最近、メディアでインフレーション(物価の上昇、以下「インフレ」という)の話題が採り上げられることが多くなりました。インフレが生じた場合、消費財の価格上昇が家計の圧迫に繋がる側面がありますが、その一方で保有している資産(例:不動産、貴金属など)の価値の上昇が期待できる側面もあります。一般的に、インフレ局面においては、経済活動が活性化し、企業業績や賃金水準の上振れが期待される一方で、景気の過熱やインフレの抑制を目的として、「金利の引き上げ」等の金融引き締め策が発動されることがありえます。

足もとは、まだマイナス金利政策が解除された段階にすぎませんが、インフレ局面の到来を見越し、“金利のある世界の到来”に関する報道が増えてきています。

こういった環境で、現在、住宅ローンを変動金利で借りている方は、金利上昇によって負担が増加するのでは、とその影響を気にされている方も多いのではないでしょうか。このコラムでは、現在、変動金利で借りている方に向けて、“金利のある世界”における住宅ローンとの付き合い方をご紹介します。

Aさん(住宅ローンご利用者)

ニュースなどで「金利上昇」の話をよく聞くのですが、私が今借りている「住宅ローンの変動金利」も上がるのでしょうか。

Bさん(資産のミライ研究所研究員)

確かに、変動金利で借りている方にとって、「金利上昇」のワードは、家計への影響が気になり、ご不安ですよね。そこでまずは、ニュースでよく聞く「金利上昇」と「住宅ローン金利」がどんな関係なのかをみていきましょう。

「金利上昇」と「住宅ローン金利」への影響の関係は

まず、「住宅ローンの変動金利」は、借入期間中に適用される金利が変動する商品性ですが、当社を含む多くの金融機関では、「短期プライムレート」という短期の金利を指標に金利水準を決めています。この「短期プライムレート」とは、民間の金融機関が最も信用力のある企業に1年未満の短期間で貸し出すときに適用する最優遇貸出金利のことで、日本銀行の政策金利の影響を受けます。

なるほど。

日本銀行が決めている政策金利の動向ですが、「物価と賃金の上昇」が見られる場合、引き上げの方向に作用します。将来の見通しなので、確実なことは申し上げられませんが、足元では「物価と賃金の上昇」の好循環がみられることから、今後、徐々に政策金利が引き上がる可能性は十分あります。そのため、今後、「短期プライムレート」も上昇し、「住宅ローンの変動金利」も徐々に上昇する可能性があるといえます。

金利上昇時のシミュレーション例や変動金利における返済額の変更ルール(5年毎返済額見直し方式・125%上限方式など)は、以下のコラムでご紹介していますので、参考にしてください。

【当社住宅ローンをご利用中のお客さま向け】変動金利コースの金利が上がったら返済額はどうなる? 返済額変更のルールをおさらい!

金利の上昇にどう備えればいいですか?

金利の上昇への備え、皆さんはどう考えているのでしょうか?

我々、三井住友トラスト・資産のミライ研究所(ミライ研)の調査データを見てみましょう。変動金利で借りている人に、「今後の住宅ローンの金利が上昇した場合の対応」をヒアリングしたところ、図表1のようになりました。金利上昇に対して「一部繰上返済を行う」という回答をした人がどの年代も一番多いようです。一方で、「他の金融機関への借り換え」を検討する人も一定割合いるようです。

図表1 住宅ローン金利が上昇した場合の対応について
(現在変動金利で住宅ローン返済中の方:665名)
住宅ローン金利が上昇した場合の対応について<br>(現在変動金利で住宅ローン返済中の方:665名)の表

単位:% 複数回答可
(出所)三井住友トラスト・資産のミライ研究所「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2024年)

何だか、繰上返済を考える人が多いですね。

また、「繰上返済」も「借り換え」も、年齢が上がるにしたがって回答比率が下がっている一方で、「全額繰上返済をする」という回答と「返済に困らないので何もしない」という回答が50歳以降で両方とも上昇しています。なぜでしょうか。

良いところに目をつけましたね。お借り入れから一定期間経過していれば、ローン残高が減ってきます。元利均等返済であれ、元金均等返済であれ、残りのローンに対する利息負担部分は少なくなっているはずです(図表2)。

そのため、返済期間中にある程度、ローン返済と資産形成を両立できていれば、一括で繰上返済する家計の余力があるかもしれません。また、返済がある程度進んでいれば、金利負担自体も少なくなっていることも考えられますので、残りのローンに対する金利上昇の影響はそこまで大きくないと考え、何もしなくても大丈夫、という考えに至る人もいるのでしょう。したがって、変動金利で借りている人のなかでも、返済の進捗状況によっても金利上昇の影響度は変わってきます。

図表2 ローン借り入れから一定期間経過している人の金利負担 ローン借り入れから一定期間経過している人の金利負担のイメージ図

確かにそうですね。しかしながら、私はまだまだ返済が続きますので、ぜひ今後の金利上昇に備える方法について教えてください。

わかりました。ここでは、住宅ローンお借り入れ中の代表的な対応として挙げられる、「繰上返済」と「借り換え」の2つの方法を解説します。

繰上返済

元金の一部または全部を余裕資金でまとめて返済する方法

借り換え

金利の高い住宅ローン返済途中において、金利の低い住宅ローンを借り入れて、返済中の住宅ローンを全額返済する方法

金利が上昇した場合の選択肢① 繰上返済

まず、手元に余裕資金がある場合、住宅ローンを一部繰上返済する選択肢を見てみましょう。

繰上返済をすることで、今後の金利負担を減らすことが期待できます。

具体的には、2つの方法があります。

「①期間変更方式」は、図表3の左図のとおり、繰上返済により返済期間を短縮する方法です。例えば、残り20年のローンが、2年短縮され、18年になるといった具合です。

「②返済額変更方式」は、図表3の右図のとおり、将来の返済額を軽減するための方法です。例えば、毎月10万円返済している場合に、返済額が毎月8万円になる返済方法です。

一般的には、「①期間変更方式」の方が、利息の軽減効果がより期待できますが、主たる効果が異なるので、いずれかの方法のうちご自身に適した方法を選びましょう。

図表3 繰上返済の方法 ※元利均等返済の場合 繰上返済の方法のイメージ図 ※元利均等返済の場合

上の図は金利が一定の場合のイメージです。金利上昇局面では、繰上返済しても返済額が増額となる場合があります。

資金に余裕があれば、早めに繰上返済をした方が得なのでしょうか。

たしかに、繰上返済により、金利負担を減らすことは期待できます。

一方で、手元に余裕資金があるから直ちに繰上返済に踏み切るのは早計です。まずは、金利上昇が、どの程度インパクトがあるのかをシミュレーションしてみることが重要といえます。

手元に資金があるのに、繰上返済をしない選択をするのは、どういう観点なのでしょうか。

具体的には、手元の資金や今後のライフイベント費用の想定との兼ね合いです。

例えば、住宅ローンを繰上返済したあとに手元資金の余裕がなくなったタイミングで子どもの学費がまとまった金額で必要となった場合、教育ローンで学費を調達しようとすると、住宅ローンよりも高い金利で借り入れることになるでしょう。それよりは、将来のライフイベントに備えて、ローンを返済しながら資産形成も両立することが重要かもしれません。

少し具体的に試算してみましょう(図表4)。

手元に100万円がある場合、これを原資に「繰上返済をした場合の利息軽減額」と「資産運用した場合の運用収益」で比較してみます。

まず、4,000万円の住宅ローン(借入期間35年・変動金利コース年0.475%・元利均等返済方式、ボーナス返済なし)を借りている前提条件の下、お借り入れから5年目以降に100万円を繰上返済(期間変更方式)します。

金利に変更がないと仮定した場合、11か月の期間短縮、利息支払いは約15万円軽減となります。

次に、資産運用した場合をみてみましょう。

お借り入れから5年目以降に、100万円を年3%で複利運用できたと仮定します。

⇒30年後(お借り入れから35年後)には、運用収益が約142万円となっています。

ただし、年3%の複利運用を実現するには、一般的に元本の保証がない投資信託などを活用して資産運用する必要があるため、損失が生じるリスクがあります。

本数値は商品の利回り等を保証・示唆するものではありません。また、税金・手数料等は考慮していません。本数値は一定の運用条件を前提として試算したものであり、運用条件の変化等により試算結果は異なるものとなることから、将来の結果を保証するものではありません。詳しくはページ最後に記載の【投資信託についてのご注意事項】をご確認ください。

図表4 繰上返済と資産形成の考え方 繰上返済と資産形成の考え方のイメージ図

たしかに、どの程度手元資金を置いておくかを考えるのが先決ですね。また、資産運用との両立も検討することが重要だとわかりました。

また、住宅ローンには、原則、団体信用生命保険もついています。住宅ローンの残高が減るということは、保障される金額も減ることになります。

加えて、住宅ローン減税の適用を受けている世帯もいらっしゃるかもしれません。住宅ローン減税の適用を受けている世帯においては、繰上返済により借入元本が減ると控除額も減少することから、繰上返済しないほうがメリットを享受できるケースも考えられます。

金利が上がりそうだからといって、早計に繰上返済に手を付けるのではなく、まずはライフプランのシミュレーションなどを行って、家計の資産をどのように振り分けるかを考えたほうが良さそうですね。

金利が上昇した場合の選択肢② 借り換え

続いて、借り換えについても見ていきましょう。

借り換えは、今借りている金利よりも低い金利で借り入れができる金融機関のローンに乗り換えることを指します。なお、金利の比較時においては、金融機関によって、「新規借り入れ」の金利水準と「借り換え」の金利水準を分けているケースがありますので、各金融機関の「借り換え」の金利水準を見てみるとよいと思います。

現在借りている金利水準より、わずかでも低ければ、借り換えを行った方が良いのでしょうか。

借換金利が現行の金利よりも低い場合でも、直ちに借り換えたほうが得とは言い切れません。

借り換えには諸費用が掛かりますので、「借り換えに関する各種費用(手数料、登記費用等)を差し引いたうえで、借り換えメリットが出るか」という点で見ておく必要があります。

メリットが出る条件は、一概には言えないのですが、ざっくりとメリットが得られる条件は、一般的には図表5のようなものが目安といわれています。また、これに加えて、団体信用生命保険(団信)についても、借り換えをすれば旧保障はなくなりますし、もちろん疾病保障を付帯している場合は、それもなくなることになります。また、お借換先の住宅ローンに付帯する団信において特約などをつけようとした場合に、年齢などの条件により、同様の保障が得られない可能性もありますので、ご注意ください。

図表5 借り換えの目安(イメージ) 借り換えのメリットが得られる目安 検討先との金利差が年1.0%以上あること ローン残年数が10年以上残っていること 借入残高が1,000万円以上あること など

記載の水準はイメージです。

たしかに、借り換えの場合でも、保障や借り換えに関する各種費用(手数料、登記費用等)などを含めて、注意しないといけないことが色々あることが分かりました。

ぜひ、ご自身のケースでメリットが出そうか、借り換えシミュレーションなどを行い、慎重に検討することをおすすめします。

参考:三井住友信託銀行「住宅ローン返済シミュレーション」新規ウィンドウで開く

まとめ ~金利上昇への対応は慎重に~

ここまで、住宅ローンお借り入れ中の代表的な対応方法である「繰上返済」と「借り換え」を検討する際に押さえておくべきポイントをご紹介してきました。

いずれの対応をとるにしても、手元資金の状況や今後のライフイベント、今後の収入想定などを含めて、総合的に考えなければいけません。最適な解はお客さまの状況によって違いますので、ぜひ、お悩みがあればお気軽にご相談いただくことをおすすめします。

執筆者紹介

清永 遼太郎(きよなが りょうたろう)

2012年に三井住友信託銀行入社。2015年より確定拠出年金業務部にて企業のDC制度導入サポートや投資教育の企画業務等を担当。2019年より大阪本店年金営業第二部において、企業年金の資産運用・制度運営サポート業務に従事。2021年から現職において、資産形成・資産活用に関する調査研究並びにコラムや書籍の執筆、セミナー講師を務める。

2022-2023年 老後資産形成に関する継続研究会委員(公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構)。2024年度よりウェルビーイング学会ファイナンシャル・ウェルビーイング分科会副座長。

三井住友信託銀行公式YouTubeチャンネル新規ウィンドウで開くにて、「信託さん」として出演! 人気の「教えて!信託さん【資産形成編】」シリーズは、累計100万回再生超!!(※YouTube 三井住友信託銀行 公式チャンネルに遷移します。)

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