相続させる側(被相続人)にとっても、相続する側(相続人)にとっても、なにかと不安の多い遺産相続。相続手続きや相続税、遺産分割など、人によって不安な点は異なりますが、そのベースには、故人の財産が相続人へと移転することによる財産面での損得や、自分の生活への影響などの心配があるのかもしれません。

近年、相続人の生活や手続き面での配慮を目的とした相続に関する法改正や、新制度の創設がされているため、内容を調べておくといいでしょう。そこで本記事では、遺産相続にまつわる主な不安別に、不安の軽減につながりそうな制度やルールについて紹介・解説していきます。

遺産相続にまつわる不安1:どんな手続きが必要?

遺産相続とは、亡くなった人の財産(遺産)を相続人へ引き継ぐ手続きです。自治体への死亡届の提出や、相続人の調査・確定、遺産の調査・確定、遺産分割協議など、やるべきことは多岐にわたります。なかには期限が決められているものもあり、なにをいつまでにやらなければいけないのかわからず不安な人は少なくありません。

ただ、ネットなどで提供されている情報は一般的な相続発生後に必要となる手続きです。そのため、すべての人がすべての手続きを行わなければならないわけではありません。これらのなかから、自分のケースに該当する手続きをすれば良いことになります。

相続人を困らせないためにも、主な手続きの流れを知るとともに、生前にエンディングノートなどに必要となる手続きをメモしておくのがおすすめです。事前準備をしておくことで、将来の遺産相続の際に、相続人が落ち着いて手続きに取り組めるようになります。

【期限が決まっているもの】

期限 手続き内容
死亡の事実を知った日から7日以内
  • 死亡届提出(国外で亡くなった場合は、その事実を知った日から3ヵ月以内)
死亡日から14日以内
  • 国民健康保険・介護保険資格喪失手続き
  • 国民年金・厚生年金受給停止手続き
死亡の事実を知った日から3ヵ月以内
  • 相続放棄または限定承認(放棄または限定承認する場合)
死亡の事実を知った日の翌日から4ヵ月以内
  • 準確定申告(亡くなった人が確定申告が必要だった場合)
死亡の事実を知った日の翌日から10ヵ月以内
  • 相続税申告・納付
行使できるときから3年間
  • 生命保険請求手続き

3年間請求がない場合は消滅

【期限が決まっていないもの】

死亡後 手続き内容
3ヵ月以内が望ましい
  • 相続人の確定(亡くなった人が生まれてから亡くなるまでの戸籍情報などを入手)
  • 遺言書の有無の確認
  • 相続財産(プラスの財産とマイナスの財産)の確認
できるだけ早めに
  • 遺産分割協議・遺産分割協議書の作成
  • 取引金融機関の手続き(解約・名義変更など)
  • 不動産など相続財産の名義変更

2024年4月1日から、「相続の開始とその所有権の取得を知った日から3年以内」の相続登記が義務付けられます

遺言書や相続財産の確認などは、特に期限が定められていませんが、相続放棄や限定承認の申述の期限は、死亡の事実を知った日から3ヵ月以内です。そのため、各相続人が迅速に相続方法を選択したり判断したりできるように、3ヵ月以内に行うのがいいでしょう。

知っておくと便利な「法定相続情報証明制度」

金融機関や生命保険、不動産相続登記などの手続きをする際には、各機関で戸籍謄本などの確認書類の提出が必要です。ただ、手続きの数に応じてすべて入手していると費用負担が重くなってしまいます。そこでおすすめなのが「法定相続情報証明制度」の利用です。これは、2017年5月29日に始まった制度で、全国の法務局(登記所)で相続関係を証明する書類を無料で作成してくれるというものです。

その書類を戸籍謄本などの代わりとして利用できるため、手続き費用の削減につながります。ただし、法定相続情報証明制度を依頼する際には戸籍謄本などの必要書類の提出が必要です。

この制度を使わない場合でも、一般的に銀行や役所、法務局など、こちらから原本還付依頼をすれば、戸籍謄本などはその場でコピーを取ってくれて還付してもらえます。

遺産相続にまつわる不安2:故人名義の預金は引き出せないの?

家計の生活口座が故人名義になっている場合など、亡くなった人の遺族が現実的に困ることがあります。一般的に、金融機関が死亡の情報を知った場合、該当する口座はすぐに凍結します。口座を凍結されてしまうと、遺族(配偶者など)の生活費の払い出しができないだけでなく、公共料金などの引き落としもストップします。

なぜなら、亡くなった人名義の預金は相続財産となるため、遺産分割が終了するまで払い出しできないことが法律で決まっているからです。そのため、金融機関は戸籍謄本などで相続の事実確認や法定相続人の確定、遺言書や遺産分割協議書の有無などに応じて適正に手続きをする必要があります。例えば、遺言書や遺産分割協議書の有無で、必要になる書類が異なるケースもあるため、注意が必要です。

ただ、遺言書があったり、遺産分割協議が整っていたりしても、亡くなった人や相続人の人数によっては戸籍謄本など、さまざまな書類をそろえるだけでも時間がかかります。そこで、遺族の資金需要に応えられるように、民法が改正されました。2019年7月1日からは、遺産分割前でも亡くなった人の預金残高の一部を払い出しできるようになっています。

払い出しできる額は、相続開始時の預金残高の3分の1に、払い出しを行う相続人の法定相続分を乗じた金額です(同一金融機関で150万円が限度)。例えば、預金残高が600万円、相続人が配偶者と子どもだけの場合、配偶者が払い出しできる金額は、以下のようになります。

  • 預金残高600万円×3分の1×配偶者の法定相続分2分の1=100万円

当面の生活費や葬儀費用などへの対応として知っておきたいですね。

遺産相続にまつわる不安3:相続後、私の住処はどうなるの?

夫婦の一方が亡くなった場合、残された配偶者は「住み慣れた自宅でそのまま住み続けたい」と思う人が多いのではないでしょうか。特に、高齢の方の場合は環境や生活の変化が大きな負担となる場合も少なくありません。ただ、相続人に誰がいるか、どのような相続財産があるかなどでも異なりますが、配偶者が不動産を相続すると、現預金を相続できなくなり生活費に困るケースもあります。

例えば、相続財産が4,000万円(自宅評価額2,000万円、預貯金2,000万円)で、相続人は配偶者と子ども1人、法定相続分で分割する場合は、以下のようになります。

配偶者の相続分

2,000万円(4,000万円×2分の1)

子どもの相続分

2,000万円(4,000万円×2分の1)

つまり、配偶者が評価額2,000万円の自宅を相続した場合、必然的に預貯金2,000万円は子どもが相続することになるのです。こうした場合には「配偶者居住権」を取得する方法があります。配偶者居住権は、2020年4月1日から施行された制度で簡単にいうと、夫婦で一緒に住んでいた自宅に残された配偶者がそのまま住み続けることができる権利です。家賃を支払う必要もありません。

自宅に対する権利を「住む権利(配偶者居住権)」「所有する権利(負担付き所有権)」の2つに分け、配偶者は「住む権利」を、他の相続人が「所有する権利」をそれぞれの資産価値で相続します。先述した例なら、自宅(2,000万円)を配偶者居住権(1,000万円)と負担付き所有権(1,000万円)に分け(注)、配偶者と子どもでそれぞれに相続可能です。

これにより、預貯金2,000万円も配偶者と子どもで1,000万円ずつ分割できます。

(注)実際の価値評価の付け方は、相続人間での話し合いまたは法律による評価方式によって異なります。

また、「配偶者短期居住権」という権利も知っておくといいでしょう。これは、例えば「自宅を配偶者以外の相続人に取得させる」という遺言書があっても、「最低6ヵ月間は配偶者が無償で自宅に居住できる」というものです。相続開始後の6ヵ月は短く感じるかもしれませんが、それでもすぐに退去する必要がないのは安心でしょう。

配偶者居住権には注意点も

前述したように、配偶者は自宅の所有者にはならないため、「自宅を自由に売却する」「貸す」といったことはできません。また、「負担付き所有権」を取得した相続人(所有者となる人)は、所有者でありながら「配偶者が住んでいる間は自由に自宅を使えない」「自分が住んでいないのに固定資産税を払わなければならない」などの制約や負担があります。

将来、両者間でトラブルが発生しないように、配偶者が住んでいる期間中に起こり得るさまざまなシーンを想定しながら相続人間でのルールを決めておくと良いでしょう。

遺産相続にまつわる不安4:土地を相続する予定だけど……

土地を相続する場合、名義変更(相続登記)をするためには登録免許税などの登記費用がかかる点も忘れてはいけません。また、固定資産税もかかるようになります。そこに住まない場合でも、管理のために現地へ出向いたり管理会社に依頼したりするなど、管理費用もかかります。しかし、以下のようなケースでは「費用をかけてまで手続きをしたくない」という人もいるようです。

  • 現実的には遠方で住む予定がない
  • 使い勝手がよくない
  • 売却するにもあまり価値がない など

実は、こうした土地が社会問題となっている「所有者不明の土地の予備軍」となっているといわれています。2022年時点で相続登記の申請は任意となりますが、このような所有者不明土地の発生防止の観点から、2024年4月1日より土地を相続した人に対して、相続登記の義務化が実施される予定です。これにより、相続で土地を取得した人は、相続登記の申請を3年以内にしなければならなくなります。

正当な理由がないのに相続登記の申請をしない場合は、10万円以下の罰金となるため、注意が必要です。相続財産のなかに土地がある人は、将来相続人が困らないように、相続後の土地活用も考慮しながら早めに相続対策をしておくことが望まれます。

不要な土地を手放し、国に引き取ってもらう「相続土地国庫帰属制度」

「土地を相続したが負担が大きい」という人が増えていることを鑑み、不要な土地を国に引き取ってもらう「相続土地国庫帰属制度」が創設され、2023年4月27日より施行されます。この制度を活用すれば、相続や遺贈で土地の所有権を取得した人が、法務大臣の承認により、土地の所有権を国庫へ帰属させることができます。

ただし、「管理コストの国への転嫁」といったモラルハザードを防ぐため、一定の要件が設定されたり、審査手数料や土地管理費相当額の負担金(10年分)が徴収されたりします。費用の詳細は、制令で規定されますが、土地を国に引き取ってもらう場合でも相続人に負担がかかることは押さえておきましょう。

登録免許税の免税措置

2024年4月1日から相続登記が義務化され、3年以内に相続登記をしない場合は10万円以下の罰金がかかることは前述したとおりです。ただし、2025年3月31日までに行う相続登記に対しては、本来不動産の価額に対して0.4%かかる登録免許税が免税されます(条件あり)。相続登記にかかる登録免許税が免税されるのは、次の場合です。

  • 不動産価格が100万円以下の場合
    所有権の持ち分取得の場合は、全体の不動産価格に持ち分の割合を掛けて算出した金額が100万円以下なら免税されます。
  • 未登記のままの土地を相続した場合の1次相続についての相続登記
    例えば、「祖父が所有していた土地を父親が相続したものの、相続登記をしないまま父親が死亡、その土地を自分が相続することになった」というような場合です。土地の名義が祖父のままになっているため、いったん父親の名義に変更する登記が必要で、その登記にかかる登録免許税が免税されます。なお、父親名義から自分名義にするための相続登記は免税対象外です。

遺産相続にまつわる不安5:遺産相続の不安は誰に、いつ頃相談すればいい?

遺産相続に不安はあるが、「具体的な相談内容がわからない」「誰にいつ頃相談すればいいかわからない」という人もいるのではないでしょうか。相続の相談先は、弁護士や司法書士、信託銀行などいくつかあります。しかし、このようなざっくりとした相続の不安の場合は、地方自治体が実施している無料相談を利用するのもいいでしょう。

ただし、基本的に相談時間は20~30分程度と短いため、具体的な解決策を得るのは難しいかもしれません。時間を気にしないで具体的な解決策を模索したい場合は、信託銀行の窓口などで遺産相続について話してみるのもよいでしょう。普段から遺産相続に関するさまざまなサービスを提供している信託銀行であれば、相談者の不安に感じる内容を読み取り、不安の内容を整理してくれるかもしれません。

例えば、三井住友信託銀行では、「相続手続トータルサービス〈まかせて安心〉」というサービスを提供しています。同サービスでは、主に以下のような内容をまとめて行ってもらえます。

  • 相続財産の調査や把握
  • 法定相続人の確定
  • 遺産分割や納税資金の手当てのアドバイス
  • 不動産の名義変更 など

このようなサービス内容を聞いているうちに、生前にやっておくべきことも明確になってくる可能性があります。とはいえ、生前の相続対策は一朝一夕にできるものでもありません。できるだけ早めに相談するのがおすすめです。

不安を感じたら後回しにせずに、早めに相談を

遺産相続は、複雑で分かりにくい内容が多いため、手続き面や金銭面など様々な不安が付きまといます。そうした場合、「どんなことを不安に思うか」「なにをやらないといけないか」などを丁寧に整理していくと不安を軽減できるでしょう。整理する方法としては、以下のようなものがおすすめです。

  • 相続に関する知識を付ける
  • エンディングノートや遺言書を作成する
  • 信託銀行などの専門家に相談する

整理しておくことで、相続させる側・相続する側の双方にとって不安を安心に変えることが期待できるでしょう。

執筆者紹介

續 恵美子(つづき えみこ)

1級ファイナンシャル・プランニング技能士(CFP)

生命保険会社にて15年勤務したのち、ファイナンシャルプランナーとしての独立を目指して退職。その後、南フランスに移住。夢と仕事とお金の良好な関係を保つことの厳しさを自ら体験。「生きる上で大切な夢とお金のことを伝える」をミッションとして、マネー記事の執筆や家計相談などで活動中。

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