、子1人

相続財産
(プラス分)

自宅5,000万円(妻が相続)、預貯金2,000万円(妻と子どもで1,000万円ずつ相続)、有価証券1,000万円(子どもが相続)

相続財産
(マイナス分)

クレジットカードの未払分20万円(妻が負担)

葬儀費用

300万円(妻が負担)

項目 計算結果 計算式
妻の課税価格 5,680万円 5,000万円+1,000万円-20万円-300万円
子どもの課税価格 2,000万円 1,000万円+1,000万円
遺産総額 7,680万円 5,680万円+2,000万円
基礎控除額 4,200万円 3,000万円+(600万円×2人)
課税遺産総額 3,480万円 7,680万円-4,200万円

相続財産の評価に注意

上の例で計算してみて、「課税遺産総額の算出はあまり難しくない」と感じた方もいるかもしれません。たしかに、相続財産が預貯金のみであれば評価額が額面通りなので単純に求められます。しかし、不動産や有価証券など相続財産によっては、評価額の出し方が決まっているものがあり、それぞれのルールに従って評価額を計算しなければなりません。

例えば、上記例では「自宅」とひとくくりで金額を記載しましたが、実際には宅地と建物では評価の仕方が異なります。評価額が異なれば遺産総額が変わり、相続税がかかるかどうかや、相続税がかかる場合の税額等も違ってくることも少なくありません。ここでは、相続財産として代表的なものの評価額の出し方について説明します。

預貯金

相続開始の日現在の預入残高と、相続開始の日現在における既経過利子額(源泉徴収税引き後)の合計額です。

宅地

「路線価方式」と「倍率方式」がありますが、地域によって異なります。

  • 路線価が定められている地域:路線価方式で評価します。
  • 路線価が定められていない地域:倍率方式で評価します。

なお、宅地の相続には「小規模宅地等の特例」という制度があり、例えば居住用宅地であれば、特例の適用で330㎡までの部分の評価額が80%減額されます。つまり、課税価格に算入するのは評価額の20%のみということです。

特例の適用要件は、宅地の用途および誰が相続するかによって異なります。しかし、居住用宅地の場合であれば、相続開始の直前において被相続人と一緒にそこに住んでいたこと、相続後もそこに住み続けることなどが大まかな要件です。

家屋

自宅の家屋については、固定資産税評価額で評価します。市区町村から毎年送られてくる「固定資産税課税明細書」で確認できます。

上場株式

次の4つの価額で最も低い価額となります。

  • 相続の開始があった日の終値
  • 相続の開始があった月における毎日の終値の月平均額
  • 相続の開始があった月の前月における毎日の終値の月平均額
  • 相続の開始があった月の前々月における毎日の終値の月平均額

家庭用財産(家具・什器・電話加入権等)・自動車

類似品の売買価額や専門家の意見などを参考にして評価します。

評価額の計算は厳密には難易度が高いものです。ある程度の目安を確認できたら、できるだけ早めに専門家に相談してみるのが賢明でしょう。相続税がかかる可能性がある場合には、できるだけ負担を軽減できるような相続対策についてもアドバイスしてもらえるかもしれません。

専門家の意見も参考にしながら、相続税がかかるかを確認しよう(まとめ)

相続税がいくらからかかるかを知るために、相続税の基礎控除額や遺産総額の算出方法などについて説明しました。できるだけ相続税の負担を抑えるためにも、早めの確認と対策を検討しましょう。しかし、法定相続人数の求め方や財産評価の仕方、贈与を受けた財産の加算、控除等は、注意すべきこともたくさんあります。

安易に基礎控除額だけを目安にするのではなく、できるだけ相続に詳しい専門家のアドバイスを受けるのがおすすめです。

執筆者紹介

續 恵美子(つづき えみこ)

1級ファイナンシャル・プランニング技能士(CFP)

生命保険会社にて15年勤務したのち、ファイナンシャルプランナーとしての独立を目指して退職。その後、南フランスに移住。夢と仕事とお金の良好な関係を保つことの厳しさを自ら体験。「生きる上で大切な夢とお金のことを伝える」をミッションとして、マネー記事の執筆や家計相談などで活動中。

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