認知症になったらお金の管理は誰がする!?

認知症とは?
認知症は、脳の病気や障害など様々な原因によって、認知機能が低下し、日常生活や仕事に支障が出てくる状態を指します。認知症の中で最も多い、「アルツハイマー型認知症」は、脳神経が変性して脳の一部が萎縮していく過程でおきる認知症です。その他にも「まだら認知症」が特徴で脳梗塞や脳出血などに起因する「血管性認知症」やスムーズに言葉が出てこない、感情の抑制がきかなくなるといった症状が現れる「前頭側頭型認知症」、幻想が見え、手足が震えたりする症状が特徴の「レビー小体型認知症」などがあります。
認知症の実態
内閣府の「高齢社会白書(2017年版)」によると、2012年の時点では65歳以上の約7人に1人が認知症を発症(有病率15%)と推計され、2025年には約700万人(高齢者の約5人に1人)が認知症になると予測されています。高齢社会の日本では認知症に向けた対策が今後ますます重要になります。
認知症の傾向
「厚生労働省科学研究費補助金認知症対策総合研究事業報告書(研究代表者:朝田隆、2013年)」によれば、2013年の時点で65歳以上の約16%が認知症患者であるのに対し、80歳代後半では男性の約35%、女性の約44%、95歳を過ぎると男性の約51%、女性の約84%が認知症になっています。
もし自分が認知症になったら?
初期段階では、「加齢による物忘れ」と捉えられがちですが加齢との違いは「日常生活に支障を“きたす”か“きたさないか”」などが挙げられます。
加齢の症状 | 認知症の症状 | |
---|---|---|
原因 | 老化 | 脳の神経細胞や血管障害 |
症状の特徴 | 物忘れの自覚があり、ヒントがあったら思い出す | まるごと忘れてしまう |
進行スピード | ゆっくり | はやい |
認知症の場合は、今後のライフプランや万一の際の手続きの希望など、本人が決めたり家族と話し合うこと難しくなるので元気なうちから対策を始めることが大切です。
口座凍結のリスク
銀行は原則、本人以外からの預金引き出しには応じてくれません。認知症により口座凍結となった場合、解除するには成年後見制度を利用するのが原則です。家庭裁判所へ申立を行い、成年後見人を選定します。その後に銀行へ口座凍結の解除の手続きを行います。家族以外(弁護士や司法書士など)が選任されることもありますが「家族や本人の意向が必ずしも反映されるとは限らないこと」や「報酬の支払い」といったリスクや負担も伴います。更に一般的に成年後見人を選定するには3ヶ月前後かかると言われており、時間がかかる点にも注意が必要です。
契約が結べないリスク
認知症により判断能力が低下しているとみなされると、金融商品の契約や不動産の売買契約を自身で行うことが難しくなります。例えば、老人ホーム等の介護施設に入居をしたいときや自宅を売りたいときに、契約ができない可能性があります。
また贈与や遺言書作成といった相続対策等も行うことが難しくなるので注意が必要です。
身の回りのことができなくなるリスク
預金の引き出しや振込といった資金の管理だけでなく、どこに何を保管しておいたか忘れてしまうなど、日常生活にも支障が生じる可能性があります。
認知症にそなえて事前にできること
ここまで記載の事態にそなえ、健康なうちから事前に準備をしておくことが重要です。始めに資金の管理面です。生活費や入院費、施設入居のための費用の準備はさることながらそれを家族が使えるようにしておくことが大切です。次に自分の所有財産(預貯金だけでなく有価証券や不動産も)を確認し、万一の際の希望を明らかにしておきましょう。そのためには法的に有効な遺言書の作成などが有効です。認知症の病状が進行すると、遺言能力が無いと判定され、作成できないというケースも出てきます。
信託を活用した財産管理
「口座凍結」といった資金の管理に対するそなえとして、三井住友信託銀行の商品で、「人生100年応援信託〈100年パスポート〉」があります。「ねんきん受取機能」、「防犯あんしん機能」、「まかせる支払機能」、「おもいやり承継機能」の4つの機能をパッケージ化した商品です。中でも「まかせる支払機能」は元気なうちに信託元本を預入れ、家族等を「手続き代理人として指定(併せて、手続き代理人による払い出しチェックを行う同意者を指定することも可能)しておきます。判断能力低下前は本人でも引き出すことができますが、判断能力低下後などには指定した手続き代理人が受取ります。手続き代理人への定時払い額の上限は30万円で、その他の出費は三井住友信託銀行が資金使途を確認の上、支払います。使途は医療費、介護費、住居費、税金、社会保険料に限られ、請求書や領収書で確認します。身近に頼れるご親族がいない場合は、手続き代理人を弁護士や司法書士を指定することができます。また、「人生100年応援信託〈100年パスポートプラス〉」では、上記ワンパッケージの4つの信託機能に追加して、運用しながら将来の認知症や健康上の不安にそなえることができます。
他にも「民事信託(家族信託)」信託の活用も有効です。「民事信託(家族信託)」とは、信託銀行が引き受ける(受託者となる)信託ではなく、ご家族等に金銭や不動産などを信託し、代わりに管理・処分を行うことができる制度です。三井住友信託銀行の「民事信託サポートサービス」は、民事信託の組成コンサルティングや契約書作成支援を行った法律・税務の専門家と連携し、民事信託受託者(家族等)に対して、信託のために使う口座をはじめとする、金融・信託等の商品・サービスを提供しています。
契約が結べないリスクや万一の際へのそなえ
任意後見制度
将来判断能力が不十分な状態になった場合にそなえて、あらかじめ自らが選んだ代理人(任意後見人)に、ご自分の生活、療養介護、財産管理に関する事務について、代理権を与える契約(任意後見契約)のことです。こちらは、公正証書によって締結する必要があります。三井住友信託銀行の商品「任意後見制度支援信託」は、任意後見制度を利用される方の財産を金銭信託で管理することで、任意後見制度をサポートする商品です。任意後見契約が発効するまでの間は、ご自身または手続きを代理される方(代理人による手続きは委任状が必要)で一時払いや定時定額払いに関する手続きが可能です。発効後は、金銭信託からの払い戻しには任意後見監督人の同意が必要なため、安全・確実に財産の保護を図ることができます。
生命保険や遺言書
万一の際、誰に資産を渡したいかの意思を示す方法として生命保険や遺言書が有効です。生命保険は、死亡保険金受取人を指定することで「お金に宛名」をつけることができます。遺言書は、遺留分(一定の相続人について相続財産の一定割合を相続することが民法により保障されている制度)を考慮しておく必要はありますが、活用することで法定相続人以外(子の配偶者や事実婚のパートナーなど)にも資産を遺すことができ、かつ法定相続分と異なる財産分割も可能です。子どもがいない、寄付などの社会貢献をしたいなどの意思がある場合は、遺言書作成が特に有効といえます。遺言書は、遺言者の意思表示のみで法的効果を発生させる一方的な行為ですが、遺言書の内容は、相続人を始めとした利害関係人や社会公共の利益に大きな影響を与える可能性があります。このため、遺言書は、民法の定める方式で作成しなければ効力を生じない要式行為ですので注意が必要です。
元気な間に財産分与の意思や家族への想いを明確にしておく
財産分与の意思や家族への想いを明確にしておくには遺言書やエンディングノートが有効です。
エンディングノートには、家族をはじめ、介護や看護を担う人たちなどに自分がどういった人間なのか(性格や嗜好、趣味、大切にしてきたことなど)について記しておくのが良いでしょう。エンディングノートは別名「終活ノート」とも呼ばれていますが、人生の最期を迎えたときにのこされた人が困らないように、あなたの考えや想いを伝えるためにはとても有効です。これまでの人生を振り返ってご家族や周囲の方に伝えたいことを記載したり、やり残したことを明確にして、今後の人生をより充実したものにするきっかけにもなります。使用するエンディングノートによっては項目が用意されていることをもありますので、何を書けばよいかわからない場合には、項目が用意されているノートを使用するのも一つの方法です。記入した内容に法的拘束力はありませんし、作成にあたっての法的なルールもありません。“今はこう思っている”という気持ちを書いておくことが大切です。
認知症になった後に家族ができること
- 法定後見制度
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法定後見では家庭裁判所から選任されて「後見人・保佐人・補助人」となり、本人の代理で財産管理を行う制度です。家庭裁判所が後見人等を選任したら、法定後見が開始します。そして特別の事情がない限り、本人が死亡するまで続きます。既出の任意後見は、事前に任意後見人になる人と財産管理してもらう契約をし、本人の判断能力が低下したら、任意後見人が財産管理を行う制度です。一方で法定後見は、判断能力が低下してから、家庭裁判所に後見人等を選任してもらい、後見人等が財産管理等を行う制度です。法定後見と任意後見のうち、本人が認知症となり、判断能力が低下した場合に利用できるのは「法定後見」です。例えば認知症が進行して判断能力が衰えた人は、悪徳商法などの詐欺の被害を受けやすくなったり、預貯金の引き出しや契約ができなくなったりするなど、不利益を被る可能性が高まります。そのような状況下の人を、法的に保護する制度が「法定後見」です。法定後見は、本人の判断能力の程度により「後見」「保佐」「補助」の3つに分かれます。家庭裁判所から選任された後見人等には、類型によって「代理権」「同意権」「取消権」が与えられ、本人の利益のためのみ、与えられた範囲内で権限を使います。
法定後見制度の紹介
法定後見(補助、保佐、後見)の概要
補助 | 保佐 | 後見 | |
---|---|---|---|
本人の同意 | 必要 | 不要 | 不要 |
選任者 | 家庭裁判所 | ||
後見人の権限 | 家庭裁判所が審判した行為 | 全ての行為 | |
後見人ができる取消行為 | 家庭裁判所の審判が必要 | 全て(日常生活に関する行為を除く) |
さいごに
医療技術の発達等により、平均寿命が延伸している現在、人生100年時代を楽しむためにも何事も早めに準備をしておき、安心して健康で暮らすことが大切です。
三井住友信託銀行では、上記内容に限らず、お客さま一人ひとりに寄りそったご相談を承ります。どうぞお気軽にご相談ください。
三井住友信託銀行 個人企画部 岸田 浩平
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