相続が発生したら、亡くなった方の財産を調べ、課税対象となる財産をもとに相続税を計算します。しかし、必ずしもすべての方が相続税を支払う必要があるわけではありません。2015年の相続税制の改正で、相続税を支払う方が大きく増加しました。なかには、相続税の申告と納付が不要なケースもあり、そこには基礎控除が大きく関係します。

本記事では、相続税の納税時期や相続の対象となる財産の種類をはじめ、相続税を計算するうえで控除できる基礎控除額の計算方法について解説します。

納税時期や相続税の対象となる財産の種類、基礎控除額の計算方法

相続が発生した場合、相続人の人数や相続税の対象となる財産の状況によっては、相続税の申告と納税が必要です。相続財産とひとくちにいっても、大別すると以下のようなものがあります。

  • 相続税の対象となる財産
  • 相続税の対象とならない財産
  • 相続税の対象となる財産の中から控除できるもの

ここでは、相続税の対象となる財産やならない財産、申告・納付の時期などについて確認していきましょう。

相続税の対象となる財産の種類

金銭的な価値があるものすべての財産が相続税の対象です。具体的に、相続税の対象となる財産の種類は、以下のものがあります。

  • 土地、建物、株式や公社債などの有価証券、預貯金、現金など
  • みなし相続財産
  • 相続人が被相続人から贈与により取得した財産
  • 相続時精算課税制度を利用して被相続人から贈与により取得した財産
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    土地、建物、株式や公社債などの有価証券、預貯金、現金など

    日本国内だけでなく、日本国外にある財産もすべて対象です。また、財産の名義がたとえ家族の名義になっていたとしても、被相続人(亡くなった方)が所有しているとみなされれば、相続財産の対象となる場合があります。

  • 2
    みなし相続財産

    死亡保険金や死亡退職金は、亡くなった際に支払われるもので、相続によって取得したとみなされます。しかし、それぞれに非課税枠があるため、以下の金額は除かれます。

    • 法定相続人の数×500万円まで
  • 3
    相続人が被相続人から贈与により取得した財産

    相続開始前3年以内に被相続人から贈与を受けた財産は、相続の対象となる財産に加算されます。この場合、その価額は相続発生時の価額ではなく、贈与時の価額で加算されるため注意しましょう。

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    相続時精算課税制度を利用して被相続人から贈与により取得した財産

    贈与税の申告の際に相続時精算課税制度を利用していた場合は、注意が必要です。相続時精算課税制度を利用して贈与を受けた財産も、贈与時の価額で加算されます。

相続税の対象とならない財産の種類

相続税の対象とならない財産や相続税の対象となる財産のなかでも一定額を控除できるものがあります。また、相続財産の価額から控除できる費用についても具体的に見ていきましょう。

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    相続税の対象とならない財産

    ・仏壇や仏具、墓地や墓碑、神棚などの祭祀財産

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    相続税の対象となる財産の中から一定額を控除できるもの

    ・死亡保険金や死亡退職金のうち非課税となる範囲内の金額(法定相続人の数×500万円までが死亡保険金や死亡退職金からそれぞれ控除できます)

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    相続財産の価額から控除できる費用

    ・被相続人の債務:被相続人の借金・未払金、税金の未払い分など
    ・葬儀費用:葬儀業者やお寺への支払費用、お通夜の費用などが対象。墓地の購入に要した費用、香典返し、法要の費用は該当しない

相続税の申告と納税の時期

相続税の申告と納税の期限は「相続開始があったことを知った日(一般的には亡くなった日)の翌日から10ヵ月以内です。また、申告の期限が土・日・祝日にあたる場合は、翌営業日が申告と納税の期限となります。例えば、2022年8月17日(水)に亡くなった方の場合は、2023年6月19日(月)までが、申告と納税の期限です。

相続税の申告と納税の時期

相続税の申告が必要な方は、被相続人の死亡時における住所地を管轄する税務署に相続税の申告書を提出し、納税しなければなりません。申告と納税が遅れると、原則加算税および延滞税がかかるため、早めに準備して確実に申告と納付をしましょう。

相続税の申告と納税が必要かどうかは基礎控除の金額が大きく関係する

相続税の申告と納税は、基礎控除額の計算方法が大きく関係しています。ここでは、基礎控除額の計算方法について詳しく見ていきましょう。

相続税を計算する上で控除できる基礎控除とは

相続税には、相続財産に価額から一定金額を控除することができる基礎控除額があります。基礎控除額の計算式は、以下の通りです。

  • 相続税の基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)

相続税の課税価格は、相続税の対象となる財産の合計額から、被相続人の債務や葬式費用などの控除できる費用を差し引いて計算します。この課税価格から基礎控除額を差し引いても、相続税の対象となる価額(課税遺産総額)がある場合は、その課税遺産総額を基準に相続税が課せられます。控除後の金額が残らず、相続税を計算できない(相続税の課税遺産総額がない)場合、原則申告は不要です。

そのため、相続税の申告が不要となるケースは、以下の計算式で表すことができます。

  • 基礎控除額 >(相続税の課税対象となる財産の価額-債務-葬儀費用など)

法定相続人の人数を数えるときの注意点

基礎控除額は、法定相続人の人数が増えるほど金額が大きくなります。法定相続人の人数を数えるときのポイントについて確認していきましょう。

相続放棄した方がいる場合
  • 相続放棄がなかったものとして相続人の数を数える
法定相続人のなかに養子がいる場合
  • 被相続人に実子がいるときは養子のうち1人までを法定相続人に数える
  • 被相続人に実子がいないときは、養子のうち2人までを法定相続人に数える

なかには、相続人が相続発生前に死亡しているケースもあるかもしれません。この場合は、世襲して相続人となる子どもが2人いれば2人で数えるため、法定相続人の人数が増えることになります。一方、相続人が相続放棄した場合は、相続放棄がなかったものとして数えるため、相続放棄をした法定相続人に子どもが2人いたとしても1人で数えます。

相続税の計算の具体例

基礎控除額を計算する際の具体例をいくつかあげてみましょう。

法定相続人を数えるときの注意点

例えば、法定相続人が配偶者Aと子どもB、C、Dの3人の場合、法定相続人の人数は4人です。基礎控除額の計算は、以下のようにして計算します。

  • 基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数4人)=5,400万円

被相続人の子どもBが相続発生前に亡くなっていてその子ども(孫)がE、Fの2人がいた場合、法定相続人の人数はA、C、D、E、Fの5人になります。

  • 基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数5人)=6,000万円

上記と同じケースで子どもBが相続放棄をした場合は、Bの子ども(孫)となるE、Fの2人がいたとしても、相続放棄がなかったものとして数えます。そのため、法定相続人の人数は、A、B、C、Dの4人です。

  • 基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数4人)=5,400万円
  • 課税遺産総額の計算
    課税価格の合計額1億円-基礎控除額4,800万円(3,000万円+600万円×法定相続人の数3人)=課税遺産総額5,200万円
配偶者 子ども(20歳) 子ども(15歳)
法定相続分で按分 2,600万円
(5,200万円×2分の1)
1,300万円
(5,200万円×4分の1)
1,300万円
(5,200万円×4分の1)
相続税額 340万円
(2,600万円×相続税率15%-控除50万円)
145万円
(1,300万円×相続税率15%-控除50万円)
145万円
(1,300万円×相続税率15%-控除50万円)
相続税の総額 630万円(340万円+145万円+145万円)
実際の分割割合で按分 504万円
(630万円×8,000万円÷1億円)
63万円
(630万円×1,000万円÷1億円)
63万円
(630万円×1,000万円÷1億円)
実際に納付する相続税額 0円

※1配偶者の税額軽減あり

63万円 33万円

※2未成年者控除(18歳-年齢)×10万円

  • ※1配偶者の税額軽減として1億6,000万円以下または法定相続分までの税額軽減を適用しています。
  • ※2未成年者控除として、10万円に相続開始の日から満18歳に達するまでの年数を乗じて計算した金額を適用しています。
法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10% -
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

相続は二次相続も考えて信託銀行へ相談しよう

基礎控除額の計算は、法定相続人の数に応じて変化するため、一次相続後の二次相続では基礎控除額が減り、相続税が増える可能性があります。相続税の負担軽減に活用できる制度や特例はたくさんあるため、早い段階で金融機関など相続の専門家の知恵を借りることも大切です。

相続税の負担が軽減されるケース

相続税がかかるかどうかは、基礎控除額が大きく影響しますが、他にも負担を軽減させる方法があります。ここでは、相続税の負担が軽減される3つの代表的なケースを確認していきましょう。

1.贈与税の配偶者控除の活用

婚姻期間が20年以上の夫婦であれば、配偶者に対して居住用不動産、または取得するための費用の贈与が行われた場合、最高2,000万円まで控除できる特例があります。贈与税の配偶者控除は、別名「おしどり贈与」と呼ばれ、暦年贈与の110万円の基礎控除とは別の枠で利用できます。

2.配偶者の税額軽減の活用

配偶者の課税価格が1億6,000万円まで、または配偶者の法定相続分相当額までは、配偶者に相続税がかからず、相続税の負担軽減を図ることが可能です。ただし、配偶者の税額軽減を活用するには、相続の申告書を税務署に提出する必要があることを覚えておきましょう。

3.暦年課税の贈与の非課税枠活用

日本の場合、一般的に財産の贈与を受けた方は、贈与税がかかります。しかし、年間110万円までの贈与には贈与税は課税されません。ただ、暦年贈与制度を使って贈与した場合でも、相続開始前3年以内の贈与は相続の対象となる財産への加算が必要です。そのため、相続財産とみなされるため、注意しましょう。

相続は二次相続も考えて信託銀行へ相談しよう

そのほかにも、相続税の負担軽減が期待できる制度や特例はたくさんあります。

  • 教育資金の贈与の非課税枠
  • 結婚・子育て資金の一括贈与の非課税枠など

相続税には、相続財産に価額から一定金額を控除できる基礎控除額と呼ばれる金額が設定されています。相続税がかかるかどうかは、基礎控除額が大きく影響してくるため、自分の場合はどのぐらいの基礎控除になるのかを算出しておくと安心です。

また、一次相続で適用された配偶者の税額軽減は、二次相続で適用されないため、二次相続で相続税が多額となる可能性があります。そのため、相続対策には二次相続に備えた準備も必要です。相続税の試算や二次相続に備えた対策など、相続について詳しく知りたい方は、専門的な相続の話ができる信託銀行に相談しましょう。

執筆者紹介

加治 直樹(かじ なおき)

1級ファイナンシャル・プランニング技能士、社会保険労務士

銀行にて20年以上勤務したのち、かじ社会保険労務士事務所として独立。銀行員時代は、不動産融資、資産運用、年金相談等幅広く業務を経験。現在は、労働基準監督署で企業や個人の労務相談を受ける傍ら、金融・保険・住宅ローン等をテーマにしたセミナーを開催している。

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