終活はどう進める?まずはエンディングノートを書いてみよう

終活について考えたことはあるでしょうか。自分に万一のことがあったとき、「残された家族に自分の希望を伝えておきたい」、「葬儀や財産の整理、お墓の準備をしておきたい」と考えているならば、終活の準備としてまずはエンディングノートを書くことをおすすめします。
「遺言書の作成」となると抵抗があるかもしれませんが、エンディングノートなら気軽に書くことができます。「残された家族にしてあげたいこと」「自分が最後にしてほしいこと」などを書いておくことは、人生の終わり方や残された時間の過ごし方を考えるよいきっかけになるでしょう。
本記事では、終活の概要を解説するとともに、エンディングノートに書く項目や役割についても紹介します。
終活とは?終活の目的やメリットを解説
最初に、終活をする目的や終活によるメリットについて見ていきましょう。
終活の目的とは?
終活とは、残された時間を自分らしく有意義に過ごすために、元気なうちから自分の人生の終わり方を考え準備をしておくことです。一緒に住んでいる家族がいれば、家族に囲まれて最期を迎えることもできます。ただ、少子高齢化や核家族化が進行している現代では、子どもたちと離れて独りで人生の終末を迎えるケースも少なくありません。
終活を意識する年代に差しかかってくると、もし自分に万一のことがあったらと考えることもしばしばでしょう。万一の時に備えて、元気なうちから財産の整理や亡くなったあとのさまざまな手続き、法的な問題を解決する準備をしておけば、老後の不安や家族の負担を軽減できるのではないでしょうか。
また終活を行うことで、不安や心配が解消され、自分の死について前向きに考えられるようになれば、残された時間を有意義に過ごすことができるでしょう。
終活のメリット
終活を行うと、主に以下の3つのメリットがあります。
1.残された家族の負担が軽減される
財産の残し方や、葬儀、お墓などの希望を生前に家族へ伝えておけば家族も安心です。終活は、家族にとっても不安の解消や負担の軽減につながります。故人の意思や亡くなられた方の情報が少ないと、相続財産にどのようなものがあるのか調査するのに時間と手間がかかります。
なお、相続税の申告・納付期限は、相続の開始を知った日の翌日から10ヵ月以内です。
情報がまったくないと、調査に時間がかかり、期限内に相続税の申告と納付の手続きが間に合わない可能性があります。
2.資産を正確に把握し、効率よく計画的に資産の承継ができる
生前に財産を整理する場合は、今ある資産を正確に把握する必要があります。資産状況を正確に把握できれば、その後も効率的に資産を運用したり承継したりできるようになり、家族に多くの財産を残すことができます。生前贈与や、相続税支払い資金の確保、資産運用といった相続対策は、多くの場合、早く手を付けるほどその効果が期待できます。
3.生きがいをもって残りの人生を過ごせる
終活で自分の希望を叶えていくことは、自分の人生を希望通りに終えるために残された時間を有意義に過ごすことにつながります。エンディングノートを作成することも終活の一部であり、自分らしく生きがいをもって残りの人生を過ごすために役立つでしょう。
終活の進め方 終活でやっておきたい6つのポイント
介護や病気の治療、葬儀、お墓の問題など、年を重ねるほど心配ごとが増えていきます。人生の最後を独りで迎えるケースも増えており、頼れる家族がいない方ほど終活が必要といえます。ここでは、終活をする際にやっておきたい6つのポイントを紹介します。
1.財産の生前整理と資産の把握
預貯金や金融資産がどこにどれだけあるか分かるようにしておくことが大切です。普段から使っている通帳や証券会社に預けている株式や投資信託、生命保険の種類や金融機関名などを整理し、自分が老後に必要な資金と家族に残したい資産や資金を分けて管理するのがよいでしょう。
もし、自分自身に借入金があったり保証人になっていたりする場合は、マイナスの財産も整理し明確にしてください。相続放棄は相続があったことを知った日から3ヵ月以内に裁判所へ申述する必要があります。残された家族が借入金や保証人といった負債の事実を知らないと、日数が経過して故人の負債を背負うことにもなりかねません。
また、クレジットカードなどは、何枚も持っていると解約の手続きに時間と手間がかかります。使っていないカードは解約して、必要最小限のカードだけ残しておくとよいでしょう。さらに、使っていないカードローンなども必要がなければ解約するのが賢明です。もし、利用している場合でも余裕があるのであれば完済して解約しておくと残された人の手続きの負担を軽減できます。
また、不動産や貴金属、美術品などの財産もリスト化して分かるようにしておくことが必要です。場合によっては、生前贈与や現金化することも検討しましょう。
2.エンディングノートを作成する
エンディングノートとは、残された家族や友人に自分自身の希望や想いを書き残したり、自分がどのように余生を過ごしたいかを書いたりしておくノートです。遺言書と異なり法的拘束力はありませんが、自分が普段から思っていることや伝えたいことを自由に残しておくことができます。エンディングノートは、死後のことだけではなく次のようなことを伝えるのにも役立ちます。
- 老後、体が不自由になったり、判断能力に不安が生じたりしたときの介護のこと
- 終末期の医療のこと
- 生前にしてほしい自分自身の考え
本人の意思が確認できない状況での延命治療などの決断は、家族としても精神的な負担が大きなものとなります。しかし、自分自身の考えや希望を書き残しておけば、残された家族へ自分の意思を間接的に伝えることができるため、苦渋の決断を要する際でも家族の精神的な負担を和らげることができるでしょう。
エンディングノートには、プライバシーに関する重要な情報を書くことになります。そのため、保管場所についてはよく検討したうえで、ノートの存在と保管場所を家族に知らせておくことが大切です。
3.遺言書の作成
遺言書があれば、その遺言書に沿った遺産分割ができるため、自分の希望に合った遺産分割が可能となり、相続人の間でのトラブル防止にもつながります。また遺言書には遺言執行者を指定することも可能です。遺言執行者とは、相続財産を管理したり遺言を執行したりするすべての権利と義務がある人を指します。そのため、遺言書に遺言執行者を指定しておくことも選択肢の一つです。
遺言書作成を検討している段階では、財産目録を作成する方法や生前贈与の方法、公正証書遺言とするか自筆証書遺言とするかなどを事前に調べておく程度で問題ありません。その内容をエンディングノートなどに記載し、遺言書の種類を決めておくのもよいでしょう。
4.葬儀やお墓の準備
亡くなってから悲しみのなかでお通夜や葬儀の準備をするのは、家族にとって分からないことも多く、精神的な負担も大きなものとなります。葬儀費用も参列者の数や祭壇の種類によって大きく異なるため、詳細なことまで決めておけば、家族も安心して葬儀に臨めるでしょう。また、金融機関などの預金は、死亡の事実が知られると口座凍結され遺産分割協議書が作成されるまで基本的には引き出せなくなります。
そのため、出金できなくなることも踏まえたうえで、生命保険の受取人を変更し、保険金を喪主が受け取れるようにしておくことも方法の一つです。亡くなられたあとの葬儀費用の準備まで考えておけば、家族はより安心できるでしょう。
また、自分の体が弱っている状態では、葬儀やお墓のことまで気が回らない場合もあります。そのため、「家族がお墓を承継するのか」「新しくお墓を買うのか」といった内容は、できるだけ元気なときに詳細なことまで決めておきたいものです。
5.老後の資金
現在の生活費や年金収入、不動産収入など、収支のバランスを計算し、老後の資金計画を立てておくことが大切です。やりたいことがあっても、すべてのお金を使ってしまうわけにはいきません。もし、老後の生活費が不足する可能性がある場合は、リバースモーゲージローンなどを利用して自宅を担保に生活資金の融資を受ける方法もあります。
残された時間を有意義に過ごすためには、老後資金を計画的に蓄えておくことが重要です。
6.デジタルデータを整理する
デジタルデータは、本人しか把握していないことが多い傾向です。そのため、スマートフォンやパソコンなどのデジタル機器のデータやSNSのアカウント、インターネットのクラウド上に保存されているデータを元気なうちに整理しておきましょう。他人に見られたくない個人情報や、ネット通販などのクレジットカード情報などは、悪用される恐れがあるため注意が必要です。
エンディングノートの役割や書き方
ここからは、終活の中でも始めやすいエンディングノートの役割や書き方、作成するタイミングについて解説します。
エンディングノートの役割と作成するタイミング
「亡くなった際に誰に連絡しなければならないのか」「葬儀やお墓はどこで手配すればよいのか」など、家族でも故人しか知らない情報があると悩んでしまうことがあります。
エンディングノートは書き方にも決まりがないため、「自分が思うこと」「伝えたい情報」などを自由に書くことができます。エンディングノートを作成するタイミングは、自分の人生の終わり方や残された時間の過ごし方を考えるきっかけがあったときです。最適なタイミングは、人によって異なりますが、余裕をもって考えるためにも、できるだけ早いほうがよいでしょう。
例えば、作成しようと思う主なタイミングには、次の3つのようなものがあります。
1.大きな病気を患ったときや大ケガをしたとき
大病や大けがなどをしたときには、万一を考え、家族のことが心配になる人も多いかもしれません。家族や親しい友人がそのような場面を経験した場合にも、自分ごとのように考え、心配になるのではないでしょうか。
2.親や配偶者、同世代の友人が亡くなったとき
親や配偶者が亡くなって、自分が相続の手続きをする立場になると手間や時間がかかることが実感できるでしょう。相続手続きの経験は、わが身を振り返り、自分の残りの人生と向き合うきっかけとなります。また、職場の同世代の同僚や同級生が亡くなった際も、死を身近に感じて、自分の人生を振り返るきっかけとなるかもしれません。
3.会社の定年を迎えたとき
会社の定年を迎えたときも、人生の節目として老後の残された人生をどのように過ごすか考えるきっかけとなります。「老後の資金に不足がないか」、「第2の人生をどのように過ごすか」など、人生の分岐点を迎えたときは、エンディングノートを作成するタイミングといえるでしょう。
遺言書とエンディングノートの違い
上述したように、エンディングノートは法的な拘束力はなく自由に作成できます。一方、遺言書には法的な拘束力があるため、記載できる内容が厳密に法律で決められています。要件を満たさないと無効となる恐れがあるため注意が必要です。
エンディングノート | 遺言書 | |
---|---|---|
法的効力 | なし | あり |
書き方 | どのように書いても良い | 決まった形式で書く必要あり |
内容 | 自由(生前のことを記載しても良い) | 相続財産の処理について記載する必要あり |
作成費用 | 無料~数千円 | 無料~数百万円 |
相続人等が確認するタイミング | 死後すぐにもしくは生前でも可能 | 死後に所定の手続きにより開封(家庭裁判所の検認を受けた後にしか開封できない場合もあり) |
エンディングノートの書き方
エンディングノートの形式は自由です。紙に書くこともパソコンやスマートフォンで作成することもできます。法的な拘束力もないため、気軽に作成できて何度でも書き直せます。形式に決まりがないため、あまり深く考えず、自由に思いついたことから記入してください。
エンディングノートに書く内容としては、次のようなものがあります。
- 1.自分について(住所・氏名・本籍・経歴・マイナンバーや運転免許証の保管場所など)
- 2.家族について(家族構成、親戚関係)
- 3.友人関係(親しい交友関係、職場や所属している団体の連絡先)
- 4.医療・病院関係(かかりつけ医や病院、既往歴・持病、延命措置や終末期医療の希望など)
- 5.身辺の整理事項(デジタルデータ・SNSなどのアカウント・IDパスワード、電子マネーのアプリ、契約している音楽や趣味などの有料サービス、クラウド上の写真や動画、友人へあげたいもの、ペットのことなど)
- 6.財産について(預貯金の種類や金融機関名、不動産・有価証券・株式や投資信託、生命保険、貴金属・骨とう品・美術品などの財産、ローンなどマイナスの財産、クレジットカード、保証債務、年金の情報)
- 7.葬儀やお墓の希望(葬儀業者、葬儀のスタイル、予算、遺影に使用する写真の希望、喪主・埋葬方法の希望、墓地やお寺の場所、墓石の希望、宗教や宗派の種類)
- 8.遺言書の有無(遺言書の種類や保管場所)
- 9.家族、友人へのメッセージやその他補足事項(受け取ってほしい物、感謝の気持ち)
終活に利用できる商品
終活に利用できる商品に、信託銀行など金融機関の「遺言信託」があります。遺言信託とは、専門的なアドバイスを受けながら遺言書を作成し、保管から遺言執行まで責任をもって金融機関が手続きするサービスの総称です。残された家族は、相続の手続きなどでわずらわされることなく、遺産分割ができます。
例えば、保険金は受取人の固有財産です。そのため、終身保険などの保険商品の受取人をあらかじめ指定しておけば、遺産分割協議書を作成していなくても、保険金で葬儀費用や当面の遺族の生活費などを確保できるでしょう。そのほか、葬式や埋葬の手配、クレジットカードの解約、公的年金の届け出など死後の事務をサポートし、エンディングノートを電子媒体で預かる信託商品もあります。
死後の事務にかかる費用を精算し、残りの資金を指定の受取人に支払うサービスなど、信託銀行には終活を考えている方に適した商品がたくさんあります。相続の専門家でもある信託銀行に相談し、終活に適したアドバイスを受けてはいかがでしょうか。
執筆者紹介
加治 直樹(かじ なおき)
1級ファイナンシャル・プランニング技能士、社会保険労務士
銀行にて20年以上勤務したのち、かじ社会保険労務士事務所として独立。銀行員時代は、不動産融資、資産運用、年金相談等幅広く業務を経験。現在は、労働基準監督署で企業や個人の労務相談を受ける傍ら、金融・保険・住宅ローン等をテーマにしたセミナーを開催している。
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