相続対策は、多額の財産を所有している人や高齢の人だけが行うものと考えている人はいませんか?相続対策と聞くと、相続税を軽減させたり、遺産分割での争いを避けたりするためとイメージしがちです。しかし、基本的には「相続人が手続きに困らないようにしておく対策全般」を指すものと考えておきましょう。

このように考えておけば財産の多少や年齢にかかわらず、誰もが検討したほうが良いことが理解できるのではないでしょうか。本記事では、相続で考えておきたいことや、相続対策の基本と方法について解説します。

そもそも相続対策とは?

そもそも、相続対策とはどのようなことを指しているのでしょうか?一般的には、以下のようなことが挙げられます。

  • 遺言を書いておく
  • 生前贈与で遺産を少なくしておく
  • 不動産などの現金化しにくい資産を現金化しやすい資産に変えておくこと など

これらは、自分の死後に相続人同士が困らないようにするために行います。例えば、遺言を書くのは「誰にどの財産を承継したいか」という自分の希望を伝えるほか、「相続人同士でスムーズな遺産分割ができるように」という願いもあるからでしょう。また、生前贈与であれば、できるだけ資産を少なくしておくことで相続人が相続税の支払いに困らないようにしておきたい、などの理由があるはずです。

そう考えると、遺言や生前贈与、資産内容の見直しなどは、あくまでもいくつかある相続対策のひとつの手段といえます。また、そもそもの相続対策は、「自分の死後(相続発生後)に、遺族など近親者が困ると思われる心配ごとを事前に摘み取り、心配ごとをなくしたり、小さくすること」といえるのではないでしょうか。

そうであれば、相続対策は多くの財産を所有している人や一定年齢以上の人に特定されず、誰もが検討するべきなのかもしれません。なぜなら、相続自体は所有資産の多少や年齢にかかわらず、誰にでも発生し得るものだからです。

相続で対策を検討すべき4つの基本

具体的に必要となる対策は、家族の状況や財産内容などによって異なります。ただ、相続において対策を検討するべきことは、基本的に次の4つに大別できます。

家族の生活に関する対策

自分の死後に、家族が生活資金に困らないようにしておくための対策です。

相続手続きに関する対策

役所はもちろん、自分名義となっている財産や契約などに関し、家族が解約・名義変更などの手続きで困らないようにしておくための対策です。

相続人同士のもめごとに関する対策

相続に関して、相続人同士でもめごとが起こらないようにしておくための対策です。

相続税対策

相続税を軽減したり、納税資金で相続人が困らないようにするための対策です。

相続についての心配ごとを整理しよう

4つの相続対策の詳細を見ていく前に、まずは自分の死後(相続発生後)にどんなことで遺族が困りそうなのか想像してみましょう。例えば、次のような心配ごとが思い浮かんでこないでしょうか?

  • 生活口座は自分名義だが、口座凍結されたら家族は生活費をどう工面すればいいか
  • 自分の銀行口座や投資などは自分自身で管理しているが、家族はちゃんと手続きできるか
  • 財産はマイホームと投資用マンションのみだが、妻と子ども2人の間でどう分けたら良いか
  • 子どもは未成年だが、相続税がかかる場合はどのように支払いすればいいか

これらのほかにも、さまざまな心配ごとが浮かんでくるかもしれません。必要な対策法を検討しやすくするためにも、上の4つのどれに当たるかを整理しておきましょう。

家族の生活に関する対策

銀行口座の凍結や収入の停止などで、家族が生活していけるか不安がある人は、家族の生活資金を残しておく対策を検討しましょう。特に、自分(被相続人)の収入で家族の生活が成り立っている家庭では、大切な対策です。

どう対策する?

自分の財産状況や必要性に応じて、例えば次のような方法を検討してみましょう。

生前贈与で金融資産を家族に移転させておく

暦年贈与を活用し、贈与税のかからない範囲(年間110万円まで)で生前に財産を配偶者や子どもに贈与する方法があります。贈与者と受贈者の双方で「あげます」「もらいます」といった合意に基づき、家族に財産を分散させておくことで、自分の口座が凍結されても生活への影響を免れることができるでしょう。

ただし、以下のような贈与には注意が必要です。

  • 贈与契約書を作成していない
  • 子ども名義の預金に贈与したが通帳や印鑑は自分が管理している
  • 贈与分を現金で手渡しした など

こういった場合は、税務署から指摘されて贈与税がかかったり、相続財産に含まれたりする可能性があります。不安な場合は、金融機関など専門家のアドバイスを受けることも検討しましょう。

生命保険に加入しておく

生命保険の受取人を配偶者や子どもなど、家族に指定するのも方法の一つです。支払われる死亡保険金は、受取人固有の財産となります。

信託商品を活用する

信託銀行などが取り扱っている信託商品を活用するのもおすすめです。具体的な商品内容は、金融機関によって異なります。一般的には、一定額を信託金として預けておくと、相続発生時に信託銀行があらかじめ指定された受取人に、一括または年金として支払ってくれる金融商品です。家族は、そのお金を生活資金や葬儀にかかる資金、納税資金などにも使えます。

例えば、三井住友信託銀行であれば「家族おもいやり信託〈一時金型〉・〈年金型〉」を提供しています。

相続手続きに関する対策

相続が発生すると、亡くなった人名義の預貯金や有価証券、保険などを解約・換金・受け取るためのさまざまな手続きが必要です。他にも、自動車やクレジットカード類、ローンがある場合はその契約に関する手続きなど、家族がやるべきことはたくさんあります。内容を把握するだけでも大変になるため、できるだけ家族の負担を少なくする対策をしておきましょう。

どう対策する?

家族が相続手続きに困らないために、例えば次のような方法を検討してみましょう。

財産を整理しておく

家族の負担を軽減できるように、財産の整理は重要です。例えば、複数の銀行口座を所有している場合には、用途に応じてまとめたり、整理しておきましょう。クレジットカード類も同様です。また、ローンはできるだけなくし、家族に負担をかけないように心がけましょう。

財産目録やエンディングノートを作成しておく

財産目録やエンディングノートを作成し、財産および契約の種類、取引金融機関などをまとめて記載しておくのもおすすめです。家族がどこで、何の手続きが必要なのか把握しやすくなります。作成しながら自分自身も財産内容を再確認でき、財産の整理もしやすくなります。

遺言信託を活用する

財産を整理して、家族に分かるようにするだけでなく、遺産分割まで考慮し対策しておきたい人は、遺言信託を活用する方法もあります。遺言信託とは、信託銀行が提供しているサービスで、遺言書作成前の相談から作成実行、遺言書の保管、執行まで、遺言書にかかる一連の手続きをサポートしてくれるものです(遺言書の保管までを行うサービスもあります)。

相続が開始すると、家族は信託銀行より渡される遺言書によって、財産内容や分割方法を知ることができます。具体的なサービス内容は信託銀行によって異なりますが、遺言書にもとづいて、預貯金・有価証券などの換金や、不動産等名義変更手続きなども行ってもらえるため、家族の負担が大きく軽減される点がメリットです。

相続人間のもめごとに関する対策

遺産をめぐって「相続人同士でもめるのは避けたい」「分け方が難しい」など、遺産分割に関する不安を持つ人は、相続争いを避けるための対策をしておきましょう。もし、相続税の申告期限までに分割協議がまとまらなければ、原則として相続税軽減の特例も受けられなくなってしまいます。

なお、家族仲が良く、もめることはないと思っていても、財産をめぐってトラブルが生じるケースも少なくありません。特に、不安を感じない人も「もめごとの対策」をしておくことをおすすめします。

どう対策する?

円満な遺産分割となるように、次のような方法を検討してみましょう。

遺言書を作成しておく

遺言書で財産の分け方を指定しておくことで、遺産をめぐる争いを避けることにつながります。ただし、分け方が不公平であったり、内容に不備があったりすると、せっかく遺言書を作成してもトラブルとなる可能性もあるため、遺言書の作成に不安がある人は専門家に相談することも検討しましょう。

財産の組み替えをしておく

不動産など、換金しにくい資産の割合が大きいほど、分割に関するトラブルが生じやすくなります。不動産と金融資産のバランスを計り、財産の組み替えを検討してみましょう。

金融資産を増やしておくのも有効です。例えば、不動産を相続した人が、その他の相続人に一定の代償金を支払う代償分割に備えることもできます。金融資産は預貯金だけでなく、生命保険を活用することも選択肢の一つです。

相続税に関する対策

相続税に関する不安を持つ人は、相続税対策をしておきましょう。相続税は、相続が発生したことを知った日の翌日から10ヵ月以内に申告・納税することになっているため、遺産分割や手続き対策とあわせて実行しましょう。

どう対策する?

ひとくちに相続税対策といっても、相続税が大きくならないようにするための対策や、家族が相続税の支払い資金に困らないようにするための対策などがあります。心配する内容に応じて、次のような方法を検討してみましょう。

生前贈与で財産整理をしておく

基本的に、相続税は相続時の財産額をもとに計算されるため、生前贈与で財産を少なくしておけば、相続税がかからなくなったり、少なくしたりできる可能性があります。前述したように、生前贈与によって相続人の金融資産を増やせるため、納税資金を準備できる効果も期待できるでしょう。

ただし、2022年時点の相続税法では相続開始前3年以内に行った贈与について、相続財産に含めなければなりません。生前贈与を検討している人は、できるだけ早めに行うのがいいでしょう。本記事は、2022年時点の税制に基づき説明していますが、将来的に贈与や相続に関する税制が変わり、効果が期待できなくなる可能性は否めません。

相続税の特例制度を活用する

「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」などの活用で、課税価格の減額、一定額以下であれば配偶者の相続税をかからなくする、といったことができます。財産の状況を確認し、特例の条件に当てはまるか確認してみましょう。

収益用不動産を購入し、相続財産評価を低減する

土地を所有している人は、賃貸用建物を建築することで土地にかかる相続税評価が低減する可能性がります。また、マンションなどを購入して賃貸すれば、金融資産をそのまま所有し続ける場合に比べて一般的に相続税評価額が低くなります。

ただし、この方法は税制上の注意点や生存中の資金需要などの注意点があります。また、建築・購入によって多額の資金を使うことになるため、財産バランスが崩れないようにする必要があります。本コラムでは、一般的な説明をしており、例外的な取扱いもございますので、実行の際には税理士等専門家へ相談や確認をされることをおすすめします。

不動産や貴金属、ゴルフ会員権、自動車などを売却し、金融資産を増やしておく

納税資金に関して心配している人は、不動産や貴金属、ゴルフ会員権、自動車などを売却し、金融資産を増やしておくのがおすすめです。前述した、家族の手続きへの負担軽減や、もめごと防止にもつながります。

相続対策をするうえで大切なこと

相続に関するさまざまな心配ごとをなくそうと考える余り、過度な対策とならないように注意しましょう。例えば、生前贈与をしすぎて自分と家族の生活に支障が出るようであれば本末転倒です。ここでは、相続対策をするうえで大切な3つのポイントを心得ておきましょう。

  • 1.
    生存中の生活費の確保もしておく
  • 2.
    早めに行動する
  • 3.
    信託銀行など専門家に相談する

不動産の購入など、多額の資金を要する対策方法を検討する場合には、生存中の生活への負担も考えながら行いましょう。これから築く財産も含め、「生存中に必要な財産」「遺す財産」を意識しながら金融機関や金融商品を選んでください。冒頭で「年齢に関係なく、誰もが相続対策を行いたい」と述べましたが、相続はいつ起こるか分かりません。

そう考えると、ただ早めに検討するだけでなく、実際に行動していくことが大切です。対策方法によっては、時間がかかるかもしれません。また、贈与のように相続発生時と時期が近いとせっかくの対策が効果を生み出せない場合もあります。加えて、相続対策には専門的な知識が必要です。自己判断で難しいと感じる場合は、迷わず信託銀行などの専門家に相談し、アドバイスを受けましょう。

自分には関係ないと思わず、早めに検討・対策を

今回は、さまざまな相続対策を紹介しました。相続対策は、たくさん財産がある場合だけに行うものではなく、財産額の多少や年齢にかかわらず、誰にとっても必要です。決して他人ごとではなく、「自分ごと」として取り組んでください。

また、相続対策は心配ごとに応じた対策がたくさんあるため、事前に手立てを打ち、相続に関する心配ごとを軽減させることが重要です。もし、自分だけで相続対策が難しいと感じる場合は、信託銀行などの専門家の力も借りながら、いつ起こるか分からない相続に備えて、早めに対策を始めましょう。

執筆者紹介

續 恵美子(つづき えみこ)

1級ファイナンシャル・プランニング技能士(CFP)

生命保険会社にて15年勤務したのち、ファイナンシャルプランナーとしての独立を目指して退職。その後、南フランスに移住。夢と仕事とお金の良好な関係を保つことの厳しさを自ら体験。「生きる上で大切な夢とお金のことを伝える」をミッションとして、マネー記事の執筆や家計相談などで活動中。

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