口座凍結される理由と解除に必要な手続き方法

「口座凍結」という言葉は皆さんご存じでしょうか。
「聞いたことはあるけどよく知らない」「凍結って具体的にどうなってしまうことなのだろう」と思われる方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は普段はあまり関わることの無い「口座凍結」についてご紹介いたします。
口座凍結とは
口座凍結とは、一定の条件に該当した場合に、資金の引き出し等の取引が停止されることです。重要なのは「取引の停止」ですので、お金を下ろすだけではなく、振込や口座引き落としも一切できなくなる点です。自動的に解約されるわけではないですが、元通り使えるようにするには一定の手続きが必要です。
口座凍結される条件
口座凍結される条件とは一般的に以下が考えられます。
- 債務整理の対象になる場合
- 口座が不正取引に利用された場合
- 名義人が死亡した場合
- 名義人が認知症であると認められた場合
口座凍結される理由とタイミング
それぞれの理由について説明します。
「債務整理の対象になる場合」、カードローンなどの銀行からの借り入れがあることで債務整理になり、口座凍結されます。債務整理が決定した段階で口座凍結されてしまいます。
「口座が不正取引に利用された場合」は、警察からの情報提供により、犯罪に使用された疑いのある口座が凍結されます。また、口座情報の流出や健康保険証、運転免許証などの本人確認書類が盗難にあうことで不正に口座が開設されてしまい、同名義の無関係な口座まで凍結されてしまうケースもあります。
「名義人が死亡した場合」は、銀行などの金融機関に口座名義人の死亡が伝わると口座凍結されます。死亡直後に凍結されるのではなく、通常は親族などの相続人が金融機関へ連絡することで凍結されます。他にも新聞の訃報欄などから情報を得て家族へ確認の連絡がいくことがあります。
「名義人が認知症であると認められた場合」は、金融機関が口座名義人の認知症発症を知った場合に口座凍結されます。この場合、認知症発症直後に凍結されるのではなく、親族などから連絡があった場合や口座名義人とのやり取りで認知症と思わしき状態と判断された場合に口座凍結されます。
口座凍結前後での資金引き出しに関して
ここまでの内容を読んで、「口座凍結される前にお金を引き出しておこう」と感じられた方もいらっしゃると思います。ただし、口座凍結前と後では資金引き出しについて注意すべきことがあります。
特に起こりがちな、死亡による口座凍結の際に注意すべきところをご紹介します。
口座凍結前に資金を引き出す影響
死亡によって口座凍結される前に、お金を引き出した場合、主に二つ注意する必要があります。
一つ目は他の共同相続人との間でトラブルになるおそれがあることです。被相続人の口座は遺産分割協議の対象ですから、勝手に下ろして使うことは本来許されません。「不要なトラブルを避けるため」という、口座凍結の目的に該当します。
二つ目は相続放棄ができなくなる場合があることです。遺産から引き出したお金を自分のために使ってしまうと、相続を単純承認したことになります。後日、借金などのマイナスの財産があることが判明した場合に、相続放棄しようと思っても出来なくなってしまうため注意しましょう。
口座凍結後は引き出すことはできないのか
では、口座凍結後には絶対に資金を引き出すことはできないのかを考えてみましょう。本来であれば口座凍結された理由毎に所定の手続きを行い、口座凍結を解除することが必要です。ただし死亡による口座凍結の場合には、仮払い制度を活用することで一部資金を引き出すことができます。
仮払いの方法は以下の3つがあります。
- 相続人全員の同意書を提出する
- 家庭裁判所に申したてる
- 相続人のうち1名が申請する
このうち、相続人1名が申請する場合には上限があり、計算式は以下となります。
相続開始時の預貯金残高×1/3×仮払いを求める相続人の法定相続分
※上限は150万円
なお、仮払い制度を利用する場合でも相応の手間と時間がかかります。また、仮払いを受けた分は遺産分割の際に相続分から差し引かれるため、使い道は記録しておきましょう。
口座凍結の解除には手続きが必要
口座凍結の解除には所定の手続きが必要です。今回は死亡による場合と、認知症による場合についてご紹介します。
名義人死亡の場合
口座名義人の死亡による口座凍結の場合は、遺産を相続人がどのように相続するかを決めることがスタートです。手続きに必要な書類は相続方法や銀行によって異なりますが、一般的な金融機関の場合をご紹介します。
遺言書 遺産分割協議書が無い 共同相続 |
戸籍謄本 | 口座名義人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本、法定相続人を確認できるすべての戸籍謄本 |
---|---|---|
印鑑証明書 | 法定相続人全員分 | |
通帳 | 証書、キャッシュカード、貸金庫の鍵なども含む | |
遺産分割協議書の場合 | 遺産分割協議書 | 資産を誰が受け取るか明確に記載された書類の原本 |
戸籍謄本 | 口座名義人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本、法定相続人を確認できるすべての戸籍謄本 | |
印鑑証明書 | 法定相続人全員分 | |
通帳 | 証書、キャッシュカード、貸金庫の鍵なども含む | |
遺言書がある場合 | 遺言書 | 資産の分割割合や承継人が明確に記載された遺言書の原本 |
家庭裁判所の検認済証明書 | 遺言書の存在と内容を家庭裁判所が確認したことを証明する書類 (公正証書遺言または自筆証書遺言保管制度を利用している場合は不要) |
|
戸籍謄本 | 口座名義人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本、法定相続人を確認できるすべての戸籍謄本 | |
印鑑証明書 | 銀行に預けている資産を受け取る人の印鑑証明書 | |
通帳 | 証書、キャッシュカード、貸金庫の鍵なども含む |
これらの書類を準備して窓口で手続きすることが一般的です。
※上記の書類は一例であり、金融機関ごとに異なるためご注意ください。
認知症によるものの場合
認知症による口座凍結の場合、解除するには成年後見制度を利用する他ありません。
家庭裁判所へ申立を行い、成年後見人を選定します。その後に銀行へ口座凍結の解除の手続きを行います。
一般的に成年後見人を選定するには3ヶ月前後かかると言われています。
銀行での手続きに一般的に必要な書類は、以下に記載の通りです。
- 通帳
- 届出印
- 代理権を有することが確認できる書類
- 代理人本人の本人確認書類
口座凍結の前にできる対策
ここまでの通り、口座凍結の解除には様々な手続きが必要です。特に死亡や認知症による口座凍結の際に、解除の手続きはご家族が行うことが多いので、家族の負担軽減のためにも事前に対策を取ることがおすすめです。
取引金融機関の一覧表作成
まずは取引をしている金融機関の一覧表を作成しましょう。万一の時にご家族が取引金融機関を確認することに役立ちます。最近ではエンディングノートと言って財産の状況などを整理することに役立てられるものもあります。 一覧表には、取引金融機関、支店名、口座番号、取引種類、キャッシュカードの有無などを記載しておくと良いでしょう。
取引金融機関の整理
一覧表を作成したら、場合によっては取引金融機関を整理することも検討しましょう。お亡くなりになってしまった後は、どれだけ残高が小さくても口座凍結の解除手続きは必要なので、普段あまり取引をしていない金融機関は解約してしまうのも対策の一つです。
通帳や印章の保管場所を家族に伝える
万一の時に備えて、通帳や印章などの、手続きに必要なものの保管場所を家族へ伝えておきましょう。いざ手続きが必要になったときに、ご家族が書類の場所を把握していればスムーズに手続きに進むことに繋がります。
さいごに
今回は口座凍結に関して、理由や解除の方法、事前の対策についてご紹介させていただきました。万一に備えて、ご家族の負担を軽減したい場合は、上記の対策を取っていただくと良いと思いますし、より具体的に考えたい場合には、信託銀行や専門家に相談してみましょう。
三井住友信託銀行 個人企画部 清水 晃一
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